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東北大、脳内の報酬のフィードバックが記憶を長期化することを発見
脳内の報酬のフィードバックが記憶を長期化する
【研究概要】
東北大学大学院生命科学研究科の市之瀬敏晴(日本学術振興会特別研究員)、山方恒宏助教、谷本拓教授らを中心とした研究グループは、ショウジョウバエの長期記憶形成に重要な脳内の神経接続を発見しました。
ハエの脳では、ドーパミンを放出する神経細胞が報酬を伝えますが、この細胞が自身のドーパミン信号のフィードバックを受けることによって、記憶が長期にわたって維持されることを明らかにしました。このフィードバックに関わる神経回路に機能不全を持つハエは、記憶が長続きしないことを実験的に証明しました。われわれヒトの脳でもドーパミンが脳の報酬情報に深く関わっています。本成果は、選択的な長期記憶障害のメカニズムのモデルとなります。本研究成果は、2015年11月17日付けでeLIFE誌(電子版)に掲載される予定です。本研究は文部科学研究費補助金、倉田記念日立科学技術財団、及び内藤記念科学振興財団研究助成金の支援を受けて行われました。
【研究内容】
一般に、長期に渡って情報を保存する「長期記憶」の形成のためには何度も反復学習を行う必要があります。しかし、毒、または食べ物といった生存に特に重要な情報は、一回の学習で長期記憶が形成されることがあることが知られています。
本研究グループは、ショウジョウバエを用いてこの神経回路メカニズムを解明しました。ショウジョウバエは、砂糖を報酬として用いた一回の匂い条件付け学習により長期記憶を形成します。これまでに、砂糖による報酬情報は特定のドーパミン神経を通してキノコ体と呼ばれる神経構造に伝達されることが明らかとなっていました。本研究は、キノコ体はドーパミン神経からの報酬情報を受け取るだけでなく、別の神経を介してドーパミン神経を制御する「フィードバック回路」を形成し、このフィードバック回路が長期記憶の形成と安定化に重要であることを見出しました。ショウジョウバエの遺伝学的手法により、特定の神経細胞を数細胞レベルで一時的に活動抑制し、その機能を探ることができます。砂糖と匂いを用いた報酬学習時において、上記のフィードバック回路を構成するコンポーネントのどれを抑制しても長期記憶の形成が著しく阻害されました。また、このフィードバック回路は学習時だけでなく学習直後にも重要であることがわかりました。これらの結果から、砂糖報酬という重要な情報がフィードバック回路によって一定時間「保持」され、それが長期記憶を形成・安定化することが示唆されます。
本研究は、科学研究費補助金、倉田記念日立科学技術財団、及び内藤記念科学振興財団研究助成金によってサポートされました。
※図は添付の関連資料を参照
【論文題目】
題目:Reward signal in a recurrent circuit drives appetitive long−term memory formation
掲載誌:eLIFE
著者:Ichinose T,Aso Y,Yamagata N,Abe A,Gerald M.R,Tanimoto H.