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農業生物研、「いもち病」に対する抵抗性誘導剤の効果が低温で発揮できない原因を解明

2015-11-21

「いもち病」に対する抵抗性誘導剤の効果が
低温で発揮できない原因を解明
−低温でもいもち病にかかりにくいイネの開発へ−


<ポイント>
 ・稲作で最も深刻な被害をもたらすいもち病は、糸状菌(カビ)によるイネの病気で、冷害により被害が大きくなります。
 ・低温になると、抵抗性誘導剤の効果が発揮できなくなる原因となる酵素が作られることが分かりました。
 ・その酵素を作る遺伝子の働きを抑制することで、低温でも抵抗性誘導剤の効き目があり、いもち病に強いイネを開発することができます。


○概要
 1. 稲作で最も深刻な被害をもたらすいもち病は、糸状菌(カビ)であるいもち病菌の感染によって引き起こされますが、低温多湿な条件で感染しやすく、冷害の年に大発生することがしばしばあります。
 2. いもち病の予防には、抵抗性誘導剤を散布することが有効です。しかし冷害の年は、抵抗性誘導剤を散布してもいもち病が大発生することが問題となっています。今回、農業生物資源研究所(生物研)は、いもち病に対する抵抗性誘導剤の効果が低温で発揮できない原因の分子メカニズムを解明しました。
 3. 抵抗性誘導剤はイネの病害抵抗性を高めるために必要な遺伝子を活性化することが明らかになっていました。今回、低温になると、その遺伝子の作る病害抵抗性を高めるタンパク質の働きを阻害する酵素が作られ、その結果、抵抗性誘導剤の効果が弱くなることが分かりました。
 4. この酵素が作られないイネを開発することにより、低温でも抵抗性誘導剤によりいもち病を効率良く防除することが可能となります。


 予算:農林水産省委託プロジェクト「新農業展開ゲノムプロジェクト」(平成20〜25年)、「ゲノム情報を活用した農産物の次世代生産基盤技術の開発プロジェクト」(平成25〜27年)

 特許:特開2015−128417


■開発の社会的背景
 稲作で最も深刻な被害をもたらす病害はいもち病です。いもち病は、糸状菌(カビ)であるいもち病菌の感染によって引き起こされますが、冷害の年には、低温によってイネいもち病の被害(図1、図2)が拡大することが知られています。具体的には、被害が大きかった1993年及び2003年の冷害年には、それぞれ7%および4%の米作がいもち病によって失われ、被害額は700億〜1200億円に上りました。
 いもち病の予防法として、抵抗性誘導剤の散布が有効であることが知られています。しかし、低温では、抵抗性誘導剤を散布しても、いもち病の被害が拡大します。その原因として、低温により、イネのホルモンであるアブシジン酸1)(ABA)が生じることが関係することが考えられましたが、はっきりとは分かりませんでした。


■研究の経緯
 生物研はこれまでに、抵抗性誘導剤により、イネの抵抗性を高める遺伝子が活性化されることや、この遺伝子の働きが強いイネ品種を作出すると、いもち病を含む複数の病気に強くなることを明らかにしてきました。そこで、低温により抵抗性誘導剤の効果が弱くなる原因を解明するために、低温がこの働きに与える影響について調べました。


■研究の内容・意義
 1)生物研のこれまでの研究で、抵抗性誘導剤により活性化され、イネの抵抗性を高める遺伝子が作るタンパク質は、いもち病抵抗性を発揮するためにはリン酸化2)されることが必要であることが分かっていました。

 2)今回の研究で、低温やABAにより、そのリン酸化が起こらなくなることが分かりました。また、低温になると、このリン酸化を阻害する酵素ができることが分かりました。

 3)次に、この酵素を作る遺伝子を抑制(10%以下に)すると、抵抗性誘導剤を散布した後、低温でもほとんどいもち病菌が増殖せず、葉でのいもち病菌の増殖程度は、普通のイネに比べて100分の1以下でした。(図3)。一方、普通のイネは、抵抗性誘導剤を投与しても、低温ではいもち病菌に感染し、その大幅な増殖が観察されました。


■今後の予定・期待
 現在、低温でも抵抗性誘導剤の効き目があり、いもち病に強くなるイネの開発を目指して、この酵素を全く作れないイネの作出に取り組んでいます。


■発表論文
 Yoshihisa Ueno,Riichiro Yoshida,Mitsuko Kishi−Kaboshi,Akane Matsushita,Chang−Jie Jiang,Shingo Goto,Akira Takahashi,Hirohiko Hirochika,Hiroshi Takatsuji(2015)Abiotic stresses antagonize the rice defence pathway through the tyrosine−dephosphorylation of OsMPK6.PLOS Pathogens doi:10.1371/journal.ppat.1005231.


■用語の解説
 1)アブシジン酸(ABA)
  低温などの環境変化に応答して増加する植物ホルモンで、低温耐性に関係している。

 2)リン酸化
  生体内で、タンパク質の特定のアミノ酸に、リン酸が付いたり取り除かれたりすることで、タンパク質の機能が活性化されたり、機能を失ったりする。


■参考図

 *図1〜3は添付の関連資料を参照



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