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東北大、近赤外光による神経細胞活動のオン・オフ制御に成功

2015-11-14

レアメタル・ナノ粒子の光で脳細胞を活性化
近赤外光信号によるオン・オフ制御の実現


【研究概要】
 東北大学大学院生命科学研究科の八尾寛教授らの研究グループは、ラット脳の神経細胞活動のオンオフを近赤外光(*1)により制御することに成功しました。光感受性機能タンパク質を神経細胞に作らせ、光のオン・オフで神経細胞の活動をコントロールする技術は、光遺伝学(オプトジェネティクス)とよばれ、生きている動物の狙った神経細胞の活動だけを、自由自在に変化させることができ、脳機能研究に大きな革新をもたらしてきました。しかし可視光は生体組織において吸収され、減衰してしまうため、脳の中まで信号を送ることは難しく、光ファイバーなどを脳の奥深く差し込む必要がありました。一方、近赤外光は、可視光に比べ組織透過性に優れているので、体表から脳の中まで信号を送ることができます。しかし、この信号を受け取る仕組みが今までありませんでした。本研究グループは、可視光に高感度のチャネルロドプシン(*2)とランタニドナノ粒子(*3)(レアメタル元素からなる。近赤外光を吸収し、青、緑、赤などの可視光を発光する性質を持つ)を組み合わせることで、近赤外光による神経細胞活動のオン・オフ制御に成功しました。本研究は、ともに最先端のナノ科学と生命科学の融合の成果です。この研究成果は、間もなく、自然科学・臨床科学の総合オンライン誌Scientific Reportsに掲載されます(11月10日(火)19時予定【日本時間】)。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)などの支援を受けて行われました。


【研究内容】
 チャネルロドプシンなどの光感受性機能タンパク質を神経細胞に作らせ、光のオン・オフで神経細胞の活動をコントロールする技術は、光遺伝学(オプトジェネティクス)とよばれ、生きている動物のねらった神経細胞の活動だけを、自由自在に変化させることができることから、この10年間に、脳機能研究に大きな革新をもたらしてきました。また、視覚再建をはじめ、さまざまな神経疾患の治療につながる技術として注目されています。しかし、可視光は大半が生体組織において吸収され,減衰してしまいます。これに対し,近赤外光は生体組織による吸収が低いので,この帯域は「生体の窓」と呼ばれ,生体深部での光操作には理想的であるとされてきました。しかし、近赤外光信号を神経細胞に伝える方法が、これまでありませんでした。研究チームは、レアメタル元素からなる結晶体のランタニドナノ粒子の、近赤外光エネルギーを吸収し,青、緑、赤などの可視光を発光する性質(アップコンバージョン(*4))に注目し、ランタニドナノ粒子をドナーとして近赤外光エネルギーを可視光に変換し,チャネルロドプシンなどの光感受性タンパク質をアクセプターとして神経細胞活動を制御するシステムを考案し、実験的に動作確認することに、世界に先駆けて成功しました(図)。具体的には、植物プランクトンの一種ボルボックスから得られた高感度のチャネルロドプシンを発現したラット大脳皮質ニューロンをランタニドナノ粒子の近くに置き、近赤外レーザーを照射したところ、レーザーパルスのオン・オフに同期して活動電位の発生が制御されました。アップコンバージョン効率やチャネルロドプシン感度の改良などにより、生体深部の近赤外光操作が実用化されることが期待されます。

 ※図は添付の関連資料を参照


 本研究は、東北大学大学院生命科学研究科、医学系研究科附属創生医学応用センター脳神経科学コアセンターと、東京工業大学、名古屋大学、岩手大学の共同で行われました。また、本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
 ・日本学術振興会(JSPS)科研費・特別研究員奨励費(13J06372)「光遺伝学プローブによるシナプス除去の分子メカニズムの解明」研究代表者:細島頌子(東北大学生命科学研究科・ポスドク)
 ・科学研究費・新学術領域研究(25115701)「樹状突起における情報処理ダイナミクスの解析」研究代表者:八尾寛(東北大学大学院生命科学研究科・教授)
 ・科学研究費・基盤研究(A)(25250001)「触覚パターン時空間認知の神経回路機構の光遺伝学的研究」研究代表者:八尾寛(東北大学大学院生命科学研究科・教授)
 ・科学研究費・挑戦的萌芽研究(25670103)「イオン透過性・細胞内局在において多様なチャネルロドプシンの創出」研究代表者:八尾寛(東北大学大学院生命科学研究科・教授)
 ・科学研究費・挑戦的萌芽研究(15K15025)「アップコンバージョン効果による近赤外オプトジェネティクス」研究代表者:八尾寛(東北大学大学院生命科学研究科・教授)
 ・科学研究費・新学術領域研究(15H01413)「発達期神経回路再編成の定量コネクトミクス解析」研究代表者:八尾寛(東北大学大学院生命科学研究科・教授)
 ・科学研究費・基盤研究(B)(25290002)「イオン選択性に優れた次世代チャネルロドプシンの創出とオプトジェネティクスへの応用」研究代表者:石塚徹(東北大学大学院生命科学研究科・講師)
 ・科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」研究領域:「中枢神経系局所回路の状態遷移としての動的情報変換の解明」研究代表者:虫明元(東北大学大学院医学系研究科・教授)
 ・科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業/日本医療研究開発機構(AMED)医療分野研究成果展開事業・産学共創基礎基盤研究プログラム(CREST)「5−アミノレブリン酸(5−ALA)とランタニドナノ粒子(LNP)併用による深部微小癌局在診断技術の構築」研究代表者:大辻英吾(京都府立医科大学医学研究科・教授)
 ・独立行政法人医薬基盤研究所(NIBIO)/日本医療研究開発機構(AMED)先駆的医薬品・医療機器研究発掘支援事業【プロジェクトID:10−06】「遺伝子導入による視覚再建研究」研究代表者:冨田浩史(岩手大学・工学部応用化学生命工学科・教授)


【用語説明】
 *1 近赤外光
  波長がおよそ650.1450nmの電磁波で、赤色の可視光線に近い波長を持つ。性質も可視光線に近い特性を持つため「見えない光」として、赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている。

 *2 チャネルロドプシン
  光受容とイオンチャネルの機能を併せ持っている微生物型ロドプシンタンパク質の総称。緑藻類の一種クラミドモナスから得られたチャネルロドプシン2がよく用いられる。

 *3 ランタニドナノ粒子
  一般にレアメタルと総称されるランタニド系列の元素の結晶体で、他の元素が添加されることにより、光学的に多様な機能が付加される。

 *4 アップコンバージョン
  蛍光色素などの蛍光体は、エネルギーの大きな光子を吸収し、エネルギーの小さい光子を放出する。その結果、発光の波長が赤方偏移する。これに対し、エネルギーの小さな光子を吸収し、エネルギーの大きな光子を放出する現象をアップコンバージョン(up−conversion)という。


【論文題目】
 題目:Near−infrared(NIR)up−conversion optogenetics
 著者:Shoko Hososhima,Hideya Yuasa,Toru Ishizuka,Mohammad Razuanul Hoque,Takayuki Yamashita,Akihiro Yamanaka,Eriko Sugano,Hiroshi Tomita and Hiromu Yawo
 雑誌:Scientific Reports
 Volume Page:5,16533
 DOI:10.1038/srep16533



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