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理研、高機能水素標的装置「MINOS」で鉄同位体のガンマ線分光に成功

2015-11-10

重いクロム・鉄同位体に広がる変形領域
−日仏共同開発の高機能水素標的装置「MINOS」を使った初の成果−


■要旨
 理化学研究所(理研)仁科加速器研究センター上坂スピン・アイソスピン研究室のクレメンティーヌ・サンタマリア客員研究員、アレクサンドレ・オベルテッリ客員研究員、上坂友洋主任研究員、櫻井RIビーム物理研究室のピーター・ドルネンバル研究員、櫻井博儀主任研究員らを中心とするSEASTAR(シースター)国際共同研究グループ[1]は、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」[2]を利用し、生成が難しく従来不可能だった放射性同位元素(RI)[3]に対する実験を実現し、中性子過剰クロム (66)Cr(元素番号24、中性子数42)、鉄同位体(70,72)Fe(元素番号26、中性子数 44,46)のガンマ線分光[4]に成功しました。ガンマ線分光の結果から中性子数40で見つかっている変形が、さらに中性子数の大きい領域まで広がっていることが明らかになりました。これは、フランス原子力代替エネルギー庁サクレー研究所と理研を中心とした日仏共同グループが開発した高機能水素標的装置「MINOS(ミノス)[5]」を用いた初めての成果です。

 現在の原子核物理学では、中性子数と陽子数のバランスが極端に崩れたRIを人工的に作り、新たな性質を見いだす研究が主流となっています。これまでの研究から、同分野の常識を大きく覆す発見がいくつもなされてきましたが、最も重要な発見の1つが、中性子過剰マグネシウム同位体(32)Mg(元素番号12、中性子数20)で発見された中性子数20での魔法数[6]消失現象です。魔法数の消失と、それに誘起されて異常変形が生じる(32)Mg領域はのちに「反転の島」[7]と呼ばれ、多くの原子核研究者の注目を集めました。さらに2013年にはRIBFでの研究により、(32)Mgより中性子過剰側にも異常変形領域が広がっていることが明らかになりました。この領域で起きている大きな構造変化がマグネシウム周辺だけで生じるものなのか、それともより多くの元素で生じる一般的な現象なのか、という疑問が世界の研究コミュニティから投げかけられ、その実験的検証が待たれていました。

 国際共同研究グループは、RIBFで核子当たり345 MeV(光速の約70%)まで加速した大強度ウラン((238)U:元素番号92、中性子数146)ビームを用いて、鉄周辺の中性子過剰同位体(天然に存在する原子核に比べ著しく中性子の比率が大きい原子核)を人工的に生成し、実験を行いました。RIビームをMINOSに照射し、水素原子核との反応で生じたガンマ線を高効率ガンマ線検出器(DALI2)により検出し、核構造変化の指標となることが良く知られている第一・第二励起状態[8]のエネルギー決定に成功しました。

 実験結果から、(66)Crと(70,72)Feの第一励起状態のエネルギーが、中性子数40、42を持つ同位体とほぼ同じであり、中性子数40で見つかっている変形がさらに中性子数の大きい領域まで広がっていることが明らかになりました。このように同様の変形が広い中性子数領域に広がる現象は、中性子数20−26のマグネシウム同位体で見つかっているものと非常に似ており、重いマグネシウム領域で生じている大きな核構造変化が、他の元素領域でも起きているという証拠が得られました。本成果は原子核構造の統一的理解を図るうえで重要な成果であり、今後この現象が中性子魔法数50まで広がっているのかなど、さらに測定の領域を広げた検証実験の実現が期待できます。同時に、本研究でMINOSの有効性が実証されました。今後、日仏を中心としたMINOS共同研究によって不安定核の分光研究が大きく発展すると期待できます。

 本研究は理研戦略的研究展開事業の支援を受けて実施され、成果は米国の科学雑誌『Physical Review Letters』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(11月3日付け:日本時間11月4日)に掲載されます。


 *オリジナルリリースは添付の関連資料を参照



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