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九大、免疫細胞が自分自身を攻撃しないために必要な新たな仕組みを発見

2015-11-10

免疫細胞が自分自身を攻撃しないために必要な新たな仕組みを発見
−自己免疫疾患の発症機構の解明に期待−


■概要
 九州大学生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、同大学院生の柳原豊史らの研究グループは、T細胞(※1)と呼ばれる白血球が、自分の身体を攻撃しない「免疫寛容」という機能を獲得するために必要な新たな仕組みを発見しました。
 免疫反応が本来攻撃しないはずの自己組織に向けられると、自己免疫疾患(※2)が発症します。
 この自己組織への攻撃をしないようにT細胞を教育する場所が胸腺と呼ばれる組織ですが、どのような仕組みでこの教育が行われているのか、解明されていませんでした。
 研究グループは、胸腺を形作りT細胞を教育する役割を持つ、胸腺上皮細胞に発現しているJmjd6というタンパク質に注目し、その役割を解析しました。その結果、Jmjd6がないとAire(※3)という、免疫寛容を誘導する役割を持つタンパク質の発現が著しく抑制されることを見出しました。更に詳細な解析の結果、Jmjd6が従来知られている制御方法とは異なり、イントロン残存(※4)という転写後の調節を介して、Aireタンパク質の発現レベルをコントロールしていることを突き止めました。この知見により、自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進することが期待されます。
 本研究成果は、2015年11月4日(水)午前10時(英国時間)に英国科学雑誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されます。


■背景
 免疫反応は病原体や異物の侵入、あるいはがん細胞から自分の身体を守るために必要な仕組みです。
 例えばハシカに一度かかると二度とかからないのも、免疫が働いているおかげです。しかし、免疫反応が過剰な反応をしたり、守るはずの自己組織を攻撃したりすると、アレルギーあるいは自己免疫疾患の原因となります。自己組織を攻撃しないようにT細胞を教育する場所が胸腺と呼ばれる組織ですが、どのような仕組みで行われているのか、解明されていませんでした。
 Jmjd6は広義の酸化還元反応を司るタンパク質です。近年、Jmjd6はタンパク質のリジン残基を水酸化する酵素として働くことが報告されています。しかしながら、Jmjd6欠損マウスは生後直後に死んでしまうので、生体における機能は長らく不明でした。


■内容
 研究グループは、胸腺を形作りT細胞を教育する役割を持つ胸腺上皮細胞に、Jmjd6が発現していることを見出しました。そこで、胸腺上皮細胞における機能を調べるために、Jmjd6を発現しないように遺伝子操作したマウス(Jmjd6ノックアウトマウス)の胎児から胸腺を取り出し、胸腺のないヌードマウスに移植して解析しました。Jmjd6を欠損した胸腺を移植したヌードマウス(ヌードJmjd6欠損型と呼ぶ)では、野生型の胸腺を移植したヌードマウス(ヌード野生型と呼ぶ)と同様に、身体のリンパ組織には分化したT細胞が出現していました(図1)。
 しかしながら興味深いことに、ヌードJmjd6欠損型は胃や唾液腺、膵臓といった多臓器に炎症細胞が浸潤していました(図2A)。更にはヌードJmjd6欠損型の血液中には、自己の組織に反応する自己抗体が存在しており(図2B)、自己免疫疾患を発症していました。さらに詳しく解析したところ、Jmjd6欠損した胸腺では、胸腺上皮細胞の成熟は野生型と変わらないものの、免疫寛容誘導に重要なAireタンパク質の発現が著しく低下していることを見出しました(図3)。そこで、そのメカニズムを探索したところ、Jmjd6がないと、Aireのイントロン2が残存する傾向にある事が分かりました(図4)。このイントロン残存により終止コドン(タンパク質合成を終了させる働きを持つ塩基配列)が途中で出現するため、成熟したAireタンパク質が出来ないのです。


■今後の展開
 現在でも、自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります。今回の発見により、今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に、今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が、生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます。


 *図1〜5は添付の関連資料を参照


<用語解説>
 (※1)T細胞:白血球の一種で、免疫応答の司令塔としての役割を持つ。胸腺(thymus)で分化・選択されるため、頭文字を取ってT細胞と名付けられた。異物を見つけたT細胞は活性化し、他の専門的な白血球の細胞に司令を出したり、直接異物を排除したりする。

 (※2)自己免疫疾患:異物を認識し排除するための免疫系が、自己の細胞や組織に対して過剰に反応し攻撃してしまうことで症状を起こす疾患の総称。関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病や、潰瘍性大腸炎クローン病などの炎症性腸疾患も含まれる。

 (※3)Aire(Autoimmune regulator):胸腺髄質上皮細胞に発現している、核内転写因子。身体の様々な細胞・組織で発現している組織特異抗原の発現を胸腺髄質上皮細胞で誘導し、それに強く反応する自己反応性T細胞を細胞死に導くことで除去する役割を持つ。

 (※4)イントロン:DNAから転写されるが、最終的に機能する転写産物から除去される塩基配列で、タンパク質に翻訳されない。一方、転写された後に除去されず、最終的にタンパク質に翻訳される部位をエクソンと呼ぶ。また、DNAからの転写過程において、部位・組み合わせが異なった転写産物を作ることを選択的スプライシングと呼び、「イントロン残存」は選択的スプライシングの種類の1つで、最も頻度の低い形態。


■論文名
 “Intronic regulation of Aire expression by Jmjd6 for self−tolerance induction in the thymus”
 (Jmjd6は胸腺において、イントロンによるAireの発現制御を介して自己免疫寛容を誘導する)
 雑誌名:Nature Communications
 doi:10.1038/NCOMMS9820



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