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東邦大、統合失調症の発症形式が未治療期間と機能予後に与える影響を解明

2015-10-29

統合失調症の発症形式が未治療期間と機能予後に与える影響を解明
統合失調症の新たな治療戦略の構築へ〜


 東邦大学医学部精神神経医学講座の水野雅文教授、根本隆洋准教授、辻野尚久講師、同社会医学講座の長谷川友紀教授、伊藤慎也大学院生、東北大学大学院の松岡洋夫教授ら、富山大学大学院の鈴木道雄教授ら、長崎大学大学院の小澤寛樹教授ら、高知大学の下寺信次准教授ら、および奈良県立医科大学の岸本年史教授らの共同研究グループは、統合失調症の機能予後が、発症形式の差異(急性発症と潜行性発症)とその後の受診行動により大きく影響を受けていることを発見しました。
 なお、本研究成果は、2015年10月24日に欧州精神医学会(EuropeanPsychiatry Association)誌「European Psychiatry」に掲載されました。


1.発表者 水野雅文(東邦大学医学部精神神経医学講座・主任教授)


2.発表のポイント
 ◆統合失調症の発症形式の差異(急性発症と潜行性発症)(注1)が受診行動に違いを生じ、機能予後にも影響を与えていることを発見した。
 ◆統合失調症の発症形式の違いは、新たなサブエンティティとして認識され、病態・病因解明の研究を進める意義を示唆している。
 ◆統合失調症の予防・治療にあたり、発症形式の違いにより症状形成にも影響を与える可能性があることを示唆している。


3.発表概要
 東邦大学医学部精神神経医学講座の水野雅文教授、根本隆洋准教授、辻野尚久講師、同社会医学講座の長谷川友紀教授、伊藤慎也大学院生、東北大学大学院の松岡洋夫教授ら、富山大学大学院の鈴木道雄教授ら、長崎大学大学院の小澤寛樹教授ら、高知大学の下寺信次准教授ら、奈良県立医科大学の岸本年史教授らの共同研究グループは、統合失調症の機能予後が、発症形式の差異(急性発症と潜行性発症)とその後の受診行動により大きく影響を受けていることを発見しました。

 統合失調症は様々な病態や症状の特徴を持つ疾患が集まった症候群です。発症の形式にも差異があり、急性発症の方が潜行性発症よりもDUP(注2)が短いことが指摘されていました。またDUPが機能予後に与える影響については、その関連を支持する研究と否定する見解が報告されていました。本研究では日本人の統合失調症の初発症例を6大学の多施設共同研究を組んで18ヶ月にわたり追跡し、およそ170例の症例の前向き縦断研究により発症形式を考慮した上で、DUPと機能予後の関連を検討しました。その結果、急性発症群は潜行性発症群よりもDUPが短く、潜行性発症群ではDUPが長いほど認知機能、社会機能、QOLにおいて予後が不良であり、潜行性という発症形式が18か月後の認知機能に強く影響していることが見出されました。これにより、早期発見、早期治療の重要性が一層明らかになるとともに、潜行性に発症する統合失調症について、さらなる病態研究を進めることが疾患の予防や治療効果に貢献することが示唆されています。

 本研究成果は、2015年10月24日に欧州精神医学会(European PsychiatryAssociation)誌「European Psychiatry」に公開されました。なお本研究は厚生労働省科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業「精神疾患に対する早期介入とその普及啓発に関する研究」(研究代表者 水野雅文)などの助成を受けて行われました。


4.発表内容

<研究の背景>
 統合失調症は思春期以降に発症し、幻覚・妄想といった陽性症状、意欲低下、感情鈍麻などの陰性症状、さらには認知機能障害などを特徴とする疾患で、有病率はどの民族でもおよそ100人に1人とされ、日本でも受診中の患者だけでも約80万人いると言われており、決して稀な疾患ではありません。
 ところが統合失調症をはじめとする精神疾患は、病気そのものへの自覚がつきにくく、また偏見に基づく受診のし辛さから、発病後の治療の遅れが指摘されています。その間にも病態は進行し、脳形態の変化や機能低下が進むことはエビデンスをもって示されています。統合失調症の病態や病因は未解明の点が多く、薬物療法をはじめとする治療法の開発も近年手詰まり感がぬぐえません。その突破口としても、統合失調症の病態の理解のための新たな視点が必要とされています。
 発病後の治療の遅れを精神病未治療期間(Duration of Untreated Psychosis,DUP)と呼び、DUPの短縮がより良い予後のためには必須の条件とされています。発症の形式の違いなど更なるサブエンティティの確立とそれぞれの治療戦略の開発が重要です。


<研究の詳細>
 統合失調症における発症形式と経過は個々多様ですが、発症形式がDUPやその後の機能レベルに影響を及ぼしうることが指摘されてきました。発症形式を考慮に入れた上で、DUPと臨床的特徴の関連を縦断的に検討することが本研究の目的です。
 2008年7月から2011年3月にかけて、本邦6地域の14病院において、初回エピソード統合失調症患者に対する18ヶ月間にわたる前向き縦断的追跡調査が実施されました。168名が研究対象基準に合致し、そのうち156名(92.9%)においてDUPと発症形式が同定されました。急性発症患者79名と潜行性発症患者77名の2群に分けて詳細な解析と検討が行われました。平均DUPは急性発症群8.98か月、潜行性発症群33.72か月、中央値は急性発症群1.10か月、潜行性発症群9.00か月で、いずれも統計学的に有意な差をもって、潜行性発症患者におけるDUPがより長いことが明らかになりました。潜行性発症群では追跡の各時点(6,12,18か月)において、DUPと認知機能、社会機能、QOLとの間に有意な相関を認めました。一方、急性発症群においてはDUPと臨床的指標の間にほとんど有意な相関を認めませんでした。また18か月後の認知機能の予測因子として、急性発症群では病前機能が、潜行性発症群ではDUPと追跡開始時の陰性症状が、それぞれ統計学的に有意な差をもって抽出されました。
 本研究により、特に潜行性の発症形式を有する患者群において、DUPすなわち治療開始の遅れが長期にわたり機能レベルに影響を及ぼすことが明らかにされました。急性発症に比べて治療に結びつきにくい潜行性発症の患者を、より早期に発見し有効な治療につなげる方法や戦略の開発を行うことが、統合失調症の予後を改善し充分な回復に導くために不可欠であると考えられました。


<社会的意義>
 日本の精神科医療システムは、これまで精神科病院での入院治療が中心であり、早期発見・早期治療により地域で治療しケアし、社会復帰を目指すという視点に欠けていました。また、受診行動や社会環境との相互作用を考慮に入れるべき認知機能への影響に関しては、これまで日本人の統合失調症患者における臨床疫学的研究は少ないものでした。
 わが国における実態の認識と普及啓発のための基礎資料としても、今回の結果はこれまで以上に、精神疾患においても早期治療が回復可能性を高める重要な要因であることが示されました。
 今後統合失調症を理解し、新たな治療法を追及するにあたり、発症形式のサブタイプによる受診行動や機能予後の違いを明確に示した本研究成果は、今後の予防や早期治療方法に関する研究の扉を開くものとなることが期待されます。


5.発表雑誌
 雑誌名:European Psychiatry
 掲載巻頁:30(2015),pp.995−1001
 論文タイトル:Differential impacts of duration of untreated psychosis(DUP)on cognitive function in first−episode schizophrenia according to mode of onset.
 DOI:information:10.1016/j.eurpsy.2015.08.004
 著者:Shinya Ito,Takahiro Nemoto,Naohisa Tsujino,Noriyuki Ohmuro,Kazunori Matsumoto,Hiroo Matsuoka,Kodai Tanaka,Shimako Nishiyama,Michio Suzuki,Hirohisa Kinoshita,Hiroki Ozawa,Hirokazu Fujita,Shinji Shimodera,Toshifumi Kishimoto,Kunichika Matsumoto,Tomonori Hasegawa,Masafumi Mizuno


6.用語解説

注1)発症形式 急性発症と潜行性発症
 WHO(世界保健機構)などの調査研究では、精神病症状の発現形式を、突発性発症:顕著な行動変容から数日以内に明らかな精神病状態に至った場合、急性発症:顕著な行動変化から1月以内に明らかな精神病状態に至った場合、潜行性発症:顕著な行動変化から1ヶ月以上経過してから明らかな精神病状態に至った場合と分類している。
 本研究では、顕著な行動変容から1か月以内に明らかな精神病症状に至った者を急性発症と突発性発症を合わせて急性発症群、それより時間がかかった場合を潜行性発症群とした。

注2)DUP Duration of Untreated Psychosis(精神病未治療期間)
 幻覚や妄想など、明らかな陽性症状に示される精神病状態が始まった時点から、精神科医など専門家と継続的な治療関係が結ばれるまでの期間のこと。この期間は治療開始の遅れを意味しており、例えば齲歯(虫歯)が痛みだしてから歯医者を受診する期間などを想像すれば理解しやすい。精神疾患の場合、疼痛を生じるような齲歯とは異なり、自らの症状を病的体験として自覚することがしばしば困難である。


<説明図>

 ※添付の関連資料を参照


以上




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