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慶大、リンパ腫やアレルギー性接触皮膚炎に関係する皮膚リンパ球の制御メカニズムを解明

2015-10-23

リンパ腫やアレルギー性接触皮膚炎に関係する皮膚リンパ球の制御メカニズムを解明


 皮膚には普段から多くの免疫細胞がスタンバイし、外敵の侵入等に備えています。特にT細胞と呼ばれるリンパ球(注1)は、血中よりも皮膚の方が2倍多く存在しています。一方で、皮膚のリンパ球は様々な皮膚疾患に関連し、特に皮膚のリンパ腫やアレルギー性皮膚疾患の患者皮膚にはリンパ球が通常よりも多数存在していることが古くから知られています。しかし、リンパ球がどのように皮膚で生存し続けられるのか、その基本的なメカニズムは現在まで解明されていませんでした。
 この度、慶應義塾大学医学部皮膚科学教室と米国National Institutes of Healthの永尾圭介博士(元慶應義塾大学医学部専任講師)との研究グループは、毛を作る組織である毛嚢(注2)の細胞がサイトカイン(注3)の一種であるインターロイキン7(IL−7)、インターロイキン15(IL−15)と呼ばれるタンパク質を産生し皮膚のT細胞の生存を制御していること、さらにT細胞が悪性化してリンパ腫細胞となった後でも毛嚢由来のIL−7に依存し続けることをマウスを用いて解明し、実際に皮膚リンパ腫の患者皮膚でも、IL−7およびその受容体が発現し、マウスと同じメカニズムが働いている事が示唆されました。これらの知見は、皮膚の免疫システムの制御における重要なメカニズムを解明しただけでなく、皮膚リンパ腫やT細胞によって引き起こされる皮膚疾患の新たな治療開発につながることが期待されます。
 本研究成果は2015年10月19日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Nature Medicine」電子版で発表されます。


1.研究の背景・目的
 毛嚢は哺乳動物の皮膚にのみ存在し、物理的バリア、体温調節等様々な役割を担います。本研究チームは以前の研究で、毛嚢が外的刺激(ストレス)に反応してケモカイン(注4)と呼ばれるタンパク質を産生することで、皮膚の免疫細胞の一種である樹状細胞(注5)の交通整理を行うことを見いだしました。この研究により、毛嚢が免疫臓器として皮膚のリンパ球の恒常性制御の中心的役割を有するのではないかと考えるようになりました。
 そこで今回、本研究チームは毛嚢に焦点を当てて、皮膚のT細胞の生存メカニズムの解析を行うこととしました。


2.研究の概要
 マウスを用いて皮膚のT細胞を解析したところ、CD4陽性T細胞(注6)、CD8陽性T細胞(注7)が主として毛嚢の内部および周囲に存在することが観察されました(図A)。以前の研究で、毛嚢は部位によって異なる役割を担っていることが知られていたことから、毛嚢を5つの部位に分離した上で、サイトカインの遺伝子発現解析を行ったところ、漏斗部(ろうとぶ)と峡部(きょうぶ)という特定の部位でIL−7とIL−15というT細胞の生存に関連したサイトカインが産生されることが分かり、T細胞が多く存在する部位と一致していました。遺伝子改変マウスを用いて追加解析を行い、毛嚢由来のIL−7はCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の両方の生存に、IL−15はCD8陽性T細胞の生存に重要であることが確認されました(図B)。
 T細胞が皮膚に入り込み、そこに在住する性質は、皮膚のT細胞が悪性化した疾患である皮膚T細胞リンパ腫(注8)のリンパ腫細胞に非常に類似していました。このため、皮膚T細胞リンパ腫があるマウスモデルを新たに作製し、解析を行ったところ、毛嚢由来のIL−7がない状態ではリンパ腫細胞が減少し、皮膚リンパ腫の症状がなくなることが観察されました。
 実際に、ヒトの皮膚T細胞リンパ腫を解析すると、毛嚢がIL−7を強く発現しており、その周囲にリンパ腫細胞が多数集まっていました。また、これらリンパ腫細胞はIL−7受容体を多く発現していることが確認できました。以上のことから、ヒトにおいても毛嚢由来のサイトカインが皮膚T細胞リンパ腫の病態において重要な役割を担っていることを同定しました。
 アレルギー性接触皮膚炎(いわゆる「かぶれ」)もT細胞によって引き起こされることが知られています。毛嚢のIL−7とIL−15が無い状態ではアレルギー性接触皮膚炎が減弱するため、アレルギー性皮膚疾患においても毛嚢由来のサイトカインが重要な役割を果たしていることが分かりました。

 ※図は添付の関連資料を参照


3.研究の意義
 本研究では、これまで知られていなかった免疫臓器としての毛嚢の役割を明らかにしました。本研究チームが以前報告した樹状細胞の交通整理の役割だけでなく、皮膚のT細胞の生存もコントロールする毛嚢は、外界との最外層のバリアである皮膚の免疫を調節する中心的な役割を担っていると言えます。
 また、T細胞による皮膚疾患である、皮膚T細胞リンパ腫やアレルギー性接触皮膚炎において、毛嚢や皮膚由来のサイトカインが重要な役割を担うことも明らかになりました。これらの皮膚疾患だけでなく、広く皮膚の免疫を理解する上で基盤となる重要な知見が得られたと考えられます。


4.今後の発展
 本研究では、毛嚢由来のサイトカインの働きに着目して解析しましたが、サイトカインの産生がどのように制御されているのかはまだ分かっていません。サイトカインの量を減らすことができれば、病気を引き起こす皮膚のT細胞の減少を通じて、炎症やリンパ腫の症状を抑えることが可能となります。一方で、サイトカインの量を増やすことができれば、感染症などを予防する上で望ましいT細胞の増加等によって、新しいワクチンの開発にもつながる可能性があります。


5.特記事項
 本研究は、主に以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 ■MEXT/JSPS科研費(21229014,21689032,24390227)
 ■かなえ医薬振興財団 研究助成金
 ■JSID"s Fellowship Shiseido Award
 ■National Institutes of Health (NIH) NCI Intramural Research Programs


6.論文について
 ・タイトル(和訳):“Hair follicle−derived IL−7 and IL−15 mediate skin−resident memory T cell homeostasis and lymphoma”(皮膚在住型メモリーT細胞の恒常性及びリンパ腫を毛嚢由来のIL−7とIL−15が制御する)
 ・著者名:足立剛也、小林哲郎、杉原英志、山田健人、生田宏一、Stefania Pittaluga、佐谷秀行、天谷雅行、永尾圭介
 ・掲載誌:「Nature Medicine」電子版


【用語解説】
 (注1)リンパ球
 特定の抗原に対する強力な免疫反応である獲得免疫を担う、免疫細胞の主役。

 (注2)毛嚢
 毛を産生する皮膚の付属器。哺乳動物の定義の一つである。

 (注3)サイトカイン
 免疫・炎症に関与するタンパク質の総称。

 (注4)ケモカイン
 サイトカインの一群で、白血球を呼び寄せ炎症を起こす。

 (注5)樹状細胞
 獲得した抗原をT細胞などの他の免疫細胞に提示する、免疫細胞の中心的な細胞。

 (注6)CD4陽性T細胞
 様々な種類のサイトカインを産生し、他のリンパ球の機能・活性を制御したり、リンパ球以外の免疫細胞の活性化を手助けしたりする。またの名をヘルパーT細胞。

 (注7)CD8陽性T細胞
 活性化すると、ウィルス感染細胞やがん細胞など異物になる細胞を認識して破壊する。またの名をキラーT細胞。

 (注8)皮膚T細胞リンパ腫
 皮膚に生じる悪性リンパ腫の一群で、リンパ球のうちT細胞由来の細胞が腫瘍化する。





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