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慶大、高脂血症治療薬スタチンが急性腎障害を軽減するメカニズムを解明

2015-10-21

高脂血症治療薬スタチンが
急性腎障害を軽減するメカニズムを解明
−iPS細胞の誘導因子KLF4の新たな作用を発見−


 急性腎障害は、敗血症や心血管手術後などに頻繁に生じる合併症です。疫学調査では、病院の集中治療室の入院患者においては10%以上に急性腎障害が認められ、その生存率はほぼ50%と報告されています。しかしながら現在のところ、急性腎障害に対する有効な治療薬は確立していません。
 今回、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターの林松彦教授、吉田理専任講師らは、高脂血症治療薬のスタチン(注1)が急性腎障害を軽減すること、さらにスタチンの効果は転写因子KLF4が作用していることをマウスモデルを用いて解明しました。KLF4は再生医療に用いられるiPS細胞の作製に必要な4因子のうちの1つですが、今回その新たな役割を明らかにしました。
 今後、ヒトにおいて急性腎障害に対するスタチンの有効性を検証していくことが期待されます。また、KLF4が腎障害を抑制することが明らかになったことで、KLF4を標的とした新たな治療薬の開発も期待されます。
 本研究成果は、2015年10月15日(米国東部時間)に米国腎臓学会雑誌「Journal of the American Society of Nephrology」オンライン版に掲載されます。


1.研究の背景
 急性腎障害は、敗血症や心血管手術後などに頻繁に生じる合併症で、その発症・進展には、腎臓の血管内皮細胞や尿細管細胞、さらには炎症に関係する好中球やリンパ球、マクロファージなどが関わっていることが判明していますが、現在のところ、有効な治療薬は確立していません。
 転写因子Kruppel−like factor 4(◇)(KLF4)は、iPS細胞の作製に必要な4因子のうちの1つとして近年大きな注目を集めています。KLF4は細胞の分化や癌の増殖に関与しますが、血管内皮細胞にも存在し、血管傷害の際には傷害を受けた動脈の肥厚・増殖を抑制することが分かっていました。
 今回、本研究チームでは、急性腎障害に対してもKLF4が障害を抑制する方向に働くのではないかとの仮説を立てて、検討を行いました。また、高脂血症の治療薬として用いられているスタチンには、多面的作用といわれる心血管病の発症を抑える作用が認められますが、その効果はKLF4の作用と類似しています。そこで、スタチンの急性腎障害への関与も検討しました。

 ◇用語の正式表記は添付の関連資料を参照


2.研究の概要と成果
 マウスの腎臓に虚血再灌流(注2)という障害を与えると急性腎障害が生じます。障害を受けたマウスでは、血清の尿素窒素・クレアチニン値の上昇や、腎臓における尿細管壊死・炎症細胞の集積がみられます。今回、本研究チームは、血管内皮細胞のKLF4を欠損したマウスを作製しました。KLF4欠損マウスと対照マウスの両者の腎臓に虚血再灌流障害を引き起こして障害の程度を比較したところ、KLF4欠損マウスでは、障害が強く生じることを発見しました。さらに、スタチンを3日間投薬した後に腎臓の虚血再灌流障害を引き起こしてみたところ、対照マウスではスタチンを投与しておくことによって急性腎障害が軽減しましたが、KLF4欠損マウスではスタチンの効果が認められなくなりました。
 培養した血管内皮細胞を用いてそのメカニズムを検討してみると、スタチンはKLF4の発現量を増加させることで、好中球などの炎症細胞を引き寄せるのに必要な細胞接着因子の発現を抑制することが明らかとなりました。
 上記の結果は、急性腎障害に対してスタチンを投与しておくと、KLF4を介した働きによって細胞接着因子の発現が抑えられることから腎臓の炎症が軽減されますが、KLF4が欠損している状況ではスタチン薬を投与しておいても、急性腎障害に伴った細胞接着因子の発現が過剰となり、その結果、炎症細胞の集積が過剰となってしまうことを示しています(図)。

 ※図は添付の関連資料を参照


3.今後の展開
 今後、ヒトにおいて急性腎障害に対するスタチンの有効性を検証していくことが期待されます。また、KLF4が腎障害を抑制することが明らかになったことで、KLF4を標的とした新たな治療薬の開発も期待されます。


4.特記事項
 本研究は、JSPS科研費(24591239,15K09271)などの助成により行われました。
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5.論文について
 タイトル(和訳):“Endothelial Kruppel−like factor 4(◇) mediates the protective effect of statins against ischemic AKI”
 (内皮細胞のKruppel−like factor 4(◇)は虚血性急性腎障害に対するスタチンの保護的作用を媒介する)
 著者名:吉田理、山下真帆、岩井美恵子、林松彦
 掲載誌:「Journal of the American Society of Nephrology」オンライン版


【用語解説】
 (注1)高脂血症・スタチン
 高脂血症は、高血圧・糖尿病と並んだ生活習慣病の1つです。LDLコレステロールという悪玉コレステロールの上昇が血液検査で見られますが、この高脂血症を放置しておくと、血管の動脈硬化が進んで脳卒中や心筋梗塞といった心血管病を引き起こすことが知られています。高脂血症の治療薬として最も広く使われている薬剤がスタチンです。生体でのコレステロール合成を司る3−hydroxy−3−methylglutaryl−coenzyme A(HMG−CoA)還元酵素の阻害薬です。世界中で約3000万人が服用しており、高脂血症治療の中心的薬剤として位置づけられています。近年、コレステロールを低下させる作用以外にも重要な薬理作用があると考えられるようになってきており、その作用は「スタチンの多面的作用(pleiotropic effects)」と呼ばれています。

 (注2)虚血再灌流
 腎臓における虚血再灌流は、急性腎障害を引き起こす動物モデルとして頻用されています。動物を麻酔のもとで開腹し、両側の腎動脈を一時的に途絶させる手技を施した後に閉腹します。本研究では、血管用クリップを用いて35分間腎臓への血流を途絶させました。血流の再開後には循環している好中球やリンパ球といった炎症細胞が腎臓に集積することで、腎障害を引き起こします。





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