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理研、らせん空孔が大面積で完全に配向した有機ゼオライトの開発に成功

2015-10-02

らせん空孔が大面積で完全に配向した有機ゼオライト
−加工性・柔軟性・配向性・キラリティを兼備した夢の多孔性材料−


■要旨
 理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター創発生体関連ソフトマター研究チームの石田康博チームリーダーらの研究チーム(※)は、らせん状のナノ空孔が数平方センチメートル(cm2)の大面積にわたり同一方向に並んだ、全く新しいタイプの有機ゼオライト[1]の開発に成功しました。

 近年、ゼオライトや金属有機構造体(MOF)[2]に代表される、規則正しく並んだ空孔を持つ材料が注目を集めています。空孔のサイズ・形状・組成を適切に設計することにより、狙いの分子を空孔内に捕捉することができる多孔性材料は、分子を貯蔵・配列したり、似ていても性質が異なる分子と識別・分離したり、あるいは別の分子へと変換したりする上で、極めて有用なツールです。実際に、ガス吸蔵材、排気ガスフィルタ、固体触媒などとして利用されています。しかし、多孔性材料の開発では、未だに達成されていない課題が残されています。まず、空孔の向きを大面積でそろえることが極めて困難であり、空孔の向きがそろった区域は数平方マイクロメートル(μm2、1μmは100万分の1メートル)からせいぜい数平方ミリメートル(mm2、1mmは1000分の1メートル)程度にしかなりません。また、加工性や柔軟性に乏しいため、ほとんどの多孔性材料は粉末として、あるいは粉末を固めた塊として利用されています。さらに、非対称な形状の空孔を作ることが難しく、とりわけキラリティ[3]を持つ空孔の開発は、医農薬・食品添加物・光学材料を扱う分野で待ち望まれているにも関わらず、実用に耐えるものはありません。これらの課題を解決した理想的な多孔性材料が得られれば、学術・実用の両面で革新的な物質となる可能性があります。

 研究チームは、結晶に準ずる規則構造を持ちながらも、重合反応や磁場配向を許容する自由度を持ち、なおかつキラリティを持たせることも容易な材料である「液晶」に着目しました。キラルな筒状構造の液晶を磁場で配向させた後、全体を重合反応で固めることにより、らせん状のナノ空孔が数cm2の大面積にわたって同一方向に並んだ多孔性材料の合成に成功しました。この空孔は、さまざまな機能性分子をキラルな位置関係に配列できます。加工性・柔軟性・配向性・キラリティと、これまでの多孔性材料に欠けていた全ての要素を兼ね備えた今回の材料は、多孔性材料の用途を大きく広げ、今後さまざまな展開を引き起こすと期待できます。

 本研究は、総合科学技術・イノベーション会議の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)により、科学技術振興機構を通して委託されたものです。成果は、国際科学雑誌『Nature Communications』に掲載にされるに先立ち、オンライン版(9月29日付け)に掲載されます。

 ※研究チーム
  理化学研究所 創発物性科学研究センター
  超分子機能化学部門 創発生体関連ソフトマター研究チーム
  チームリーダー 石田 康博(いしだ やすひろ)
  特別研究員 趙 ●一(チョウ・ジュンイル)
  テクニカルスタッフII 李 春姫(リ・チュンジ)
  テクニカルスタッフI 山田 邦代(やまだ くによ)

 *●印の文字の正式表記は添付の関連資料を参照


■背景
 ゼオライトや金属有機構造体(MOF)に代表される、規則正しく並んだ空孔を持つ材料が注目を集めています。空孔のサイズ・形状・組成を適切に設計することにより、狙いの分子を空孔内に捕捉することができる多孔性材料は、分子を貯蔵・配列したり、似ていても性質が異なる分子と識別・分離したり、あるいは別の分子へと変換したりする上で、極めて有用なツールです。実際に、ガス吸蔵材、排気ガスフィルタ、固体触媒などとして利用されています。

 しかし、多孔性材料の開発では、未だに達成されていない課題が幾つか残されています。まず、空孔の向きを大面積でそろえることは極めて困難であり、空孔の向きがそろった区域は数平方マイクロメートル(μm2、1μmは100万分の1メートル)から数平方ミリメートル(mm2、1mmは1000分の1メートル)程度にしかなりません。また、加工性や柔軟性に乏しく、ほとんどの多孔性材料は粉末として、あるいは粉末を固めた塊として利用されています。さらに、非対称な形状の空孔を作ることが難しいとされています。一方で、キラル化合物が生体と作用する際、右手の化合物と左手の化合物は異なる作用を示すため、医薬品や食品添加物の開発において、キラル化合物の効率的な分離を実現するキラリティを持つ空孔の開発が待ち望まれています。もし、これらの課題を解決した理想的な多孔性材料が得られれば、学術・実用の両面で革新的な物質となる可能性があります。

 多孔性材料の開発において、これらの限界が生じる主な原因は、ゼオライトやMOFなどの多孔性材料の合成がキラリティのない剛直なユニットの非共有結合的[4]な集合に基づいているためです。規則正しく解析しやすい構造を得る上で、この材料設計は有利ですが、非対称な形状でキラリティを持つ空孔を作り、その向きを大面積でそろえるには、全く新しい方法の開発が不可欠となります。


■研究手法と成果
 研究チームは、結晶に準ずる構造規則性を持ちながらも、内部での化学反応や外部刺激に応答した再配向を許容するだけの自由度を併せ持ち、なおかつキラリティを持たせることも容易というユニークな性質を持つ材料として「液晶」に着目しました。実験では、まず初めに、重合できる部位を持った扇型のカルボン酸とキラルなアミンを等しいモル量で有機溶媒に溶解し(図1a)、ガラス基板に塗布した後に有機溶媒を留去することにより、カルボン酸とアミンの塩からできた筒状構造を持つ液晶をフィルム成形しました(図1b)。

 この操作を通常の環境で行うと、筒の方向がそろった区域の大きさは数百μm2程度にしかなりません(図2a)。しかし、10テスラ(T)の磁場をかけた状態でこの操作を行うと、磁場が筒に作用するため、数cm2の大面積にわたり全ての筒が同一方向に配向した液晶フィルムが得られました(図2b)。

 このフィルムにガンマ線を照射すると、カルボン酸に予め導入しておいた重合性部位が架橋重合[5]を起こします(図1c)。その結果、筒状構造の外側は化学結合によって固定され、元々はオイル状であった液晶フィルムは、熱や溶媒に対し全く溶解しないポリマーのフィルムへと変換されます(図3a)。その際、個々の筒の構造や筒の大面積配向が乱れることはなく、液晶中に形成されていた構造はそのまま固定されます。重合後のフィルムは、ガラスの基板からきれいに剥がすことができ、自立性のフレキシブルな材料として利用することができます。

 このポリマーフィルムについて、大型放射光施設SPring−8(ビームライン45XU)にて小角X線散乱[6]を測定し、構造解析を行いました。全ての筒が同じ方向に並んでいることを利用すると、単結晶構造解析に似た手法を適応することができます。すなわち、高分子フィルムに対しさまざまな方向からX線を照射して得られる回折データを解析したところ、極めて詳細な構造情報を得ることに成功しました(図4)。この高分子フィルムの中には、大面積にわたり同一方向に配列した直径31.5オングストローム(Å、1Åは100億分の1メートル)の筒が蜂の巣状に充填されています(図4a)。それぞれの筒の外側は、カルボン酸が連結された二重らせん(らせん周期42.6Å)により形成され、筒の内側にはアミンが収納されています(図4b)。通常の液晶やポリマーにおいて、ここまで詳細な構造情報を得た例は過去に存在せず、純粋な基礎科学の観点からも、極めて興味深い研究成果です。

 こうして得られたポリマーフィルムを酸で処理すると、筒の内部に存在するアミンは容易に取り除かれます(図1d)。結果として生じる空孔内には酸性基が存在するため、カチオン性または塩基性のゲスト分子を効率よく取り込めます(図1e)。筒同士が化学結合によって架橋されているため、鋳型のアミンを新たなゲスト分子で置き換える際、個々の筒の構造ならびに筒の大面積配向に乱れは一切生じません(図3b)。導入できるゲスト分子は、非線形光学機能を持つもの、蛍光発光性を持つもの、安定ラジカル部位を持つもの、あるいはアルカリ金属など、多岐に渡ります(図1e)。

 このポリマーフィルムを使うことで、強い非線形光学効果[7]を示す材料を得ることができます。強い非線形光学効果を得るには、それに適した色素を選ぶことはもとより、色素を適切な配置で配列させることが重要です。今回得られたポリマーフィルムの空孔の中に、代表的な非線形光学色素であるパラニトロアニリン部位を持ったゲスト分子を包摂させ(図3b)、800ナノメートル(nm:1nmは1億分の1メートル)のレーザー光を照射したところ、400nmの光が出力され、顕著な2次の非線形光学効果が観察されました。詳細な検討により、今回の非線形光学効果は、らせんのキラリティに由来することが分かりました。磁場をかけずに作成した参照用のフィルムで同じ実験を行うと、400nmの出力光強度は7〜10倍低下します。この結果は、全てのらせんを同一方向に配向させたために、出力光同士の干渉が劇的に抑えられたことを意味しており、大面積で配向した構造の有用性を示しています。


■今後の期待
 加工性・柔軟性・配向性・キラリティと、これまでの多孔性材料に欠けていた全ての要素を兼ね備えた今回の材料は、多孔性材料の用途を大きく広げ、今後さまざまな展開を引き起こすと期待できます。また、ある種の非線形物理現象(非線形光学効果、圧電効果[8]など)は、分子を非対称な形状に配置(たとえば、らせんなど)したときのみ発現することが知られています。これらの現象や機能を探求する上で、高度に構造が制御された今回の多孔性材料は最適な素材を提供すると考えられます。


■原論文情報
 ・Chunji Li,Joonil Cho,Kuniyo Yamada,Daisuke Hashizume,Fumito Araoka,Hideo Takezoe,Takuzo Aida and Yasuhiro Ishida,“Macroscopic ordering of helical pores for arraying guest molecules noncentrosymmetrically”,Nature Communications,doi:10.1038/ncomms9418


■発表者
 理化学研究所
 創発物性科学研究センター(http://www.riken.jp/research/labs/cems/
 超分子機能化学部門(http://www.riken.jp/research/labs/cems/supramol_chem/
 創発生体関連ソフトマター研究チーム(http://www.riken.jp/research/labs/cems/supramol_chem/emerg_bioinsp_soft_matter/
 チームリーダー 石田 康博(いしだ やすひろ)


 *補足説明・図1〜4は添付の関連資料を参照



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