イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

近畿大など、キハダを卵から幼魚まで飼育することに成功

2015-09-29

マグロの持続可能な利用を資源保護と完全養殖で目指す!
キハダ稚魚の海面生簀での飼育成功
〜JST、JICAの支援を受けた地球規模課題対応国際科学技術協力のパナマでの研究成果〜


■ポイント
 ・近畿大学がJSTとJICAの支援を受けて行うキハダ養殖の研究成果
 ・世界で初めてキハダを卵から幼魚まで飼育することに成功
 ・現在は再び陸上生簀に戻し、海面生簀よりも管理が容易な環境で2年後の完全養殖を目指す
 ・得られた科学的知見と飼育技術は、今後キハダの天然資源予測に用いられることで、熱帯・亜熱帯の途上国や海洋島嶼国の持続的な漁業への貢献が期待され、日本のマグロ類資源の持続的利用への努力の国際的な大きなアピールとなる。
 ・途上国、海洋島嶼国での新たなキハダの養殖産業の振興(途上国支援)に繋がるとともに、将来日本企業が海外を拠点とした養殖を行うための基礎となることも期待される。


 近畿大学水産研究所教授・澤田好史らの研究グループは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)、独立行政法人国際協力機構(JICA)の支援を受けた地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)のもと、本年6月から7月にかけて人工孵化させ、陸上水槽で育てたキハダの稚魚を海面生簀で飼育することに成功しました。生簀で成長し幼魚となって再び陸上水槽に移されたキハダは、今後成魚になるまで飼育が継続されます。
 今回の沖出しは、完全養殖へ向けた大きな前進であり、より実用的な稚魚サイズ(9−13cm)で実施したことに意義があります。陸上水槽で稚魚まで飼育、これを海面生簀に移して幼魚まで飼育、さらに陸上水槽へ戻して現在全長30cmの幼魚まで飼育しています。クロマグロの完全養殖に成功した近畿大学の技術を応用して、今回飼育が難しいとされるキハダで成功をしたことは、大きな研究成果だと言えます。
 本プログラムは、近畿大学がパナマ共和国水産資源庁(ARAP)および全米熱帯マグロ類委員会(IATTC)との国際共同研究により、資源枯渇が懸念されるクロマグロとキハダの持続的な利用を可能にするため、資源保護(太平洋クロマグロおよびキハダ)による漁業の持続と、完全養殖による市場供給(キハダ)を目指すものです。


 本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
 ・地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)
 ・採択年度:平成22年度
 ・課題名:資源の持続的利用に向けたマグロ類2種の産卵生態と初期生活史に関する基礎研究
 ・研究期間:平成22年6月1日から平成28年3月31日まで
 ・研究代表者:澤田 好史(近畿大学水産研究所 教授)


<プロジェクトのこれまでの経緯概要>
 本プロジェクトは、2002年に世界初の太平洋クロマグロの完全養殖に成功するなどマグロ養殖で世界トップレベルの技術を有する近畿大学が、パナマ共和国水産資源庁(ARAP)および全米熱帯マグロ類委員会(IATTC)からの要請を受けるとともに、将来の日本のマグロ供給への貢献を考慮して、国際共同研究で資源枯渇が懸念されるクロマグロとキハダの持続的な漁業に欠かせない資源管理技術の向上と、完全養殖によるキハダの市場供給を目指すものとして開始されました。
 平成22年(2010年)6月1日にプロジェクトが開始され,近畿大学の専門家がパナマ共和国を訪れ、パナマ共和国水産資源庁および全米熱帯マグロ類委員会研究者が日本に招聘される本格的な国際共同研究は平成23年(2011年)4月から開始されました。そこでは、近畿大学が得意分野とする太平洋クロマグロとキハダの飼育研究を主な手段とし、マグロ類2種の資源管理と完全養殖技術で新たな科学的知見を蓄積してきました。
 プロジェクトでは、平成25年(2013年)4月から平成26年(2014年)3月までパナマ共和国IATTCアチョチネス研究所の陸上水槽で飼育されていたキハダ親魚の死亡が続き産卵が停止したこと、また、その後補充された親魚の年齢が若く、産卵再開後も卵質が悪く、孵化した仔魚の生残りが悪いことで、新たなキハダの仔稚魚の飼育研究や飼育技術開発ができず危機的な状況にありました。しかしながら本プロジェクトでは、この間クロマグロでの研究や、それまでのデータを論文に纏めるなどを精力的に進めてきました。また、新たにキハダ野生親魚となる候補魚の捕獲を近畿大学専門家と相手国研究者が協力して継続的に行いうことで、産卵が再開され、良質な受精卵が平成27年(2015年)4月から得られるようになりました。キハダ人工孵化稚魚の海面生簀での飼育は、少ない機会を逃さず成功に導くために、配合飼料やその給餌方法の工夫、波の荒い海域での生簀維持方法の工夫、生簀に生物が付着しないための努力などにより乗り越え、今回の受精卵から幼魚まで飼育することに成功しました。またその達成は既に中南米のマスコミで広く報じられており、現地とその周辺国での関心の高さが伺えています。


<時間的な経過>
 平成27年(2015年)4月21日
  パナマ共和国ロスサントス県アチョチネスに所在するIATTCアチョチネス研究所にて、同研究所の陸上水槽で飼育されているキハダ親魚から73,080粒の受精卵を得て7m3容水槽にて飼育を開始。
 平成27年(2015年)6月12日(孵化後52日)
  人工孵化させ育てたキハダ稚魚238尾(平均全長12.1cm)を、同研究所沖合の海面生簀に移送、その後26日間海面生簀で飼育。
 平成27年(2015年)7月8日(孵化後78日)
  生簀で生存していたキハダ幼魚68尾(平均全長18.7cm)を再び陸上に移送し,大型水槽での飼育を開始。
 平成27年(2015年)8月30日(孵化後131日)現在
  2年後の産卵、完全養殖達成を目指し、卵から全て陸上水槽で飼育していたキハダ幼魚と合併し、大型陸上水槽の飼育を継続中。推定生存尾数18尾。


<補足>
 本プロジェクトでこれまでに得られた主要な成果は、(1)マグロ類2種の野生集団解析や飼育親魚の産卵状況把握や遺伝管理に必要な遺伝学的ツールの開発、(2)仔稚魚の天然海域あるいは飼育条件下での生残を左右する物理・化学、生物学的要因の解明、(3)親魚や仔稚魚の生理状態把握に必要な生化学的検査法の開発、(4)仔稚魚の視覚特性と行動、(5)栄養要求と稚魚・幼魚用飼料の開発などです。
 日本とは異なる気象・海象、十分整っているとは言えない飼育施設、相手国研究者・技術者の飼育の不慣れさを、現地をよく知る相手国研究者とともに様々な工夫や、実験を行い、近畿大学専門家と相手国研究者のマンツーマン体制などチームワークで課題を克服し、国内でのクロマグロ完全養殖技術を基礎として新たにキハダの仔稚魚・幼魚飼育技術を開発しました。キハダを卵から幼魚まで飼育したのは世界で初めてのことであり、完全養殖を目指す過程の重要なマイルストーンです。
 しかしながら、まだ飼育技術の開発と飼育環境の形成、人材育成は道半ばであり、今回は陸上水槽での飼育では仔魚に餌として与える孵化したばかりの生きたキハダ仔魚の不足,海面生簀では荒天,海鳥による食害等が生存数を大きく減らす主な原因となったと考えられます。
 本プロジェクトでは若手研究者・技術者、大学院生が、海外の研究者・技術者と真剣なやりとりが必要な共同研究を体験しており、現在内向きと言われている若い世代の将来の国際的な活躍に繋がるものと考えます。


<写真>

 ※添付の関連資料を参照


<用語説明>
 ●地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS:サトレップス)について
 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)と独立行政法人 国際協力機構(JICA)の連携により、地球規模課題解決のために日本と開発途上国の研究者が共同で研究を行う3〜5年間の研究プログラムです。日本国内など、相手国内以外で必要な研究費についてはJSTが委託研究費として支援し、相手国内で必要な経費については、JICAが技術協力プロジェクト実施の枠組みにおいて支援します。国際共同研究全体の研究開発マネジメントは、国内研究機関へのファンディングプロジェクト運営ノウハウを有するJSTと、開発途上国への技術協力を実施するJICAが協力して行います。
 JSTホームページ:http://www.jst.go.jp/global/about.html
 JICAホームページ:http://www.jica.go.jp/activities/schemes/science/index.html

 ●全米熱帯マグロ類委員会について
 東部太平洋海域におけるカツオ・マグロ類の保存及び管理を目的として昭和25年(1950年)に設立された地域漁業管理機関。対象魚種(カツオ、キハダ等)の調査研究、勧告等の保存管理措置を行う機能を有し、キハダに関しては、東部太平洋海域の総漁獲量規制の勧告を行っています。

 ●クロマグロとキハダについて
 マグロ属魚類は世界に8種類あり、近年の年間の漁獲高は約190万トン。そのうち太平洋・大西洋のクロマグロは3万トン強で全体の約1.7%、キハダは約120万トンで全体の65%です。
 国際自然保護連合(IUCN)は太平洋クロマグロ絶滅危惧種に、キハダはLC(軽度懸念)に指定しています。日本は世界のクロマグロの70%以上を、キハダの12.5%を、マグロ類全体の約25%を消費する最大の消費国である。今後マグロ類の潤沢な国内供給、消費を持続するためには、資源消費大国としての責任を、資源保護や完全養殖による供給への貢献を通じて果たす必要があります。世界的に人気が高く需要の多いマグロ類資源への責任無しの大量消費は将来認められなくなる可能性があります。

 ●完全養殖について
 卵から育てた魚介類が成熟し、産卵するという生活史の全てを人工的に完結することであり、漁獲が不安定で乱獲の恐れもある天然の種苗を用いることがない、すなわち天然資源に依存しない養殖生産を可能にする技術。
 完全養殖達成後は、世代を繰り返す飼育による品種改良(育種)が可能になり、成長速度、抗病性、肉質などの改善による養殖の効率化、高度化が期待されます。





Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版