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鳥取大、キチンNF経口摂取が腸内環境と全身代謝に与える影響など研究成果を発表
様々な機能性を有する新たな食物繊維:キチンナノファイバー
〜経口摂取が腸内環境と全身代謝に与える影響〜
■概要
鳥取大学(学長:豐島 良太)の農学部の東和生助教らと工学研究科の伊福伸介准教授らの研究グループは、これまでにカニ殻の主成分であるキチンより作製可能なキチンナノファイバー(キチンNF)経口摂取による肥満予防効果、血液中コレステロール上昇抑制効果ならびに抗炎症効果を報告しています。
今回の研究では、キチンNF経口摂取が血中代謝産物ならびに腸内環境に与える影響を検討しました。
ここでは、キチンNF経口摂取により、腸内細菌による短鎖脂肪酸産生が促進され、腸内細菌により産生される代謝物の血中濃度が上昇することが明らかとなりました。また、キチンNF摂取は、体のエネルギー・脂質代謝に影響を与えることが分かりました。これらの結果は、これまでの研究成果の作用メカニズムの一端であると考えられます。
本研究成果は、スイスのオンライン科学雑誌「International Journal of Molecular Science」にて公表されました。
■研究背景
鳥取県はカニの水揚げが全国トップクラスです。カニを食した際の廃棄物となるカニの殻の有効利用が期待されています。カニ殻の主成分であるキチンをナノファイバーとして取り出したキチンナノファイバー(キチンNF)は、幅が約10ナノメートルの極細繊維です(図1)。さらにキチンNFは、処理により繊維の表面のみをキトサン化するといった改変も可能となっています。我々はこれまでに、キチンNF経口摂取による肥満予防効果、血液中コレステロール上昇抑制効果ならびに抗炎症効果を報告していますが、その詳細は不明でした。今回は、キチンNF経口摂取が腸内環境と体内での代謝調節に与える影響を検討しました。
■研究成果
本研究では、マウスに4週間キチンNFあるいはセルロースナノファイバー(セルロースNF)を経口摂取させました。糞便を採取し、腸内細菌により産生される糞便中の短鎖脂肪酸量の測定を実施しました。
また、血液中代謝物の網羅的解析(メタボローム解析)を実施しました。
1.キチンNF経口摂取が糞便中短鎖脂肪酸量におよぼす影響
キチンNF経口摂取により、コントロール群と比較して有意に糞便中乳酸濃度が上昇しました(図2)。
また、キチンNF経口摂取はセルロースNF群と比較して糞便中酢酸濃度が有意に上昇しました(図2)。
2.キチンNF経口摂取が全身代謝におよぼす影響
キチンNF経口摂取により、コントロール群およびセルロースNF群と比較して、血液中アデノシン3リン酸(ATP)、アデノシン2リン酸、5−ヒドロキシトリプトファン、セロトニン(5−HT)などの代謝物濃度の上昇が確認されました。これらの代謝物の変化は、キチンNF摂取が体のエネルギー代謝に影響を与えている可能性を示しています。5−HTは腸内細菌の刺激により、5−ヒドロキシトリプトファンを経て腸管の細胞から産生されることがわかっており、キチンNF摂取が腸内細菌の働きを介して5−HT合成を促進している可能性も明らかとなりました。
最近の研究により、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸は色々な病気の予防・症状抑制に有用であることが報告されています。本研究成果は、キチンNFの様々な機能が腸内細菌による短鎖脂肪酸や様々な代謝物を介した生体反応によるものであることを示しています。
■今後の展開
これまでの研究成果により、キチンNFの多くの生体機能が明らかとなっており、機能性を有した繊維素材(食物繊維)としての応用が期待されます(図3)。鳥取大学ではキチンNFを新素材の「マリンナノファイバー」として商標登録しています。今年の9月初めにマリンナノファイバー初の商品化として化粧品「素肌しずく うるおいミルク」が全国販売されており、今回の成果によりマリンナノファイバー(キチンNF)の食品分野への新たな展開が期待されます。
<掲載論文>
題名:Effects of Oral Administration of Chitin Nanofiber on Plasma Metabolites and Gut Microorganisms
(和訳:キチンナノファイバー経口摂取が、血漿中代謝物および腸内環境に与える影響)
雑誌名:International Journal of Molecular Science
オンラインURL:http://www.mdpi.com/1422-0067/16/9/21931
<参考図>
※図1〜3は添付の関連資料を参照
<用語解説>
食物繊維:人の消化酵素によって消化されない、食物に含まれている難消化性成分です。健康に対する有用性が多数報告されています。
キチン:カニ殻の主成分で、一般的にはキトサンやグルコサミンの原料となります。これまでにも、食品添加物としての使用実績があります。
腸内細菌:ヒトの腸内には一人当たり100種類以上、100兆個以上の腸内細菌が生息しているとされています。最近は、腸内細菌(環境)と病気との関連が明らかにされつつあります。
短鎖脂肪酸:腸内細菌により産生される乳酸、酢酸などの総称です。腸内環境での短鎖脂肪酸の増加は病気の予防などに有効であることが最近明らかとなりつつあります。
血液中代謝物:具体的にはアミノ酸、タンパク、糖などを指します。病気をはじめとして体の代謝変化によりそれらに変化が起こります。
メタボローム解析:代謝物を網羅的に解析する方法です。分析の対象となる代謝物は数百から数千におよびます。