イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

農業生物研など、古代米の原因遺伝子を特定し白いお米の品種に黒米原因遺伝子導入が容易に

2015-09-17

古代米の起源に迫る!
−紫黒米の育種が容易になります−


■ポイント
 ・古代米として知られる黒いお米(紫黒米=しこくまい)の原因遺伝子を特定しました。
 ・約50品種のイネの遺伝子を調べ、紫黒米がいつ頃、どの系統で発生したかが分かりました。
 ・この成果により、栽培されている白いお米の品種に黒米原因遺伝子を導入することが容易になります。


■概要
1. 農業生物資源研究所(生物研)は、富山県農林水産総合技術センターと共同で、紫黒米品種の黒米形質(お米が黒くなる性質)のメカニズムが、Kala4(カーラ4)遺伝子の変異であることを特定しました。

2. Kala4遺伝子は、イネのさまざまな場所で働き、米粒ではアントシアニンをつくるための複数の遺伝子を働かせることが分かりました。

3. 紫黒米の起源は、イネが栽培化された後、熱帯ジャポニカ種で起こった突然変異であることが分かりました。突然変異は、Kala4 遺伝子の働きを制御する配列に起こったものです。突然変異はその後、自然交配によりインディカ米(お米が細長い品種)にも移り、アジア地域に広がったことが分かりました。

4. Kala4遺伝子のお米を黒くするために必要な制御配列(約5,000塩基対)のみを、白いお米の品種に導入することで、既存の品種を紫黒米にすることが可能になります。つまり、好みのブランド米の味をそのままに、紫黒米に含まれる抗酸化物質等を含む健康に良いお米の育種が容易になります。

5. この成果は、9月11日(米国東部時間)にThe Plant Cell(オンライン)で発表されました。

 予算:科学研究費 新学術領域研究「ゲノムアダプテーション」(平成22〜26年度)


■背景
 古代米として知られている紫黒米は、米粒に抗酸化作用があるアントシアニン色素を含み、見た目の美しさに加え、ビタミンやミネラルも多く含み、美容や健康によい効果が期待され、「古代米ブーム」を起こしています。古代中国では、皇帝への献上米として用いられ、皇帝しか食することのできない貴重なお米だったとの記録があり、現在でも薬膳料理に利用されています。富山県農林水産総合技術センターは、紫黒米品種である「紅血糯」の、1番染色体、3番染色体、4番染色体のそれぞれのある領域に、お米を黒くする遺伝子があることを明らかし、それぞれ、Kala1遺伝子、Kala3遺伝子、Kala4遺伝子と名付けました。そして、「紅血糯」とコシヒカリを交配し、Kala1遺伝子、Kala3遺伝子、Kala4遺伝子を持ち、コシヒカリと同じく美味しい紫黒米品種「黒むすび」を育成しました。しかし、その育種は手間と時間がかかり、容易ではありませんでした。「黒むすび」を育成する過程で、Kala4遺伝子が最も重要で、コシヒカリを紫黒米にするためには「紅血糯」由来のKala4遺伝子が必須であることも明らかになりました。しかし、コシヒカリの同じ領域にもKala4遺伝子が存在することから、この遺伝子の近くに起こった変異が、紫黒米の起源である可能性が高いと考えられました。


■経緯
 生物研は、食味の良いブランド米などに、容易に紫黒米遺伝子を導入する技術を開発するため、黒米の原因遺伝子を特定する研究を始めました。まず富山県農林水産総合技術センターから関連する材料を譲渡してもらい、Kala4遺伝子の単離を開始しました。

 1)「紅血糯」、「黒むすび」とともに、生物研のジーンバンクに保存されている20種類以上の古代米と比較するための白米・赤米、約30種類について、Kala4遺伝子の周辺のDNA配列を調査しました。イネゲノム情報を活用して、品種間で違いがある領域を絞り込み、紫黒米の原因配列は、Kala4遺伝子のタンパク質を作る配列ではなく、その上流にある遺伝子の働きを制御する配列に変異があることを突き止めました。

 2)この制御配列が紫黒米の原因配列であることを確かめるため、遺伝子組換え技術を利用し、コシヒカリ由来Kala4遺伝子の制御配列部分を、紅血糯由来の制御配列と取り替えたお米を作り、紫黒米になることを確認しました(図1)。

 3)Kala4遺伝子の機能を調べ、果皮でアントシアニン合成にかかわる複数の遺伝子を活性化する、転写因子(1)の遺伝子であることを明らかにしました。また、Kala4遺伝子の働きの強さを場所ごとに調査した結果、コシヒカリではKala4遺伝子がほとんどの組織で働いていないのに対し、紅血糯などの紫黒米品種では、Kala4遺伝子は、果皮だけでなく、葉などでも、強く働いていることがわかりました。
  つまり、目に見えるのは果皮の着色ですが、遺伝子は全身で働くため、着色以外の機能も持つかもしれません。

 インディカ品種を含む、様々な品種のKala4遺伝子の周辺配列を調査し、すべての紫黒米品種のKala4遺伝子は、熱帯ジャポニカ型のKala4遺伝子に近い配列であることが分かりました。


■内容・意義
 現在の栽培品種のほとんどは白いお米ですが、野生のお米は、米粒が赤く着色する赤米です。白米や赤米品種のKala4遺伝子の近くの配列を調べたところ、紫黒米のような変異は見られませんでした。赤米の原因遺伝子(Rc遺伝子、アールシー遺伝子)も転写因子の遺伝子で、アントシアニン系の色素の合成酵素遺伝子の働きを制御していることが分かっていますが、紫黒米の原因遺伝子とは違うことが分かりました。また、Rc遺伝子がある時期に壊れたことで、白いお米ができたことが分かっています。Rc遺伝子の変異とは独立に、Kala4遺伝子は、熱帯ジャポニカの祖先種に、制御領域上の変異が一度だけ起こり、この変異を持ったKala4遺伝子を含む比較的短いDNA領域が、自然交配を繰り返しながら、インディカ等に移されていたことがわかりました。また、予備的な解析結果ですが、Kala4遺伝子の変化は、Rc遺伝子の欠損の時期と同等な時期であることを示唆する結果があり、紫黒米の起源が、イネの栽培化初期の変異であることがわかりました。イネの人工交配技術は実用化されてから、百年程度しかたっていませんが、自殖性の強いイネが、人の手による人工交配を経ずに、自然交配のみで、特定の遺伝子変異をもつ領域だけが、熱帯ジャポニカからインディカというように、異なる遺伝背景に移ったという事実は、作物としてのイネという植物の成り立ちを知る上で貴重な知見が得られました。


■今後の予定・期待
 今回の解析から、Kala4遺伝子座に関して、「コシヒカリ」型のKala4遺伝子の上流域、約5,000塩基対の領域が「紅血糯」型と置き換わると、紫黒米の形質を付与できることが明らかになりました。このように遺伝子の特定の配列のみを指標とした、「ゲノム育種(2)」が紫黒米の育種において可能になり、食味のよいブランド米を、味をそのままに紫黒米にすることが容易になります。


■発表論文
 Oikawa T,Maeda H,Oguchi T,Yamaguchi T,Tanabe N,Ebana K,Yano M,Ebitani T,Izawa T.“The birth of a black rice gene and its spread by introgression” The Plant Cell.


■用語の解説
 1)転写因子
  イネを例に説明すると、イネには、3万個を超える遺伝子が存在しますが、そのうちの2千を超える遺伝子が、転写因子に分類されるたんぱく質を生産します。この転写因子と呼ばれる一群のたんぱく質は、それぞれが特異的なターゲットの遺伝子を持ち、そのターゲットの遺伝子が、いつ、どこで、どの程度、働くかを決める機能を持っています。その作用機作は、それぞれのターゲットの遺伝子の制御領域のDNA配列を特異的に認識することです。それにより、mRNA合成をコントロールします。Kala4の場合、果皮で、コメの花が咲いた後、お米が成熟する間に、複数のアントシアニン合成にかかわる酵素の遺伝子を、働かせるわけです。

 2)ゲノム育種
  イネのゲノムは染色体が12本で構成されますが、一本の染色体には、数千個の遺伝子が種に固有な順番で、並んで、配置されています。そこで、イネのゲノム情報が利用できると、各遺伝子を、染色体上の「住所」・「番地」で、区別することができます。二つの品種を交配し、その後代を解析すると、各染色体のどこかで、「組み換え」が起こり、遺伝子の組み合わせが、親の遺伝子のそれと異なったものになることがあります。それにより、交配後代に新しい特徴が生まれることが起こるのです。ゲノム育種は、ゲノム情報を利用し、遺伝子の住所を参考にしながら、目的の特徴をもつ品種を可能にする新しい遺伝子の組み合わせを人が自由にデザインし、後代の植物体が小さいうちにDNAを調べることで、そのデザインにあった遺伝子の組み合わせを持つ後代個体を選抜することで、効率的な育種を進める最先端の育種技術です。Kala4の場合、今回特定したお米を黒くするために必要な短いDNAだけを、その前後で起こった組み換えを利用することで、後代に導入するといったデザインが可能になります。


■参考図

 ※添付の関連資料を参照



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版