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東大、64APSK変調方式で毎秒505メガビットの高速ダウンリンク通信に成功

2015-09-09

地球観測衛星では世界最高の周波数利用効率を持つ64APSK変調方式を使用して
毎秒505メガビットの高速ダウンリンク通信に成功
−小型衛星における伝送速度の世界記録を更新−


1. 発表者:
  齋藤 宏文(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 教授
         東京大学大学院工学系研究科 教授(委嘱))
  中須賀 真一(東京大学大学院工学系研究科 教授)


2. 発表のポイント:
 ◆64値振幅位相変調(64APSK)方式(注1)を使用し、超小型衛星「ほどよし4号」とJAXA宇宙科学研究所の直径3.8mアンテナ受信設備の間で、毎秒505メガビットという、100kg以下の小型衛星としては世界最高速の通信に成功しました。
 ◆使用した64APSK変調方式は、限られた周波数資源を有効に利用して大量の観測データを伝送できることが原理的に知られていましたが、技術上の問題から地球観測衛星で利用されたことはありませんでした。
 ◆100kg程度の小型衛星を多数機打ち上げて、準リアルタイムの地球観測ミッションを行う構想が、近年、IT企業等から提案されています。本技術は、今後の新しい地球観測ミッションの高速データ伝送に貢献できます。


3. 発表概要:
 近年の地球観測衛星は、数十cmの物体まで見分けられる能力を持っていますが、観測データを地上に伝送するためには、高速な伝送回線が必要となります。しかし、電波の周波数帯域幅は限られており、観測データの伝送の高速化のためには、周波数帯域幅を効率よく利用する技術の開発が課題となっていました。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の齋藤宏文教授(東京大学大学院工学系研究科 教授(委嘱))らの研究グループは、これまで地球観測衛星では実用化されていなかった64値振幅位相変調方式(64APSK)と呼ばれる、周波数利用効率が従来方式より1.5倍から2倍高い変調方式について、従来からの技術的困難を解決して衛星からの送信技術、地上での受信技術を開発することに成功しました。開発した成果を、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授らとともに、2014年に打ち上げられた重量64kgの超小型衛星「ほどよし4号」の高速通信システムに適用しました。「ほどよし4号」から毎秒505メガビットの速度でデータを送信し、直径3.8mのJAXA宇宙科学研究所(相模原キャンパス)のアンテナ受信設備でデータを誤りなく受信することに成功しました。64APSK方式は、地球観測衛星としては世界最高の周波数利用効率を持ち、毎秒505メガビットの伝送速度は100kg以下の小型衛星では2015年9月時点で世界最高速となります。
 同グループは、2015年2月18日付けのプレスリリースhttps://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/2015/150218_01.html)で、超小型衛星からの毎秒348メガビットの通信実験に成功したことを報告しておりますが、今回の成果はその通信速度を単に約1.5倍に増加させただけではなく、周波数利用効率が地球観測衛星としては世界最高の64APSK方式を軌道上実証でき、限られた無線周波数帯域の中で地球観測衛星のデータ伝送能力を高めた意義があります。近年、100kg程度の小型衛星を多数機打ち上げて、準リアルタイムの地球撮像ミッションを行う構想が、IT企業等から提案されています。大量の観測データの伝送のために無線周波数帯域の不足がおきることが予想されますが、限られた周波数帯域を最大限有効に使用することを可能にする本技術は、今後の新しい地球観測ミッションの高速データ伝送に大きく貢献できます。
 なお、本研究はJAXA宇宙科学研究所と東京大学グローバルCOEプログラム「セキュアライフ・エレクトロニクス」の支援を受けて行われました。また、「ほどよし4号」の開発は、総合科学技術会議最先端研究開発支援プログラムにおいて日本学術振興会より助成されて行われました。


4. 発表内容:
 近年の地球観測衛星は高分解能のカメラやレーダを使用し、地表の数十cmの物体まで見分けられる能力を持っています。衛星で取得した高解像度の観測データを地上に伝送するためには、高速な伝送回線が必要となります。しかし、地球観測衛星から地上へのデータ伝送に使用できる電波の周波数帯域幅は限られており、周波数帯域幅を効率よく利用して高速伝送を実現することが課題となっていました。
 電波を使ってデジタルデータを送信する場合、電波の位相と振幅の組み合わせそれぞれにビットを割り当て、受信時にはどの位相・振幅が送信されたかを推定することで送信されたデータを復元します。これまで多くの地球観測衛星で用いられてきた8値位相変調方式(8Phase Shift Keying,8PSK、注2)や16値直交振幅変調方式(16 Quadrature Amplitude Modulation,16QAM、注3)では、それぞれ、使用周波数帯域幅1ヘルツあたり毎秒3ビットあるいは4ビットの情報を伝送することができます。本研究で採用した64値振幅位相変調方式(64Amplitude and Phase Shift Keying,64APSK)は、位相と振幅を変化させることで64種類の状態を定義し、それぞれに対して6ビットの情報を割り当てる方式です。これにより使用周波数帯域幅1ヘルツあたり毎秒6ビットの情報を伝送することができ、8PSK方式の2倍、16QAM方式の1.5倍の周波数利用効率となります。
 64APSK方式では、振幅が大きく変化することから、衛星に搭載する高周波増幅器に高い線形性が要求されます。さらに、64APSK方式では位相の僅かなずれが受信データの誤りを引き起こします。地球観測衛星のような低軌道周回衛星は毎秒8km程度の速度で移動しており、衛星からの電波はドップラー効果(注4)によって周波数が大きく変化します。衛星から送られたデータを正しく受信するために、地上の受信機は時々刻々と変化する周波数を高い精度で追尾することが求められます。これらの課題により、低軌道周回衛星における64APSK方式の使用は実現していませんでした。
 今回、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の齋藤宏文教授(東京大学大学院工学系研究科 教授(委嘱))らの研究グループは、従来の8PSK方式と比較して2倍、16QAM方式と比較して1.5倍の周波数利用効率となる64APSK方式について、技術的困難を解決して衛星からの送信技術、地上での受信技術を開発しました。そして、開発した成果を東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻の中須賀真一教授らとともに、重量64kgの超小型衛星「ほどよし4号」の高速通信システムに適用しました。「ほどよし4号」から64APSK方式を使用して毎秒505メガビットの速さでデータを送信し、わずか直径3.8mのJAXA宇宙科学研究所(相模原キャンパス)のアンテナ受信設備でデータを誤りなく受信することに成功し、実際の宇宙空間でその動作を実証しました。低軌道周回衛星での64APSK方式の使用は大型衛星を含め世界初であり、また毎秒505メガビットの伝送速度は100kg以下の小型衛星では世界最高速となります。

 同グループは、2015年2月18日付けのプレスリリースhttps://www.t.u-tokyo.ac.jp/epage/release/2015/150218_01.html)で、超小型衛星からの毎秒348メガビットの通信実験に成功したことを報告しておりますが、今回の成果はその通信速度を単に約1.5倍に増加させただけではなく、周波数利用効率が地球観測衛星としては世界最高の64APSK方式を軌道上実証でき、限られた無線周波数帯域の中で地球観測衛星のデータ伝送能力を高めた意義があります。近年、100kg程度の小型衛星を多数機打ち上げて、準リアルタイムの地球撮像ミッションを行う構想が、IT企業等から提案されています。大量の観測データの伝送のために無線周波数帯域の不足がおきることが予想されますが、限られた周波数帯域を最大限有効に使用することを可能にする本技術は、今後の新しい地球観測ミッションの高速データ伝送に大きく貢献できます。
 本実証では、地球観測のデータ伝送に割り当てられているX帯(注5)の電波(周波数8025−8400メガヘルツ)の周波数帯域幅375メガヘルツのうち、1/3となる125メガヘルツの帯域のみを使用して効率的に毎秒505メガビットの通信に成功しています。送信電力や送受アンテナの最適化を行うことで、全375メガヘルツの周波数帯域の中に3つの125メガヘルツ帯域をとり、各々の帯域で毎秒505メガビットの通信ができます。さらに、各々の帯域で、電波の右円偏波と左円偏波(注6)を独立に使用することで通信チャンネル数を2倍にできます。このように6チャンネルの通信路を確保して、その各々で毎秒505メガビットの通信を行って、合計毎秒3000メガビットという高速なデータ通信がX帯で実現できます。本研究は、降雨による減衰が大きい高周波のKu帯、Ka帯(注5)を使用することなく、降雨にも強く使いやすいX帯を用いて超高速のデータ伝送ができる可能性を示しました。
 図1はJAXA宇宙科学研究所で受信し、復調した信号を振幅と位相の2次元平面に示したものであり、6ビットの情報に対応する26=64個の配置(コンスタレーション)を確認できます。この配置を正確に伝送するため、本研究グループはアイ電子株式会社と協力し、優れた歪特性を持ち高効率な窒化ガリウムを用いた高周波増幅器を開発しました。また誤り訂正符号にターボ符号(注7)を採用することにより、効率の良いデータの誤り訂正が可能となっています。
 図2は株式会社アドニクスが製造し、「ほどよし4号」に搭載した高速送信機であり、装置重量は1.3kgです。
現在、衛星からの電波を受信する受信機の信号処理はソフトウェアによるオフライン処理となっています。今後はこの処理を高速化することによって、低コストな受信機の実現を目指します。また、夜間・悪天候時にも観測ができるマイクロ波を用いた合成開口レーダ(注8)等の搭載観測センサの実現や、衛星システムの信頼性向上が取り組むべき課題となります。


5. 発表論文:
 会議名:第59回宇宙科学技術連合講演会(2015年10月7日〜9日開催)
 講演タイトル:64APSK変調を用いた50kg級衛星からの505Mbpsダウンリンク通信実験
 著者:深見友也,渡邊宏弥,冨木淳史,水野貴秀,齋藤宏文,岩切直彦,新家隆広,小島要,川元光一,重田修,布村仁志,神田泰明


 *用語解説・図1・2は添付の関連資料を参照



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