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東大、脳神経回路網形成をコントロールするメカニズムを解明

2015-09-09

細胞内の骨格・微小管の伸び縮みを制御し、
脳神経回路網形成をコントロールするメカニズムを解明


1.発表者:
 小川 覚之 おがわ ただゆき
  (東京大学大学院医学系研究科細胞生物学・解剖学教室
  分子構造・動態・病態学寄付講座 特任助教)

 廣川 信隆 ひろかわ のぶたか
  (東京大学大学院医学系研究科細胞生物学・解剖学教室
  分子構造・動態・病態学寄付講座 特任教授)


2.発表のポイント:
 ◆細胞内骨格である微小管を脱重合(注1)し神経突起の伸長および脳の形成をコントロールする蛋白KIF2(注2)の制御機構を解明した。
 ◆微小管を脱重合する蛋白KIF2の特異的な部位をリン酸化(注3)するキナーゼ群(注4)を同定し、それらがアクセルとブレーキのようにKIF2の活性をコントロールすることを明らかにした。
 ◆神経細胞における微小管脱重合の制御機構を明らかにしたことは、脳の神経回路網形成の基本的なメカニズムの解明につながり、さらに神経変性疾患の発症機序の解明や治療薬の開発に役立つことが期待される。


3.発表概要:
 東京大学医学系研究科の廣川信隆特任教授と小川覚之特任助教らの研究グループは、細胞内の骨格である微小管の重合・脱重合を制御する仕組みを解明した。
 私たちの体をつくる各々の細胞には微小管という細胞骨格があり、環境や発生段階の変化に応じてその形や働きを変化させる。キネシンモーター蛋白KIF2が微小管を脱重合する働きを持ち、脳の神経回路網の形成に基本的役割を持つことはこれまでに知られていた。しかし、その活性がどのように外界の刺激に応答して制御されているのかは、未知であった。そこで本研究グループは、神経細胞が外界の刺激に応答した際にKIF2がどのようなシグナルネットワークによってコントロールされているのか調べるため、細胞生物学・分子生物学・生化学などの手法を融合し、さらに質量分析法によって要となる現象を詳細かつ定量的に解析した。その結果、特異的なキナーゼが微小管を脱重合するタンパク質KIF2の特異的な部位をリン酸化し、アクセルとブレーキのように働く(図)ことによって微小管の重合・脱重合(すなわち伸び縮み)を制御することを明らかにした。この仕組みにより、神経細胞は置かれた状況や外界からの刺激に応じて微小管の伸び縮みを自在にコントロールして適応することができる。
 生命の維持や疾患の発症に重要な分子について、その制御機構を詳細に明らかにすることは生命の仕組みの解明のみならず、疾患の発症機序の解明にも貢献する可能性がある。特に、神経細胞における微小管脱重合の制御機構を明らかにしたことは、脳の神経回路網形成の基本的メカニズムを明らかにし、ひいては神経変性疾患の発症機序の解明や治療薬の開発に役立つことが期待される。


4.発表内容:
 東京大学医学系研究科の廣川信隆特任教授と小川覚之特任助教らの研究グループは、細胞内の骨格である微小管の重合・脱重合を制御する仕組みを解明した。細胞骨格のひとつである微小管は、環境や発生段階の変化、細胞外からの刺激に応じて骨格の伸長や働きを変化させる。これまで、キネシンモーター蛋白のひとつであるKIF2がATP(アデノシン三リン酸)のエネルギーを利用して効率的に微小管を脱重合させる働きを持ち、脳の神経回路網の形成に基本的役割を持つことは知られていた。しかし、その微小管を脱重合する活性がどのように外界からの刺激に応答して制御されているのか未知であった。そこで本研究グループは、神経細胞が外界の刺激に応答した際にKIF2がどのようなシグナルネットワークによってコントロールされているのかを調べるため、細胞生物学・分子生物学・生化学などの手法を駆使し、さらにそれらを質量分析法などと融合させることによって要となる現象を詳細かつ定量的に解析した。
 その結果、KIF2の特異的な部位をリン酸化してその微小管脱重合活性を変化させるキナーゼ群を同定することに成功した。なかでもPAK1やCDK5というキナーゼはそれぞれKIF2の特異的な部位をリン酸化し、KIF2の微小管脱重合活性は細胞内でも試験管内でも著しく低下した。一方でROCKというキナーゼはKIF2の別の部位をリン酸化するが、KIF2の脱重合活性は維持促進された。PAK1やCDK5キナーゼによりリン酸化されないようにしたKIF2変異体は脱重合活性にブレーキがかからず、細胞内で強い脱重合活性を維持し、人為的神経細胞の突起を伸長させる刺激(BDNF刺激)においても突起の伸長が減少した。また、PAK1やCDK5によりリン酸化されたKIF2はATPを加水分解する活性も著しく失っており、微小管の構成要素であるチューブリンとの結合能も低下していた。これにより、PAK1/CDK5はリン酸化によってKIF2の基本的性質を変化させ、その結果KIF2の微小管脱重合活性を抑制することにより神経細胞の突起伸長を促進していると考えられる。また、ROCKキナーゼによりリン酸化された形を模倣したKIF2変異体は、脱重合活性が常に維持され、丸い神経細胞から突起伸長の開始を促進する薬剤(ROCK阻害剤)を添加しても突起伸長が抑制された。以上のようにPAK1やCDK5というキナーゼはそれぞれKIF2の特異的な部位をリン酸化することにより微小管脱重合活性を抑制する“ブレーキ”の働きをし、一方でROCKキナーゼはKIF2の別の部位をリン酸化することにより脱重合活性を維持促進する“アクセル”として働くことが分かった。
 このように特異的なキナーゼ群がKIF2の特異的な部位をリン酸化することによりその活性をコントロールし、ちょうどアクセル・ブレーキのように働く(図)ことで微小管の重合・脱重合を制御していることが明らかになった。こうした仕組みにより細胞は置かれた状況や外界からの刺激に応じて微小管の伸び縮みを自在にコントロールして適応していると言える。生命の維持や疾患の発症において重要な分子について、その制御機構を明らかにすることは生命の仕組みの解明・疾患の発症機序の解明に貢献する。今回、神経細胞における微小管脱重合の制御機構を明らかにしたことは、脳の神経回路網形成の基本的メカニズムを解明し、ひいては神経変性疾患の発症機序の解明や治療薬の開発に役立つことが期待される。


5.発表雑誌:
 雑誌名:「Cell Reports」
 論文タイトル:
  Microtubule Destabilizer KIF2A Undergoes Distinct Site−specific Phosphorylation Cascades that Differentially Affect Neuronal Morphogenesis
 著者:Tadayuki Ogawa and Nobutaka Hirokawa(*)
 DOI番号:10.1016/j.celrep.2015.08.018


■用語解説:
 (注1)微小管を脱重合:微小管は細胞内の骨格のひとつで、チューブリンという蛋白質が重合することにより長い管状のチューブが形成される。微小管は状況に応じて重合・脱重合し、細胞の形態や機能の変化を支える。

 (注2)KIF2:モータータンパク質キネシンの一種。KIF2は他のキネシンとは異なり、管状の微小管を両端からチューブリンに分解する(脱重合)。

 (注3)リン酸化:キナーゼタンパク質が標的タンパク質にリン酸基を付加する反応で、生体内において重要なシグナルを伝達するスイッチとして働いている。リン酸化により、タンパク質の活性・性質が変化することが知られている。リン酸化の部位はキナーゼや基質に特異的であることが多く、リン酸化部位によって活性・性質の変化が異なっていると考えられている。

 (注4)キナーゼ群:リン酸化(注3)を触媒するタンパク質をキナーゼという。現在約500種類のキナーゼが存在することが知られている。


■添付資料:

 ※添付の関連資料を参照



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