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広島大など、円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功

2015-09-07

藻類のもつ微結晶が光を有効利用する原理解明にせまる
〜磁場で微結晶の向きを揃える新技術で光反射特性を明らかに〜


【本研究成果のポイント】
 >藻類の細胞外被・外殻結晶(注1)の向きを永久磁石程度の磁場(数百ミリテスラ)で遠隔操作する方法を開発しました。
 >この方法を応用して、円石藻(注2)の円石の向きを磁場で制御しつつ分光計測する新手法を開発し、円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。
 >これにより、藻類がバイオミネラリゼーション(生体鉱物形成)(注3)によって円石のような微結晶注4)を細胞表面に配置することの植物生理学的意義の解明が大きく前進するとともに、マイクロメートル・オーダの微結晶を永久磁石程度の磁場で、非接触かつ任意の方向に向ける技術への応用も期待できます。


【概要】
 国立大学法人広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所の岩坂正和教授、国立大学法人筑波大学生命環境系の白岩善博教授らの研究グループは、藻類の細胞外被・外殻結晶の向きを磁場で遠隔操作する手法を開発し、円石藻のつくる炭酸カルシウムの円盤状の微結晶(円石、ココリス、図1)が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。
 藻類の中には、進化の過程で微結晶を細胞表面に配置するようになったものも多くありますが、その目的は謎につつまれています。特に、植物プランクトンである円石藻がその光合成機能を有効に使うために円石を利用している可能性が推測されてきたにも関わらず、その実験的証明は技術的に難しく、科学的なアプローチはなされていない状況でした。これを解明するために、実験的に実際の円石での光反射の方向依存性を計測する技術開発が望まれていました。
 円石藻Emiliania huxleyi(エミリアニア・ハックスレー)の円石は、方解石型炭酸カルシウム微結晶からなる複数の構造体で形成されています。岩坂教授らの研究グループは、その円石が磁場中でもつ反磁性(注5)の磁化率異方性(注6)が駆動力となり、400mT(ミリテスラ)の磁場で円石を回転させて磁力線に対し垂直に並ぶことを発見しました(図2、3)。そして、マイクロメートルサイズの円石を水中で非接触かつ任意の方向に向かせることを、永久磁石程度(数百ミリテスラ)の磁場で実現しました。さらに、これを応用して、円石の配向と光反射の強度分布を調べる手法を開発し(図4)、円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。
 この微結晶の光学特性と植物生理学的意義(注7)の関係が解明できれば、藻類バイオエネルギー産生の効率化につながる可能性もあります。さらには、これら微結晶をマイクロ光学材料としてバイオセンサー等へ活用できる可能性もあります。
 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域の個人型研究(さきがけ)<広島大学の岩坂正和教授>の一環として行われ、同一研究領域のチーム型研究(CREST)<筑波大学の白岩善博教授>と共同で行ったものです。
 本研究成果は、平成27年9月1日午後6時(日本時間)、英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載される予定です。


<発表論文>
 著者
  Yuri Mizukawa,Yuito Miyashita,Manami Satoh,Yoshihiro Shiraiwa,Masakazu Iwasaka*
   *Corresponding author(責任著者)
 論文題目
  Light intensity modulation by coccoliths of Emiliania huxleyi as a micro−photo−regulator
  (マイクロ光学調整素子としてのエミリアニア・ハックスレーの円石による光強度変調)
 掲載雑誌
  Scientific Reports
  doi:10.1038/srep13577(2015)


【背景】
 藻類の中にはその進化の過程で微結晶を細胞表面に配置するようになったものも多くあり、この微結晶が水中において太陽光を有効利用するために使われているという仮説に興味がもたれてきました。しかし、この微結晶が太陽光を遮光するのか、レンズのように集光するのかに関しては藻類研究分野での長年の議論にも関わらず、実験によりその謎に迫った研究はなく、いまだ決着がついていません。
 一方、岩坂教授らの研究グループは、これまでに、魚のうろこに含まれるグアニンという核酸塩基の結晶(これにより魚のうろこがキラキラと光を反射する)が磁場に応答することを見いだし、グアニン結晶板(長さ20μm)の光反射特性を磁気で制御することに成功していました。
 そこで、この技術を藻類のさらに小さな外被結晶へ応用できるのではないかと着想し、円石藻が身に付けている炭酸カルシウムの微結晶ココリス(図1)が、はたして日傘の役割を持つのか、太陽光の届きにくい海中で光を集めるのか、あるいは両方の機能をもつのか、その光学機能解明に挑みました。


【研究成果の内容】
 今回の手法開発のヒントとなった原理は、万物が磁場にさらされた際にもつ磁性、すなわち反磁性です。一般的に反磁性は非常に弱いため、この特性を利用するには数テスラ以上の強磁場が必要と考えられてきました。しかし、前述の魚のグアニン結晶の光反射の計測原理をヒントに、マイクロメートルサイズの円石を水中で任意の方向に向かせることができるのではないかと考え、円石藻の円石の光反射特性を明らかにするための新手法開発を進めました。
 この結果、円石藻E.huxleyiが形成する円盤状の炭酸カルシウム結晶複合体である円石が、その円盤面の法線方向が磁力線に対し主に垂直となる磁場配向を起こすことを世界で初めて発見しました(図2、図3)。また、微結晶一個が水中で適度なブラウン運動を行う自由度のある条件下では、炭酸カルシウムカルサイト結晶のc軸(注8)が磁力線に垂直になるような磁気回転運動が400mT以上の磁場下で生じること(図3)を明らかにしました。
 これまでの後方光散乱の原理による分光手法では、円石集団の中でランダムな配向状態にある円石の解析しかできませんでした。それに対して、本手法では直径約3μmの円石一個を磁場で回転させることにより、光反射の強度分布を明らかにすることができます(図4)。その結果、円石の円盤面に平行に入射した光は側方散乱が抑制され、円石の円盤面に垂直に入射した光は強く散乱されることが明らかとなり、円石が光を効率的に反射する方向を特定することに成功しました。


【今後の展開】
 今回の研究成果により、円石藻の表面付近の円石が光を遮蔽する配向角と光を細胞内へ導入しやすくする配向角について、その光波長依存性を検討することが可能となりました。その結果として、外被・外殻結晶をもつ藻類が、その微結晶をどのように利用しているのかを解明する道を開き、研究が大きく前進しました。さらに、マイクロメートル・オーダの微結晶を永久磁石程度(数百ミリテスラ)の磁場で、非接触かつ任意の方向に向ける技術を、マイクロ光学素子の部品として応用することも期待できます。


【参考資料】

 ※図1〜図4・用語の解説は添付の関連資料を参照




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