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理化学研究所、原子の世界を詳細に映し出すX線自由電子レーザー(XFEL)施設が完成

2011-04-01

わが国初のXFEL施設が完成
−「XFEL」の愛称は「SACLA(さくら)」―



 独立行政法人理化学研究所野依良治理事長)は、財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI、白川哲久理事長)と協力し、播磨科学公園都市の大型放射光施設SPring−8(※1)に隣接して開発・整備を進めている、原子の世界を詳細に映し出すわが国初のX線自由電子レーザー(XFEL)(※2)施設を、計画どおりの80億電子ボルト(8GeV(※3))で運転、波長0.8A(Angstrom(おんぐすとろーむ))(※4)というX線を発生、観測することに成功しました。また、このXFEL施設の愛称を「SACLA(さくら)」と決定しました。

 XFEL施設は、国家基幹技術の1つとして位置づけられ、大型放射光施設(SPring−8)と同じ8GeVの電子ビームからX線レーザーを発振、利用するために、2006年度から5年間の計画で整備を進めてきました。2011年3月23日には、XFEL施設の8GeV運転に成功し、波長0.8AのX線の発生を確認しました。今後は、このX線の位相をそろえてXFELのレーザー増幅の出力飽和に向けた調整運転を続け、利用試験などを経て2011年度末の供用開始を目指します。

 XFEL施設の愛称「SACLA」は、2010年10月1日から実施した公募で得た493件の候補の中から審査を行い決定した愛称で、SPring−8 Angstrom Compact Free Electron Laserの略を表します。原子の大きさはほぼ1Aであるため、Angstromは、分子や原子のような微細な物質の様子を観察、測定することができる施設を象徴する長さの単位となっています。この日本初のXFEL施設は、欧米のXFEL施設に比べ半分以下のCompactな大きさで、短波長で安定したX線レーザー発振を目指します。また、施設の建設には多くの国内メーカーの協力を得て、日本独自の技術が駆使されています。愛称「SACLA(さくら)」は、これらのXFEL施設の日本独自の特長を表現するとともに、日本らしさを感じさせる「桜」と同じ読み方をする点を評価して決定しました。また、愛称に合わせて施設のロゴマークも決定しました。


I.波長0.8AのX線の観測について

 1.背景
  X線の発見・発生、放射光やレーザーの発明は、新たな科学技術を切り拓き、産業の発展に寄与してきました。例えば、X線は病院での診察に使われていますし、レーザーは青色発光ダイオード、CDの読み取りなどに使われている半導体レーザーや視力回復手術に利用されているエキシマレーザーなど、多くの分野に使用されています。

  大型放射光施設SPring−8は、世界最高性能の放射光施設として、材料科学・生命科学・産業利用などで多数の成果を創出しています。SPring−8の出す放射光は、幅広い波長領域(主に硬X線から真空紫外線)を持ち、非常に明るい(高輝度)という特長を持っています。一方、レーザーは位相がそろっているため、干渉性が高く、特定の波長において放射光よりも高い輝度を持った光を得ることができるという特性があります。このように、放射光とレーザーとは異なる性質を持った相補的な光で、特にSPring−8が完成した現在、X線領域のレーザーが待望されていましたが、その実現は適当なレーザー媒質がないため非常に困難なものと考えられていました。

  これを実現するため、2006年度から5年計画で、理研がJASRIの協力を得て、X線自由電子レーザー(XFEL)施設の建設を進め、2010年度末にXFEL施設を完成させました。

 2.研究手法と成果
  XFELは、高エネルギーで高品質の電子ビームを、長尺のアンジュレータ(※5)という磁石列が上下に並んだ装置(全18台)に通してレーザーを生成します。レーザーの生成に向けた第一歩は、構成機器が設計通りに働くかどうかを確かめることです。そこで、(a)電子銃から引き出された電子ビーム特性の確認、(b)その電子ビームの設計エネルギー(8GeV)までの加速、(c)アンジュレータ部を通過させ電子ビームダンプ(最終的に電子を捨てるところ)への電子ビームの輸送、(d)アンジュレータとX線光学・検出系の性能確認、を実施しました。

  電子銃から引き出される電子ビームの性能の中で、もっとも重要なものは平行性の高い電子の密度です。電子銃直下流で1ナノ秒の時間幅に切り出した電子ビームの密度をスリットで細かく切り取り、スリットを左右に動かして電子ビーム全体をスキャンする方法で測定したところ、ほぼ設計通りの1π mm mradという値であることが確認できました。その後、加速器の調整を進め、ほぼ設計ビームエネルギーである7.8GeVまで電子ビームを加速し、アンジュレータ部を経由して、その下流の電子ビームダンプまでビームを輸送することに成功しました(図1、2)。16番目のアンジュレータ1台の上下の磁石列の距離を40から約5mmへ縮めて277回蛇行させることにより、この電子ビームからX線を放射させ、これをXFEL実験ホールの光学ハッチに導きました。二結晶分光器を用いてX線のエネルギー分布の計測を行った結果、波長が0.8Aであることを確認しました。さらにXFEL専用に開発された2次元検出器(マルチポートCCD:MPCCD)を用いて、分光されたX線の空間プロファイルの撮影に成功しました(図3)。これらの観測結果から、アンジュレータの特性がほぼ設計通りであることも確認しました。

 3.今後の期待
  今回の試験で、XFELの基本的構成機器の性能が、ほぼ設計通りであることを確認しました。従って調整の精度をこのまま向上していけば、X線の位相をそろえてレーザー増幅を達成できる見通しが得られました。今後は、2011年度末のXFEL供用開始に向け、レーザー増幅の出力飽和の早期達成と、それに続く利用試験の実施に向け、効率的な運転調整を実施していきます。



*以下、リリースの詳細は添付の関連資料を参照


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