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東北大など、原子1個の厚みの二酸化チタンシートの作製に成功

2015-08-27

原子1個の厚みの二酸化チタンシートの作製に成功
−グラフェン類似の極薄新材料の誕生−


【概要】
 東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の大澤健男助教(現 国立研究開発法人 物質・材料研究機構(NIMS)主任研究員)と一杉太郎准教授の研究グループは、同機構の幾原雄一教授、王中長准教授らのグループと共同研究を行い、「原子1個の厚み」の二酸化チタン(TiO2)シートの作製に成功しました。
 近年、グラフェン(*1)をはじめとした原子1個の厚みをもつ原子シート(*2)に注目が集まっています。2010年のノーベル物理学賞の対象となったグラフェンは、原子シートの中の電子が非常に高い速度で移動するため、超高速電子デバイスやディスプレイなどへの応用研究が精力的に進められています。他にも、レーザーや発光素子等へ展開ができる興味深い光学的性質を持つ原子シートも知られており、新たな物質の開発競争が起きています。その候補のひとつである「金属酸化物」(*3)は、強磁性、強誘電性、超伝導や触媒効果などの多彩な性質をもつ魅力的な材料です。しかし、今まで「高機能性を有する金属酸化物原子シートを作製し、特異な機能を創出する技術」は確立されていませんでした。
 本研究グループは、原子レベルで構造がわかっているチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)の基板表面上にアルミン酸ランタン(LaAlO3)を堆積させ、超高分解能走査型トンネル顕微鏡(*4)と走査型透過電子顕微鏡(*5)で観察しました。その結果、「LaAlO3薄膜表面に原子1個の厚みの二酸化チタン(TiO2)2次元シート材料が自発的に形成される」という新事実を発見しました。このTiO2原子シートは、金属酸化物の多彩な物性を活用した電子デバイスや触媒材料など、「新たな酸化物原子シート」としての機能が期待できます。
 本研究成果は、8月20日(米国東部時間)に、米科学誌「ACS Nano」オンライン速報版に掲載されており、近日中に正式掲載されます。


【研究の背景】
 グラフェンの発見以降、原子1個の厚みの平板状物質、すなわち、「原子シート」が注目を集めています。そのような原子シートでは、構造の特異性や対称性によって、通常の3次元結晶とは異なる驚くべき性質を示すことが報告されており、活発な研究が展開されています。しかし、従来は原子シートの種類が限られていたことから、材料のバラエティを広げることが強く望まれていました。
 そのような原子シートの新たな材料として有力候補とされているのが「金属酸化物」です。金属酸化物は、電気・磁気・光学特性において多彩な物性を示すことから、新しいエレクトロニクス応用が期待される材料です。元素置換や微量の酸素欠損を導入することによって、多様な組成と機能性を人工的に制御することが可能であり、グラフェンなどの従来型原子シートを超える、新たなブレークスルー材料としての潜在的可能性に注目が集まっています。グラフェンの研究においては、原子シートの形状や、端の原子配列を制御することによって、新機能を発現させるアプローチが進んでいるのに対して、構造を制御した酸化物原子シートを作製する例は過去にありませんでした。
 様々な金属酸化物の中で、二酸化チタン(TiO2)は、光触媒材料としてだけでなく、色素増感太陽電池や透明導電体としての利用が期待されています。そのため、グラフェンには存在しない多様な機能性を、原子シート化することによって顕在化させ、新たな電子材料や触媒材料として応用することが検討されてきました。


【研究の内容】
 本研究グループは、原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡(STM)と、高品質な薄膜作製手法であるパルスレーザー堆積法(*6)が連結した複合装置(図1)を独自に開発してきました。そして、SrTiO3単結晶基板の再構成表面(*7)上にLaAlO3/SrTiO3ヘテロ接合を作製し、その表面・界面をSTMと走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて原子スケール空間分解能で観察しました。
 図2左がSrTiO3再構成基板表面に成膜したLaAlO3薄膜のSTM像です。中心部のLaAlO3薄膜表面とその周囲のSrTiO3基板表面において、格子状の模様ができています。両者の格子模様の電子状態を精密に調べて比較したところ、ほぼ一致することがわかりました。このことは、TiO2層がLaAlO3薄膜表面に形成していることを示唆しています。さらに、STM像から、このTiO2シートは2次元性を有するだけでなく、「空孔が周期的に配列している」ことがわかりました。
 次に、LaAlO3薄膜1層を堆積した後のLaAlO3/SrTiO3界面のSTEM像(図2右)を示します。表面に原子が存在しており、SrTiO3再構成基板表面にLaAlO3薄膜を成長させたモデルを基に計算したシミュレーション像と良く一致します。そして、詳細な分光測定を実施した結果、「この最表面原子はTiである」ことがわかりました。
 以上より、SrTiO3表面上のTiO2層がLaAlO3薄膜上に浮かび上がり、周期的に穴を有する「TiO2原子シート(ナノメッシュ)」が形成されることを発見しました。さらに、このTiO2原子シートは半導体的な性質をもつことが明らかになり、今後ドーピング(*8)によって電気伝導性や磁性などの物性が制御可能となることが期待できます。今回の研究成果は、金属酸化物原子シート材料群の開発への道を拓き、エレクトロニクスデバイス創製や新触媒材料開発につながることが期待されます。
 さらに、本研究により、金属酸化物ヘテロエピタキシャル成長(*9)における第一層目からの初期成長過程が明らかになりました。La,Al,OやTiが混在した物質がまず表面にでき、その後、LaAlO3として結晶化する際に、Tiが最表面に移動するという描像で理解することができます。近年、金属酸化物ヘテロエピタキシャル界面の新物性に関心が集まっており、このような金属酸化物の成長過程の解明は、新たな機能をもつ界面の創出につながります。
 本研究成果の最大の特長は「材料科学の世界で『原子シート』が注目されている中、二酸化チタンという触媒や光学特性に特徴のある材料で原子シートが実現できた」という点にあります。様々な可能性を感じさせる「原子シート」の材料バラエティが増え、原子シートを活用した新たな応用や科学の発展に貢献することが期待されます。


【今後の展開】
 「ナノ構造化された酸化物原子シートの創出」は原子シート研究をさらに活発化させ、新たな酸化物原子シート群の創製や新機能の付与が期待されます。今後は、本研究で得られた知見と、原子スケールで設計されたヘテロ接合の物性との相関を明らかにすることが望まれます。また、同様の酸化物原子シートが強相関酸化物La0.7Ca0.3MnO3薄膜の上にも形成することをすでに実証しており、SrTiO3基板の電子状態が原子シートの電子状態に影響を与えるなどの相互作用も含め、多彩な物性が期待できます。


【付記事項】
 本研究成果は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)研究課題名「酸化物エレクトロニクスパラダイムシフトを目指したアトムエンジニアリング」(平成22年〜25年度、研究者:一杉太郎)の支援を受けて、また一部は科学研究費補助金・基盤研究(A)「LaAlO3/SrTiO3ヘテロ構造の原子スケール電子状態(26246022)」の支援を受けて行われました。


【参考図】

 ※図1〜図3・用語解説は添付の関連資料を参照


【論文情報】
 Takeo Ohsawa,Mitsuhiro Saito,Ikutaro Hamada,Ryota Shimizu,Katsuya Iwaya,Susumu Shiraki,Zhongchang Wang,Yuichi Ikuhara,Taro Hitosugi,“A Single−Atom−Thick TiO2 Nanomesh on an Insulating Oxide”,ACS Nano(2015).




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