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首都大学東京と理研など、日本近海の海面水温が関東の高温多湿な夏に寄与していることを発見

2015-08-19

【研究成果発表】日本近海の海面水温が関東の高温多湿な夏に寄与していることを発見
首都大学東京理化学研究所・北海道大学・埼玉県環境科学国際センター・海洋研究開発機構との共同研究〜


 首都大学東京理化学研究所・北海道大学・埼玉県環境科学国際センター・海洋研究開発機構からなる研究チームは、過去31年分のデータに基づいた領域気候モデルを用いた数値シミュレーションにより、関東の夏の気温に対する海面水温の影響を評価した結果、日本近海の海面水温の変化が関東地方の気温変動に影響を及ぼしていることを明らかにしました。具体的には、関東南沖を流れる黒潮周辺の年々の海面水温の変動が、関東地方の気温変動を増幅しており、約3割の気温変動は海面水温の影響によって説明できることが分かりました。また、長期的な海面水温変化が長期的な気温変化に部分的に寄与していると考えられます。さらに、日本近海の海水の蒸発量の増加が関東地方の水蒸気量の増加を引き起こし、地域スケールの温室効果を強化している可能性も示唆されました。


【研究の背景】
 近年世界各地で、地上気温の上昇が報告されていますが、同時に海面水温も上昇しており、特に黒潮域の海面水温の上昇が世界の海洋の平均よりも大きいことが指摘されています。また、夏季の地上気温の上昇は、熱中症リスクの増大や電力の需要逼迫など、私たちの健康や生活に大きな影響を及ぼします。地域スケールの気候変動では、冬季の海面水温が気候変動に大きな影響を与えることは知られていますが、夏季については、あまり研究がありませんでした。また、これまでは、夏の気温変動には、近海の海面水温の影響は小さく、太平洋高気圧の張り出しの強さや熱帯海洋の海面水温の遠隔影響(例:エルニーニョラニーニャ現象)などにより変動すると考えられていました。地域スケールの気温変動には、地球温暖化に伴う広域的な気温上昇に加えて、近傍の海面水温による地域スケールの気温上昇が含まれているため、両者を区別して評価することで、その地域の気温変動の原因解明につながることが期待されます。


【研究の詳細】
 首都大学東京 高橋洋 助教、理化学研究所計算科学研究機構 足立幸穂 研究員、北海道大学 佐藤友徳 准教授、埼玉県環境科学国際センター 原政之 研究員、海洋研究開発機構 馬燮銚 主任研究員、海洋研究開発機構(現 筑波大学) 木村富士男 上席研究員からなる研究チームは、上記の研究背景をもとに、領域気候モデル※1を用いた数値シミュレーションによって、夏の関東の地上気温変動に対する関東南沖を流れる黒潮周辺の海面水温の影響を評価しました。過去31年間(1982年−2012年)の8月について、それぞれの年の月平均の海面水温の観測値を与えたシミュレーションと、31年間の平均値を与えたシミュレーションをそれぞれ31年分実施しました。それぞれの年の月平均海面水温を与えたシミュレーションでは、長期間の気象観測データと比較し、現実的なシミュレーションであることを確認しました。二つのシミュレーション結果の差から、海面水温変動のみに起因する気温などの変動を取り出すことができます。

 その結果、海面水温の年々の変動が、関東地方の気温変動を増幅していることが分かり、関東地方の気温変動のうちの約3割が海面水温の変動によって説明されることが分かりました(残りの7割は、太平洋高気圧の強弱、熱帯海洋の海面水温の遠隔影響、陸地の乾燥度合などによるものと考えられます)。また、海面水温が平均よりも高い年は、地上気温だけではなく、水蒸気量も大きくなることが分かりました。この結果は、海面水温が平均よりも高い年には、高温多湿になりやすい傾向があることを示しています。

 海面水温変動による関東地方の気温変動には、大気中の水蒸気量が変動することによる温室効果の強弱が関係しているものと考えられます。水蒸気は温室効果が強い気体であるため、大気中の水蒸気量が増えることは、下向きの赤外放射※2を増加させ、地表付近での放射冷却を軽減します。経験式から見積もった水蒸気量増加による下向きの赤外放射の変化量は、詳細なシミュレーションにより計算された変化量と同等のオーダーであり、水蒸気量変化が温室効果の強化に重要であることが示唆されました。一方で、地上気温を大きく左右する要因として、雲による日射の遮断が考えられます。水蒸気量が変動することから雲量も変化する可能性がありますが、本研究のシミュレーションでは、海面水温変動のみに起因する関東地方における日射の変動(雲量の変動)寄与は十分に小さいことがわかりました。


【研究の成果】
 本研究は、夏季において、関東南沖を流れる黒潮周辺の海面水温がどの程度関東地方の地上気温に影響を及ぼしているかを定量的に明らかにし、気温変化が水蒸気量の変動に伴う下向き赤外放射の変動に関係していることを示しました。高温で水蒸気の多い環境は、人間活動(空調などのエネルギー需要)や健康問題(熱中症など)と直結します。したがって、信頼性の高い気候変動の把握と気象・気候予測を行うためには、既存の気象観測の継続に加えて、水蒸気量観測網の整備とデータアーカイブの自動化、さらに数値モデルの改良を通じて水蒸気量変動を理解することが重要であると言えます。一方、地球温暖化に伴う将来の広域的な気温予測に加えて、本研究のような領域スケールの温室効果も考慮することで詳細な温暖化予測が可能になることが期待されます。


■発表雑誌
 本研究成果は、2015年7月9日付けのJournal of Climate(Early online release版)に発表されました。
 本研究の一部は、環境省環境研究総合推進費、文部科学省グリーンネットワークオブエクセレンス(GRENE)、文部科学省気候変動適応研究推進プログラム(RECCA)の支援を受けて行われました。


【論文発表の概要】
 ■研究論文名:An oceanic impact of the Kuroshio on surface air temperature on the Pacific coast of Japan in summer:Regional H2O greenhouse gas effect.(夏季太平洋側における地上気温への黒潮周辺の海面水温の影響:領域スケールの水蒸気の温室効果)
 ■著者:高橋洋(首都大学東京都市環境学部)、足立幸穂(理化学研究所計算科学研究機構)、佐藤友徳(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、原政之(埼玉県環境科学国際センター)、馬燮銚(海洋研究開発機構)、木村富士男(海洋研究開発機構(現 筑波大学))
 ■公表雑誌:Journal of Climate(アメリカ気象学会, 7月9日Early online release版)
 ■公表日:2015年7月9日(Early online releaseにて公開)


【用語解説】
 ※1 領域気候モデル
 物理法則に基づいて定式化された方程式系をコンピュータ上で解き、気温や風、降水量など気象要素の時間変化を計算するためのソフトウェアを気候モデルや気象モデルと呼びます。これらのモデルは日々の天気予報や地球温暖化予測などに使用されています。領域気候モデルは対象とする地域のみを高い空間解像度で計算することが可能なモデルです。本研究では、関東地方を含む領域を4kmの高解像度で1982年から2012年の31年間の8月のみを計算しています。

 ※2 下向き赤外放射
 地球大気から下向きに(地上に向けて)放射される赤外放射(赤外線)です。地表で受け取る赤外放射は、主に地表付近の気温、大気全体の水蒸気量の影響を受けます。条件によって、雲の影響も受けます。全球規模では、効果ガスの増加によりこの下向き赤外放射が増加することが、球規模の温暖化の主要因です。


<参考>

 *添付資料は添付の関連資料を参照


 ■首都大学東京 都市環境学部地理環境コース、都市環境研究科 地理環境科学域HP
 http://www.ues.tmu.ac.jp/geog/index.html
 ■首都大学東京 気候システム研究グループHP
 http://camo.geog.ues.tmu.ac.jp/index.html




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