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東大など、超伝導に隠された異常金属相を発見

2015-08-04

「超伝導に隠された異常金属相の発見」
−量子臨界「点」ではなく「相」として振舞う不思議な金属状態−


1.発表者:
 冨田崇弘(東京大学物性研究所 新物質科学研究部門 特任研究員 研究当時:日本大学 助教)
 久我健太郎(大阪大学 理学研究科附属先端強磁場科学研究センター 特任研究員 研究当時:東京大学物性研究所 博士課程学生)
 上床美也(東京大学物性研究所 極限環境物性部門 教授)
 中辻 知(東京大学物性研究所 新物質科学研究部門 准教授)


2.発表のポイント:
 ◆量子臨界「点」ではなく、幅広い領域で観測される新たな量子臨界「相」を発見。
 ◆磁性相から孤立した異常金属相並びに超伝導相を発見した。これは従来の量子スピンゆらぎを媒介とした超伝導機構とは異なる新しい機構の存在を示す。
 ◆異常金属相と超伝導の関係性を深める事で新しい超伝導体の開発、新奇物性の探索への指針。


3.発表概要:
 氷から水のように温度が変わる事で、ある物質の状態(相)が別の異なる状態へ変化する事を相転移と言います。温度が高い場合には、熱ゆらぎ(注1)により相転移が起こりますが、絶対零度では、量子ゆらぎにより相転移が起こり、量子相転移と呼んでいます。例えば、低温に冷やした金属固体では、量子ゆらぎの増大とともに磁石の性質を持つ状態(磁性相と呼ばれ電子のスピンが規則的に配列した状態)から磁石の性質を持たない状態へ連続的な変化が見られます。特に、自然界で最も低い温度(絶対零度:−273.15℃)でのこれらの相と相との境界を量子臨界点と呼び、その近傍ではとても不安定な点として特異な物理量が観測されます。高温超伝導体(注2)や、重い電子系(注3)において現れる超伝導は、この不安定な量子臨界点近傍の状態をより安定させるために現れ、磁性相と隣接するのが一般的です。
 今回、東京大学物性研究所(所長 瀧川仁)の冨田崇弘特任研究員(研究当時 日本大学助教)と中辻知准教授らの研究グループは、希土類元素を含む超伝導金属化合物YbAlB4(Yb:イッテルビウム、Al:アルミニウム、B:ホウ素)の絶対零度近傍で、幅広い範囲で示す“異常金属相”と呼ばれる新しい相を世界で初めて観測しました。従来の異常金属状態は、量子臨界点と呼ばれる不安定な「点」でのみ観測されていましたが、今回発見したものは、安定な「相」として観測された新しい相です。この相は、この物質の持つ超伝導転移が80mKと絶対零度に近かったために金属の電気的特性を失うことなく発見に至りました。この不思議な金属相と同時に現れる超伝導相も、磁性相と隣接せず孤立して存在するため、従来のスピンゆらぎによる理論では説明できない新しい超伝導状態であることが分かりました。この異常金属相と超伝導との関係を明らかにすることで、新しい超伝導体の開発、並びに新奇物性の探索に貢献できることが期待されます。今回の研究成果は、2015年7月30日(米国時間)の米国科学振興協会(AAAS)発行の『Science』誌のオンライン版で発表されます。


4.発表内容:
 現代物質科学のメインゴールの1つは、新奇物質の新しい電子特性を発見する事です。100年前の超伝導の発見や、30年前の銅酸化物高温超伝導体の発見等も正にその1つです。東京大学物性研究所の冨田崇弘特任研究員と中辻知准教授らの研究グループは、今回、重い電子系超伝導体と呼ばれる物質で、電子特性に起因する新しい物質の状態(相)とそこに現れる磁性相から孤立した不思議な超伝導相を発見しました。
 超伝導とは低温で電気抵抗が消失する現象で、その超伝導の性質を生かし、送電線、リニアモーターカー、超高感度量子磁束干渉計、医療用MRI診断装置、エネルギー貯蔵装置などのさまざまな分野で、幅広く応用され研究が進められています。これらの応用に利用されている超伝導は非磁性体のフォノン(格子揺らぎ)による機構により発現することが知られています。
 一方、高温超伝導や、重い電子系等の電子相関が重要な系での超伝導近傍には、磁性相と呼ばれる磁石の性質を持つ電子のスピンが整列する磁気秩序状態が隣接しているのが一般的です。そして、この磁性相の反対側には、フェルミ液体(注4)と呼ばれる電子同士が強く干渉し合う特性を持つ秩序化しない金属状態(無秩序状態)が現れる事が知られています。(図1(a))最も低い温度(絶対零度)で現れるこれらの相と相との間の境界点を量子臨界点と呼びます。実験的に、圧力や磁場、更に化学置換等の外部制御パラメータを変化させることで無秩序状態から磁気秩序へ連続的な変化が可能で、この臨界点付近の様子を詳細に調べることができます。実際、この磁性相とフェルミ液体相の間の相境界は非常に不安定で、より安定な状態になろうと超伝導が現れます。高温超伝導体や重い電子系超伝導もこのような量子臨界点近傍で現れます。特に絶対零度近傍では、量子臨界点近傍で新奇な超伝導相が現れることが知られています。しかし、この臨界点近傍で新奇な金属現象や超伝導状態の発生メカニズムの解明は、超伝導研究の中で重要なテーマですが、まだ完全解明には至っていません。
 今回、東京大学物性研究所の冨田崇弘特任研究員と中辻知准教授らの研究グループは、非常に高純度な希土類金属間化合物YbAlB4を合成し、絶対零度近傍の重い電子系超伝導とその金属状態を調べました。高純度が必要な理由は、絶対零度近傍では量子ゆらぎが不純物の影響を強く受けやすいためです。この物質は、常圧・絶対零度で量子臨界点(*1)に位置しており同時に、80mKと極めて低い温度で重い電子系の超伝導状態を示します。通常の重い電子系化合物における性質から、化学組成や外部圧力による微少な外部制御により、超伝導が消失して、イッテルビウムの磁性原子のスピンが規則的に配列する磁性相に移り変わることが期待されていました。(図1(a))本研究グループが行った今回の実験では、絶対零度近傍で外部圧力、1万気圧の下で超伝導が消失しても従来の量子相転移は観測されませんでした。それどころか量子臨界点でのみ現れる異常金属状態が、幅広い範囲で観測されました。絶対零度近傍では、ある金属相から別の金属相への変化は非常に不安定な量子臨界「点」として現れるべきですが、量子臨界の「相」と思われる新しい相が実現している可能性があります。この発見は、超伝導転移温度80mKという超伝導相の下に隠れており、1000Gという磁場によって超伝導状態を抑制することで初めて確認できました。また、本研究グループは、超伝導が消失して、さらに2.5万気圧ほどの高い圧力制御を行う事で、磁性相が現れる事も確認しました。これは、超伝導相が磁性相から孤立していることを示しています。今まで異常な物理量を示す領域は、量子臨界点近傍のみと考えられてきましたが、幅広い領域で異常金属状態を示す新しい相を発見したこと、また、その金属相が磁性相から独立し、新奇な超伝導状態を発現することを発見したのは今回が世界で初めてです。(図1(b))これらの量子臨界現象・超伝導は従来のスピンのゆらぎの理論だけでは説明が難しく、この物質特有の価数ゆらぎ(注5,図2)による影響とも考え
られます。
 今後、この異常金属相と超伝導の関係を明らかにすることで、新しい高温超伝導への開発の手がかり並びに新奇物性の探索への足がかりとして貢献できることが期待されます。なお、本研究は、科学研究費助成事業、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の一環として行われました。

 (*1)Y.Matsumoto,S.Nakatsuji,K.Kuga,Y.Karaki,N.Horie,Y.Shimura,
      T.Sakakibara,A.H.Nevidomskyy,andP.Coleman,Science,331,316(2011).


5.発表雑誌:
 雑誌名:「Science」誌 7月30日(オンライン版)
 論文タイトル:Strange metal without magnetic criticality
 著者:Takahiro Tomita*,Kentaro Kuga,Yoshiya Uwatoko,Piers Coleman,and Satoru Nakatsuji*


 ※用語解説・図1〜図2は添付の関連資料を参照




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