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九大と東京ガス、燃料電池の効率を飛躍的に高める革新技術の理論設計に成功

2015-08-03

80%を超える“超高効率発電”に向けて
燃料電池の効率を飛躍的に高める革新技術の理論設計に成功!−


■概要
 九州大学次世代燃料電池産学連携研究センター(NEXT−FC)/大学院工学研究院の佐々木一成主幹教授、松崎良雄客員教授、立川雄也特任助教らの研究グループは、東京ガス株式会社基盤技術部との共同研究で、高効率発電を特長とする固体酸化物形燃料電池(SOFC)(※1)の発電効率をさらに飛躍的に向上させる革新技術の理論設計に成功しました。
 SOFCの2つ以上のセルスタック(※2)を燃料の上流から下流へ燃料の流れに沿って多段に配置した構成において、固体電解質内部の電荷担体(イオン)を従来の酸化物イオン(O2-)からプロトン(H+)に置き換えた場合に、発電効率として80%LHV(※3)を超える“超高効率”が発現することをそのメカニズムとともに世界で初めて示すことに成功しました。
 このような超高効率で行われる化石燃料から電力へのエネルギー変換は、環境性の高いスマートエネルギー社会実現に向けた基幹エネルギー技術として期待されます。また、この成果はエネルギー変換材料の研究開発の方向性にも重要な知見を与えるものです。
 本研究成果は、2015年7月28日(火曜)午前10時(英国時間)に科学誌 Nature 姉妹紙のオンラインジャーナル『Scientific Reports』で公開されました。


■背景
 燃料電池は燃料の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換することが可能であり、次世代の高効率エネルギー変換技術として注目されています。燃料電池の中でも特に発電効率が高い固体酸化物形燃料電池(SOFC)はセラミック材料で構成され高温下で動作することから多様な燃料を電気エネルギーに変換することが可能です。
 近年、シェールガスシェールオイル(※4)などの非在来型の化石燃料が新たな天然ガス資源や石油資源として開発されるなかで、化石燃料の高効率でクリーンな利用技術の必要性が高まっています。化石燃料の中でもメタンを主成分とする天然ガスは、炭素成分が少なく環境性が最も高い燃料として注目されています。
 家庭用や業務用に実用化されているSOFCシステムはこの天然ガスを主成分とする都市ガスを主な燃料とし、45〜55%LHV程度の発電効率を実現しています。この発電効率は現状の分散型電源としては最高効率ですが、大規模な普及に向けて、さらなる高効率化・環境性の向上が望まれています。


■内容
 SOFCの発電効率をさらに飛躍的に高効率化するアプローチとして、本研究グループは2つ以上のセルスタックを燃料の上流から下流へ燃料の流れに沿って多段に配置した構成において、まず、発電効率を多種の可変構成パラメータ(※5)の代数関数として定式化する手法を開発しました。次に、得られた手法を適用し、SOFCの2つのセルスタック(セルの内部抵抗=0.383Ωcm2、温度=1000K)を燃料の上流と下流にそれぞれ配置した2段構成において、発電効率が最大化するように構成パラメータを最適化しました。この際、スタックの耐久性を損なわないように、各スタックの燃料利用率の最大値を制約条件として規定しました。
 さらに、最適化条件において固体電解質内部の電荷担体(移動イオン)を従来の酸化物イオン(O2-)からプロトン(H+)に置き換えた場合に(図1)、発電効率として80%LHVを超える“超高効率”が発現することを理論的に世界で初めて見出しました。電荷担体(移動イオン)の違いが起電力発生機構や電気化学反応時の燃料組成の変化に与える影響を解析することによって、この“超高効率”が発生するメカニズムも明らかにしました(図2)。解析結果の検証のため、この“超高効率”を示した構成を用い、メタン燃料を0.01mol secの−1乗の流量で供給し電気エネルギーに変換する反応システムの数値実験を実施しました。その結果、“超高効率発電”が数値実験でも高精度に再現されました(図2)。

 今後はこの“超高効率発電”実現のキーとなる高いプロトン輸率を有するプロトン導電性酸化物の開発とそれを電解質材料に用いた多段酸化SOFCの研究開発に取り組んでいきます。

 *図1・2は添付の関連資料を参照


■効果
 このような超高効率で行われる化石燃料から電力へのエネルギー変換は、CO2の排出削減に大きく貢献し、環境性の高いスマートエネルギー社会の実現に向けた基幹発電技術として期待されます。また、“超高効率発電”では、発電時に発生する排熱が少ないため、熱の利用を必ずしも前提とする必要性がなく、市場適用性の極めて高い分散発電技術になると考えられます。


■論文情報
 “Effect of proton−conduction in electrolyte on electric efficiency of multi−stage solid oxide fuel cells”,Yoshio Matsuzaki,Yuya Tachikawa,Takaaki Somekawa,Toru hatae,Hiroshige Matsumoto,Shunsuke Taniguchi,Kazunari Sasaki,Scientific Reports 5,12640;doi:10.1038/srep12640(2015).


■研究について
 本研究は、文部科学省 革新的イノベーション創出プログラム:COI STREAM(Center of Innovation Science and Technology based Radical Innovation and Entrepreneurship Program)の助成を受けて行われました。グリーンアジア国際戦略総合特区「スマート燃料電池社会実証」事業における研究開発基盤整備に対しても感謝します。


【用語解説】
 (※1)固体酸化物形燃料電池(SOFC):固体電解質と呼ばれる、イオンが伝導可能なセラミックスを用いた高温で作動する燃料電池、Solid Oxide Fuel Cell。
 (※2)セルスタック:セルと呼ばれる発電を行う部位を直列に連結させた集合体。
 (※3)LHV:Lower Heating Valueの略。燃料の燃焼熱に水分の凝縮熱を含めない時の効率値。
 (※4)シェールガスシェールオイル:地下のシェール層と呼ばれる油と天然ガスを多く含む地層に埋蔵されている非在来型の化石燃料。
 (※5)可変構成パラメータ:技術の構成条件のうち変更可能な数値を与えることが可能なもの。例えば、上流側セルスタック内セル数と下流側セルスタック内セル数の比率、各セルスタックでのそれぞれの燃料利用率など。


・この件に関するお問合せはこちらへ→
 お客さまセンター(一部地域は支社)
 http://home.tokyo-gas.co.jp/userguide/okyakusama_c.html



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