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山形大など、塗布型白色リン光タンデム有機EL素子の開発に成功

2015-07-25

塗布型白色リン光タンデム有機EL素子の開発に成功
〜印刷による多層構造で高効率化を達成〜


■ポイント
 ・有機EL素子に用いられるリン光発光層は、発光効率は高いが塗布溶媒に溶けやすいため、塗布印刷プロセスにおいて複数のEL素子を塗り重ねるタンデム構造への応用が困難であった。
 ・塗布溶媒への溶解性や酸性度を制御し、低分子リン光材料を用いた塗布型タンデム構造を有する有機EL素子の開発に成功した。
 ・その結果、リン光発光材料を使った塗布型有機EL素子の発光性能(外部量子効率、電流効率)として世界最高水準を達成した。


 JST戦略的イノベーション創出推進プログラム(S−イノベ)の一環として、山形大学 大学院理工学研究科の千葉 貴之 助教、夫 勇進 准教授、城戸 淳二 教授らは、塗布印刷プロセスによるタンデム構造注1)を持つ白色リン光注2)有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)素子の開発に成功しました。
 有機ELの製造プロセスの一種である塗布印刷プロセスは、真空プロセスと比較して製造コストや環境負荷の削減、生産スピードの向上と大面積成膜が可能で、ディスプレイや照明用途への応用が期待されています。また、有機EL素子の普及には、発光効率や耐久性の改善が必要であり、複数のELユニットを中間電極注3)を介して直列に接続したタンデム構造に注目が集まっています。
 研究チームは、発光層の耐溶媒性を改善し、さらにリン光材料を用いることで大幅な発光効率の向上に成功しました。低分子リン光発光層に高分子バインダー注4)を少量添加し、上層の塗布溶媒を適切に選定することで耐溶媒性の向上を実現しました。さらに、中間電極の導電性高分子材料を中性化することで、耐酸性の低い酸化亜鉛ナノ粒子との積層構造を可能にし、タンデム構造を実現しました。発光スペクトルおよび駆動電圧は各ELユニットの足し合わせを示し、外部量子効率28%・電流効率69cd/A(カンデラ/アンペア)の塗布型白色素子における世界最高効率を達成しました。
 本研究により、素子の高性能化に向けた材料および素子開発がより一層加速されることが期待できます
 本研究成果は、2015年7月16日にWiley−VCH社が発行する「Advanced Materials」にてオンライン公開されました。


 本成果は、以下の事業・研究課題によって得られました。
  ・事業名:研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム(S−イノベ)
  ・研究開発テーマ:「有機材料を基礎とした新規エレクトロニクス技術の開発」
    (プログラムオフィサー:谷口 彬雄 信州大学 名誉教授・特任教授)
  ・研究課題名:「印刷で製造するフレキシブル有機EL照明の開発」
  ・プロジェクトマネージャー:城戸 淳二 (山形大学 大学院理工学研究科 教授)

 上記研究課題では、白熱電球や蛍光灯を代替する高効率・長寿命な白色有機EL照明の開発を目的としています。そのために、印刷・塗工可能な高効率リン光材料群の開発、高効率・長寿命化を支える印刷・塗工プロセスに適したホールおよび電子輸送材料やホスト材料の開発、多積層タンデム構造を可能とする材料不溶化技術や溶解性制御技術、大面積薄膜印刷・塗工プロセスの高精度化や高速化技術の開発を実施し、ロールツーロール印刷・塗工プロセスの可能性検証も行います。


<研究の背景と経緯>
 有機発光を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL)は、多様な発光が可能で、優れた発光効率を持つことから、次世代型のフラットパネルディスプレイとして注目されています。また、自然光に近い見え方(演色性注5)の高さ)ができることから蛍光灯やLEDに替わる白色照明としても期待されています。
 有機ELの製造工程において、低コストで大面積成膜ができる塗布印刷プロセスは必要不可欠な技術ですが、発光効率と耐久性の向上が課題となっています。複数のELユニットと中間電極から構成されるタンデム有機ELは、通常の有機ELよりも低い電流密度で駆動することから、発光効率と耐久性の改善に有効です。タンデム構造は、発光層や中間電極などの複数の機能層の積層化が必要になります。現在、発光層は、上層の塗布溶媒に溶けにくい蛍光性高分子材料に限定されており、高い発光効率を持つ低分子リン光材料の発光層への利用が期待されていました。研究チームは、発光色の異なる低分子リン光材料を独自に開発したELユニットに組み込み、上層の塗布溶媒に対する耐溶媒性を向上させた多積層化技術の確立により、高効率白色リン光タンデム有機ELの開発に成功しました。


<研究の内容>
 高い発光効率を持つ低分子リン光層は耐溶媒性が低いことから、タンデム有機EL素子への応用が困難でした。このため、今までに開発してきた塗布型タンデム有機ELでは、塗布溶媒により下層が溶けないようにするため、発光層には耐溶媒性の優れた蛍光性高分子材料を使用していました。
 今回、研究チームは、低分子リン光発光層と中間電極として用いた導電性高分子材料のPEDOT:PSS注6)の積層技術を確立し、以前開発した有機溶媒への溶解性制御による低分子塗布有機EL素子技術をタンデム構造に応用することで、タンデム白色リン光有機EL素子を開発しました。図1に本研究で使用した有機EL材料とタンデム有機EL素子構造を示します。低分子ホスト材料(TCTAおよび26DCzppy)とリン光材料からなる発光層へ高分子バインダー(PVK)を少量添加することにより、水とアルコール混合溶媒への不溶化を実現しました(図2)。続いて、中間電極として各ELユニットへ電荷を供給する役目を果たすPSDOT:PSSを水:アルコール混合溶媒に分散させ、発光層を溶かさずに塗布積層できました。さらに、PEDOT:PSSは発光層の塗布溶媒であるテトラヒドロフランに不溶性を示し、中間電極の下層に位置する発光層への浸透を防ぎます。また、電子注入層である酸化亜鉛ナノ粒子は、耐酸性が低いため、酸性であるPEDOT:PSSとの積層化が困難でしたが、水酸化ナトリウムによりPEDOT:PSSを中性化し、酸化亜鉛ナノ粒子との積層構造を可能にしました。
 上記の発光層、中間電極、電子注入層を用いて作製したタンデム構造を有する塗布型白色リン光有機EL素子は、積層した各ELユニットから青色および緑・赤色発光が得られたことから、中間電極から各ELユニットへ適切に電荷が供給されていることを明らかにしました(図3a)。駆動電圧および発光効率についても同様に各ELユニットのそれぞれの値を足し合わせた値が得られ、実用水準輝度5,000cd/m2において世界最高水準の外部量子効率28%・電流効率69cd/Aを達成しました(図3b)。これまで、蛍光性高分子材料に限定されていた塗布型タンデム有機EL素子(外部量子効率6%〜程度)において、各機能層の溶解性や酸性度を制御することにより、初めて低分子リン光材料を用いた塗布型タンデム有機EL素子の開発に成功しました。


<今後の展開>
 本研究成果により、低分子材料主体の発光層に高分子バインダー材料を少量添加することで、上層の塗布溶媒に対する耐溶媒性を向上させ、高い発光効率を持つリン光材料を用いた塗布型白色リン光素子のタンデム化に成功しました。これまでは、塗布成膜によるタンデム有機EL素子は蛍光性高分子材料のみに限定されていましたが、低分子かつリン光材料の応用が可能になり、材料の自由度が大幅に広がりました。
 今回の成果をもとに、高分子バインダー添加しないオール低分子発光層の開発や導電性高分子材料のさらなる改善を進めることで、発光効率と長寿命化の両立を実現し、実用可能な塗布型有機EL素子が期待されます。


<谷口 彬雄 プログラムオフィサー(PO)コメント>
 有機ELの2層構造を塗布印刷により作製し、白色光源を実現した。今回の成果をもとに効率、耐久性共に活かせる実用的多層構造の実現につなげたい。


<参考図>

 ※添付の関連資料を参照


<用語解説>
 注1)タンデム構造
 複数のELユニットとそれらを接続する中間電極から成る有機EL素子構造。各ELユニットからそれぞれ発光を得る事ができるため、高効率化が可能になる。また、少ない投入電流で駆動するため、有機材料への電気化学的な負荷を抑制でき、耐久性が改善される。

 注2)リン光
 励起三重項状態からの発光。励起一重項状態からの発光を利用する蛍光と比較して4倍の発光効率を得ることが出来る。

 注3)中間電極
 各ELユニットへホールと電子をそれぞれ供給する擬似的な電極材料。本研究では導電性高分子であるPEDOT:PSSを使用した。

 注4)高分子バインダー
 発光や電荷輸送といった光・電気特性を損なうことなく上層の溶媒耐性を向上させる材料。本研究ではビニルカルバゾール骨格を持つPVKを使用した。

 注5)PEDOT:PSS
 ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリエチレンスルホン酸(PSS)からなる水溶性導電性高分子材料。スルホン酸基を有していることから、強酸性を示す。

 注6)演色性
 照明などの光源で物体を照らしたときの、その物体の見え方に変化を与える光源の特性。


<論文タイトル>
 “Solution−Processed White Phosphorescent Tandem Organic Light−Emitting Devices”
 (塗布プロセスにより作製した白色リン光タンデム型有機EL素子)




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