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産総研、環境計測に適した超高速・高精度なガス検出・同定法を開発

2015-07-15

環境計測に適した超高速・高精度なガス検出・同定法を開発
−複数のガスがリアルタイムで分析可能に−


<ポイント>
 ・光のものさし「光コム」を2台用いた分光装置により、高速・高精度にガスを検出・同定
 ・最も広い波長域でガスによる光吸収が測定可能で、複数のガスが共存する環境に適応
 ・環境ガスの分析、内燃機関の評価、呼気分析など幅広い応用に期待


<概要>
 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)物理計測標準研究部門【研究部門長 中村 安宏】周波数計測研究グループ 大久保 章 研究員、稲場 肇 研究グループ長は、環境計測に適した高速で高精度のガス検出・同定法を開発した。

 この技術は、産総研独自の高性能な「光コム」を2台用いたデュアルコム分光装置を開発することによって実現した。これまでガス分析ではフーリエ変換赤外分光(FT−IR)を用いる方法があったが、これと比較して2桁高い分解能を実現した。さらに、短時間で測定できることから、複数のガスが共存する状態での、環境ガスの分析、内燃機関の評価、呼気分析など、環境、エネルギー、医療といった分野での幅広い応用が期待される。

 なお、この技術の詳細は、近く学術誌Applied Physics Expressで発表される。

 ・参考資料は添付の関連資料「参考資料1」を参照

<開発の社会的背景>
 低環境負荷社会の実現に向けて、感度や分解能の高い環境計測をリアルタイムで行う技術が求められている。ガス分析手法の一つである分光測定は、ガス分子が固有の波長の光を吸収する性質を利用して、温室効果ガスや有害ガスなどの環境ガスの計測やエンジンなどの内燃機関の評価に用いられてきた。複数の分子や複雑な構造の分子を含んだガスをリアルタイムで分析するためには、高い分解能と短時間での測定が必要であるが、現在主に用いられているFT−IRではこれらを同時に実現することはできなかった。


<研究の経緯>
 産総研では、長さの国家標準や、国際的な次世代の時間標準の候補である光時計の開発に貢献するために、レーザーの周波数を精密に測ったり制御したりするための「光コム」の研究開発を進め、周波数雑音の極めて小さい世界最高水準の「光コム」を開発してきた。一方、「光コム」を2台使うデュアルコム分光装置は、従来のFT−IRを超える分解能と周波数(波長)精度で、ガス分子の吸収を短時間で測定できるため、ガスの種類を高速で高精度に検出・同定できる。

 そこで、産総研の高性能な「光コム」をデュアルコム分光装置に適用し、データ処理法を工夫して、高速にガスを検出・同定する技術を開発することとした。

 なお、この研究開発は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(ERATO)「美濃島知的光シンセサイザプロジェクト」(平成26〜30年度)、同機構の産学共創基礎基盤研究プログラム「国家標準にトレーサブルなコヒーレント周波数リンクの創生とそれに基づいたテラヘルツ周波数標準技術の系統的構築」(平成23〜26年度)、独立行政法人 日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業「先端光源を融合した超高分解能赤外分子分光計の開発」(平成23〜25年度)、「高安定光共振器による光周波数コムの絶対線幅狭窄化」(平成23〜25年度)、「低熱雑音光共振器を用いた超安定化レーザーの開発」(平成22〜24年度)による支援を受けて行った。


<研究の内容>
 産総研独自の高性能な「光コム」を2台用いてデュアルコム分光装置を開発した。データ処理法を工夫することで、高い分解能と精度に加えて、デュアルコム分光装置として最大の測定波長帯域を実現した。図1は、水、アセチレン、メタンの3種類のガスからなる試料について、波長1.0μmから1.9μm(波数5100から10000cm-1)にわたる超広帯域分光測定したスペクトルの全体図と一部の拡大図である。試料中の3種類のガス分子による吸収を同時に測定できることが分かる。この帯域は、これまでのデュアルコム分光装置の中で最も広帯域であった波数5900から7300cm-1の3倍以上広く、分解能は0.0016cm-1と一般的なFT−IRの0.1cm-1よりはるかに高い。しかも、測定1回あたりにかかる時間はわずか13/100秒である。そのため、メタン、アンモニア、フッ化水素、塩化水素、アセチレン、水など、FT−IRでは難しかった複数のガス分子の同時検出が可能になる。

 ・図1は添付の関連資料を参照

 図2は、今回開発したデュアルコム分光装置により測定した波長1.5μm帯におけるアセチレンガス分子の吸収スペクトルと、分子の吸収スペクトルデータベース(HITRAN)との比較である。開発したデュアルコム分光装置の測定結果とデータベースの値は非常によく一致していることが分かる。また、この装置は、FT−IRでは難しかった同位体分析にも活用できる。

 今回開発したデュアルコム分光装置は、使用目的に合わせて波長帯域、感度、測定時間などを最適化できるため、環境ガスの分析、内燃機関の評価、呼気分析など、環境、エネルギー、医療といった分野での幅広い応用が期待できる。

 ・図2は添付の関連資料を参照


<今後の予定>
 装置の小型化のほか、データ取得・解析プログラムの改良を進め、実験室だけでなくフィールドでの使用を想定した開発を行う。また、微量な環境ガスの検出、プラズマの温度測定など、さまざまな試料に対して、最適化した分光測定を行う予定である。


<用語の説明>
◆光コム
 モード同期レーザーと呼ばれる超短光パルスレーザーから出力される、広帯域の櫛状スペクトルを持つ光のこと。その光を発生させる装置のことも指す。この超短光パルス列のスペクトルでは、細いスペクトル成分が等しい間隔周波数(frep)で並んでいる。この形状がくし(comb)に似ていることから「光コム(comb)」と呼ばれる。間隔周波数frepを周波数標準に同期すれば、光コムは「光周波数のものさし」となる。

 ・参考資料は添付の関連資料「参考資料2」を参照

◆デュアルコム分光
 間隔周波数のわずかに異なる2台の「光コム」を干渉させ、FT−IRと同様に得られた干渉信号をフーリエ変換することで試料の吸収スペクトルを取得する測定法。FT−IRと異なり機械的な可動部分がなく、わずかに異なる間隔周波数がFT−IRの可動ミラーと同じ役割を果たす。スペクトルの周波数精度が高く、可動部分がないため、高速化しやすい。
フーリエ変換赤外分光(FT−IR)
 分子が赤外光の波長領域にもつ吸収や発光などを利用して、試料を分析する測定法。広い波数範囲の光を試料に照射し、干渉計を用いて得られる信号をフーリエ変換して試料の分子振動スペクトルを取得する。干渉計には可動式の鏡が取り付けられており、この鏡の移動距離が長いほど高分解能が得られる。逆に、可動距離が分解能を制限する要因でもある。また、可動式の鏡の揺らぎが、得られるスペクトルの周波数の精度を制限する。
◆分解能
 分光装置が分離、区別できる最小の波長(周波数)差。分光装置が出力するスペクトルデータの波長(周波数)目盛の最小値。
◆波数
 1波長分の波を1個と数えたときの、光の1cm当たりの波の個数。光の波長に反比例する。分子の吸収スペクトルの横軸の単位として用いられることが多い。
◆広帯域分光測定
 一度に測定できる波長(周波数)範囲を分光装置の帯域と呼び、広い帯域の分光測定を広帯域分光測定という。一度に多数の吸収線を観測したり、種類の分からないガスの分析を行ったりする場合などに用いる。
◆吸収スペクトルデータベース「HITRAN」
 HITRAN(high−resolution transmission molecular absorption database)は、大気による分子のマイクロ波から紫外域までの光の吸収と放出をシミュレートするために必要な分光パラメータをまとめたデータベースである。データベースのパラメータを使って、分子の吸収スペクトルを再現することができる。現在、47種類の分子(同位体種含む)が利用可能である。主にアメリカのハーバード大学スミソニアン天体物理学センターによって開発、維持されており、誰でも利用することができる。


・お問い合わせ
 お問い合わせフォーム
 https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/inquiry.html?sysid=8458



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