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東大など、超伝導温度より遙か高温から存在する超伝導電子を発見

2015-07-11

「超伝導できない超伝導電子
〜超伝導温度より遙か高温から存在する超伝導電子の発見〜」


1.発表者 近藤 猛(東京大学物性研究所附属極限コヒーレント光科学研究センター 准教授)
       Walid Malaeb(東京大学物性研究所附属極限コヒーレント光科学研究センター 特任研究員)
       石田 行章(東京大学物性研究所附属極限コヒーレント光科学研究センター 助教)
       笹川 崇男(東京工業大学応用セラミックス研究所 准教授)
       坂本 英城(名古屋大学工学研究科結晶材料工学専攻 博士課程)
       竹内 恒博(豊田工業大学物質工学分野エネルギー材料 教授)
       遠山 貴巳(東京理科大学理学部第一部応用物理学科 教授)
       辛 埴(東京大学物性研究所附属極限コヒーレント光科学研究センター 教授)


2.発表のポイント
 ・銅酸化物高温超伝導体(注1)では、通常の超伝導体とは異なり、抵抗ゼロの超伝導温度よりも遥か高温から超伝導電子(注2)が生成されていることを発見した。
 ・本研究は「レーザーを光電効果観察に活用する」という、物性研究所発祥の画期的アイディアから実現した超高分解能測定に基づく。
 ・超伝導温度の飛躍的向上と、その果てに夢見る室温超伝導実現への可能性が見えてきた。


3.発表概要
 空飛ぶ超特急「超電導リニア」が2027年に開通することが宣言され、超伝導が人々の生活に欠かせない身近な存在としてデビューする日が差し迫っています。今から約100年前の1911年、カマリン・オネス(オランダ)の研究室で突如として産声を上げた超伝導現象が、地道な基礎研究を経て、確かでクールな技術へと花開く、その瞬間に立ち会う機会に恵まれた私達は実に幸運です。
 超伝導はあらゆる物質で発現するごく一般的な現象であることが、今では広く認知されています。その中でもずば抜けて高い超伝導温度を持つチャンピオン物質が銅酸化物高温超伝導体です。東京大学物性研究所の近藤猛准教授と辛埴教授らの研究グループは、物性研究所が独自に開発したレーザー励起型の光電子分光装置(注3)を用いることで、従来とは一線を画す精度でその物質内を波打つ超伝導電子を観察しました。一般的な超伝導体で温度を上げて行くと、抵抗ゼロで特徴づけられる超伝導状態が消滅すると同時に、物質内の超伝導電子は皆無となります。これとは対照的に、銅酸化物高温超伝導体では、超伝導温度からかけ離れた更なる高温でも、超伝導電子が生き残ることが本研究により明らかとなりました。これは、現存する最も高い超伝導温度を持つ物質群での発見であり、超伝導温度の飛躍的向上と、その果てに夢見る室温超伝導の実現へ向け
て大きな希望を与えます。
 この研究成果は、Nature Communications誌(7月7日付け:日本時間7月7日)に掲載されます。


4.発表内容
 銅酸化物超伝導体は、安価な液体窒素温度でも超伝導転移することから、エネルギー問題を一挙に解決する夢の万能薬になるとの期待感で、発見当時、社会現象とも言える衝撃を与えた物質です。それから約30年、超伝導温度の更なる向上のためさまざまな物質探索が行われてきましたが、銅酸化物超伝導体は今でもその超伝導温度において他の追随を許さない圧倒的存在として君臨しています。しかしながら、自由な超伝導設計への指針となる「高い超伝導を生む源」は未だ分かっていません。銅酸化物が見せる高温超伝導の機構解明は、今なおフィーバー冷めやらぬ、現代物理学最重要課題の一つです。
 超伝導の研究には、物質内電子を直接観察すればよい。この単純明快な考えに基づく実験手法が光電子分光法で、物質内電子を光で外にはじき飛ばして観察します。この手法は、波としてうねうねと伝搬する光を粒の集合体として記述して見せることで、光の概念を覆したアインシュタインの発想(1921年のノーベル賞受賞理由)に基づいています。本研究グループは、先端的なレーザー技術と分光技術を組み合わせて実現した高性能光電子分光装置を用いて、従来とは一線を画すエネルギー分解能で超伝導電子を観測しました。
 銅酸化物高温超伝導体の超伝導電子は、ある方向に節を持つd波(注4)として振る舞うことが知られています。これは、一般的な超伝導体がもつ等方的で節の無いs波超伝導電子との大きな違いです。このように、対称性には大きな特徴を持つ銅酸化物高温超伝導体ですが、超伝導電子の形成から超伝導状態へ至るまでの温度変化に関して特異性は無いものとされていました。つまり、一般的な超伝導と同じく、超伝導電子の形成と同時に、抵抗ゼロの超伝導に転移すると考えられていたのです。本研究では、銅酸化物高温超伝導体が持つd波超伝導状態のシンボルとも言える節の温度変化を、精密な光電子分光測定で追跡しました。その結果、超伝導温度よりも1.5倍近く高い温度まで持続して存在することを発見しました。超伝導電子の形成温度と超伝導転移温度が大きく食い違う物質例はこれまでになく、銅酸化物高温超伝導体の特性といえます。
 銅酸化物高温超伝導体は、伝導を担うキャリアを絶縁体に注入することで超伝導を発現するので、金属よりもむしろ絶縁体に近い物質です。その物質でなぜ高い超伝導を示すのか、未だ謎が多いのが現状です。本研究グループの研究結果は、絶縁体の瀬戸際で生じる超伝導ならではの性質として、ミクロに生成される超伝導電子が十分な量生成されて初めて超伝導性が発生することを示し、「高い超伝導を生む源」を同定する上での指針となります。また、超伝導の名残が高温超伝導体の超伝導温度よりもさらに高温で発見されたことから、超伝導温度の飛躍的向上と、その先にある室温超伝導実現へ向けての、大きな一歩だといえます。


5.発表雑誌
 雑誌名:Nature Communications(2015) 7月7日 イギリス
 論文タイトル:“Point nodes persisting far beyond Tc in Bi2212”
 著者:Takeshi Kondo(1),W.Malaeb1,Y.Ishida(1),T.Sasagawa(2),H.Sakamoto(3),Tsunehiro Takeuchi(4),T.Tohyama(5),and S.Shin1

 1 ISSP,University of Tokyo,Kashiwa,Chiba277−8581,Japan
 2 Materials and Structures Laboratory,Tokyo Institute of Technology,Yokohama,Kanagawa 226−8503,Japan
 3 Department of Crystalline Materials Science, Nagoya University,Nagoya 464−8603,Japan
 4 Energy Materials Laboratory,Toyota Technological Institute,Nagoya 468−8511,Japan
 5 Department of Applied Physics,Tokyo University of Science,Tokyo 125−8585,Japan


 ※用語解説・図1は添付の関連資料を参照





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