イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東北大と広島大など、超強力X線による極微小プラズマ生成を発見

2015-06-20

超強力X線による極微小プラズマ生成を発見
X線自由電子レーザーを利用したイメージングに重要なメッセージ


【概要】
 東北大学多元物質科学研究所上田潔教授・福澤宏宣助教のグループ、京都大学大学院理学研究科八尾誠教授・永谷清信助教のグループ、広島大学大学院理学研究科和田真一助教、理化学研究所放射光科学総合研究センターXFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループ矢橋牧名グループディレクター及び高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室先端光源利用研究グループ実験技術開発チーム登野健介チームリーダー等による合同研究チームは、原子のクラスター(*1)にX線自由電子レーザー(XFEL)(*2)施設SACLA(*3)から供給される非常に強力なX線を照射すると、ナノメートル(*4)程度の大きさのプラズマ(*5)(ナノプラズマ)を生成することを見出しました。
 XFELの非常に強力なX線パルスを用いると、非常に小さな結晶や結晶化していない試料からでも1発のX線パルスでX線散乱を計測できるため、これまで構造が決定できなかった様々な物質や過渡的な状態にある物質の構造が決定できると期待されています。本研究の結果は、SACLAの強力X線パルスをどのような物質に照射してもナノプラズマ化という現象が起こり得るため、X線散乱の解析においてもこの現象による影響を正確に知ることが必要であることを示しています。
 本研究の成果は、英国の科学雑誌『Scientific Reports』で、平成27年6月16日にオンライン出版されます。
 本研究は、合同研究チームの上田を代表とする文部科学省X線自由電子レーザー利用推進研究課題、理化学研究所SACLA利用装置提案課題、文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題の各事業の一環として行われました。


【詳細な説明】

1.背景
 XFELの誕生により、X線領域でレーザー光が利用できるようになりました。XFEL施設は世界でも2カ所でしか稼働しておらず、日本のXFEL施設SACLAを利用した研究は世界中の研究者により活発に進められています。XFELを利用することで、これまで見ることが出来なかった、超高速・超微細な現象を見ることが出来ると期待されています。これを実現するためには、XFELのような超強力X線を物質に照射した時に、物質そのものに何が起こるのかを理解することが重要です。しかし、このような超強力X線と物質との相互作用はこれまで研究されていませんでした。本研究では、X線領域でのレーザー光利用に重要な新規研究分野である超強力X線と物質との相互作用を解明する為、原子の集合体である原子クラスターを試料として、XFEL照射によりどのような応答を示すかを調べました。

2.研究の手法と成果
 X線を原子クラスターに照射すると、クラスターを構成する原子の深い内殻軌道(*6)から電子が放出されて、原子はエネルギーが高く不安定な原子イオンになります。この不安定な原子イオンは比較的浅い軌道の電子を放出することで安定化し、多価原子イオンになります。SACLAの非常に強力なX線パルスを照射すると、単一クラスター内の複数の原子においてこのような過程が起こり、たくさんの電子を放出します。電子は負の電荷を持つので、残ったクラスターは強く正に帯電していきます。この過程が進行していくと、時間的に遅れて原子から飛び出した電子のうち、エネルギーが低い電子は正の電荷に引き寄せられてクラスターからは飛び出せなくなっていきます。その結果、微小空間内に正の電荷と負の電荷が混在するナノプラズマが生成することが予想されていました(図1)。

 ※図1は添付の関連資料を参照


 本研究では、アルゴン原子クラスターを真空中に導入して、SACLA BL3で得られる超強力X線パルスを照射し、放出される電子の運動エネルギー分布を測定しました(図2)。アルゴン原子の最も深い内殻軌道の束縛エネルギーは3200電子ボルト(*7)なのに対して、X線光子のエネルギーは5000電子ボルトです。従って、最初に飛び出してくる電子はもっぱら2000〜5000電子ボルトの超高速電子で、クラスターから飛び出せなくなることはありません。ここで注目すべきは低エネルギーの遅い電子です。孤立したアルゴン原子にX線を照射する場合には200電子ボルト付近に山が観測されますが、本研究で観測したアルゴン原子クラスターからの電子放出の場合には、200電子ボルトから低エネルギー側の領域が平らになることが分かりました。このことはクラスターに生じた強い正の電荷により電子が減速されていることを示しています。さらに電子が減速されると、クラスターから飛び出せなくなり、ナノプラズマが生成されます。その後、一度は束縛された電子も蒸発するように放出されることがあり、エネルギーの増加とともに単調に収量が減少する低エネルギー電子として観測されます。図2に見られるゼロエネルギー付近の低エネルギー電子は、ナノプラズマの生成を示唆するものです。

 ※図2は添付の関連資料を参照


 また、観測結果をよく再現する理論計算から、X線照射によって放出される電子の中でも比較的低エネルギーの電子とクラスター内の原子との衝突により放出される2次電子がナノプラズマ生成に主に寄与していることも分かりました。この2次電子放出は物質にX線を照射した時にごく一般的に起こる現象です。


3.今後の展望
 今回の研究は、SACLAの強力なX線パルスを原子の集団に照射すると、X線のエネルギーや原子の種類によらず低エネルギー2次電子を大量に放出し、この2次電子が束縛されてナノプラズマを生成する可能性が常につきまとうことを示すものです。このことは、SACLAの強力なX線パルスを用いた物質の構造解析を行う上で、ナノプラズマが生成される反応素過程を正確に知り、考慮したうえで解析を行うことが必要不可欠であることを示しています。超強力X線と物質との相互作用に関する問題をひとつひとつ解決していって初めて、SACLAを用いて、これまで見えなかった超微細・超高速な現象を見ることも可能になると期待されます。


 ※用語解説・論文情報は添付の関連資料を参照





Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版