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東大、混合物のドロップレット型相分離について新しいメカニズムを発見

2015-06-20

ドロップレット型相分離の新しいメカニズムの発見


■発表のポイント:
 ◆二つの液体を混ぜた混合物のドロップレット型(注1)の相分離について、長年信じられてきた機構に変わる新しい粗大化(注2)の機構を発見した。
 ◆これまで液滴はランダムな熱運動により運動していると考えられてきたが、実は、液滴の大きさの分布を反映してそれぞれの液滴の界面張力は液滴内部で不均一であり、それにより液滴は決定論的に運動することが明らかになった(図参照)。
 ◆ドロップレット型相分離は、サラダドレッシングをはじめ、自然界・工業的応用の多岐にわたる分野で見られる現象であり、その基本的なメカニズムの理解の意義は大きいと考えられる。


■発表概要:
 これまで30年以上にわたり、流体系のドロップレット型の相分離においては、液滴が熱的なブラウン運動(注3)によりランダムに運動し、その結果他の液滴と偶発的に衝突することで粗大化が進行すると信じられてきましたが、東京大学生産技術研究所の田中肇教授、清水涼太郎特任研究員の研究グループは、実は、液滴はその周りに形成される濃度場の相関を通してむしろ決定論的に運動し、粗大化が進むことを発見しました。
 相分離現象は、様々な系で見られる普遍的な現象で、相分離構造は界面エネルギーを減らすように時間とともに大きくなることが知られています。二つ相の体積比が大きい場合には、小さい液滴が蒸発し大きい液滴に凝縮する濃度拡散によりゆっくりと、また、体積がほぼ等しいときには、流体管のネットワークが形成され、その太い部分から細い部分へ向かって流が生じ、太い部分がより太くなることで高速に構造が大きくなることが知られています。一方、この中間の体積比の場合には、液滴が衝突合体することで粗大化が進むことが知られていました。この衝突合体は、液滴のランダムな熱運動の結果起きると長年信じられてきましたが、同研究グループは、液滴の大きさに応じて液滴周囲の濃度場が空間的に一様ではなくなるため、液滴の界面張力も一様ではなくなります。その結果、液滴の界面張力の勾配によるマランゴニ効果(注4)により界面張力が高い領域から低い領域に向かって力が働き、それによって流れが起き、その方向に液滴が決定論的に運動することを明らかにしました(図参照)。これは、濃度の拡散と流体の流れによる物質輸送の結合の結果として捉えることができます。
 この発見は、相分離が二つの相の体積分率によらず、つねに大きいドメインが小さいドメインを吸収して成長するという決定論的な法則、すなわち弱肉強食の原理に従っていることを強く示唆しおり、非平衡過程の時間発展の法則性を示したものと言えます。


■発表内容:
 これまで30年以上にわたり、流体系のドロップレット型の相分離においては、液滴が熱的なブラウン運動によりランダムに運動し、他の液滴と偶発的に衝突することで、粗大化が進行すると信じられてきましたが、東京大学生産技術研究所の田中肇教授、清水涼太郎特任研究員の研究グループは、実は、液滴はその周りに形成される濃度場の相関を通してむしろ決定論的に運動し粗大化が進行することを、流体系の相分離を記述する理論モデル(通称モデルH)(注5)の数値シミュレーションをもとに示しました。
 相分離現象は、様々な系で見られる普遍的な現象で、相分離ドメインの粗大化は界面エネルギーを減らすように進行することが知られています。例えば、サラダドレッシングをよく振ったあとに水と油の相分離が液滴の粗大化により進行する現象、味噌汁に浮いた油滴が衝突合体を繰り返し粗大化する現象は、我々が日常生活においてよく目にする現象です。一般に、二つ相の体積比がおおきい場合には、小さい液滴から大きい液滴に向かう濃度拡散(蒸発・凝集機構)によりゆっくりと、体積がほぼ等しいときには、流体管のネットワークが形成され、その太い部分から細い部分へ流体輸送が起こり、高速に粗大化が進むことが知られています。一方、この中間の体積比の場合には、液滴が衝突合体することで粗大化が進むことが知られていました。この衝突合体は、液滴のランダムな熱運動により駆動されると長年信じられてきました。これに反し、同研究グループは、液滴の大きさに応じて、その周囲の濃度場に非一様性が存在し、そのために液滴の界面張力は一様ではなく、この界面張力勾配によるマランゴニ効果により、界面張力が高い領域から低い領域に向かって力が働き、それによってその方向に液滴が流体的に運動することを明らかにしました(図参照)。具体的には、大きい液滴と小さい液滴が隣り合っている場合にはそれぞれ相手に近づくように、同じ大きさの場合には遠ざかるように運動します。実際には、多くの液滴が相互作用するので、運動はより複雑になります。この新しい機構は、濃度拡散と流体による輸送という二つの輸送機構の間の結合の結果と言えます。低体積分率での拡散支配領域と高体積分率での流体輸送支配領域の中間の体積分率において、両者の結合が起きるのは物理的に極めて合理的と言えます。
 蒸発・凝縮機構と流体官の不安定に基づく粗大化においては、輸送は小さいドメインから大きいドメインに向かって起きることが知られていましたが、従来のブラウン運動に基づく衝突合体の機構では、そのような法則性はなく衝突現象はランダムに誘起されるということになっていました。今回の発見は、相分離が二つの相の体積分率によらず、つねに大きいドメインが小さいドメインを吸収して成長するという決定論的な法則、すなわち弱肉強食の原理に従っていることを強く示唆しており、系の時間な変化(具体的には相分離構造の成長)はつねに系がより安定となる方向に、つまり、自由エネルギーを下げるように進んでいくことを示しています。このことは、非平衡過程において系がどのように時間発展していくかについて大きな示唆を与えてくれます。


■発表雑誌:
 雑誌名:Nature Communications
 論文タイトル:A novel coarsening mechanism of droplets in immiscible fluid mixtures
 著者:Ryotaro Shimizu,Hajime Tanaka(*)


■用語解説:
 (注1)ドロップレット型相分離:液滴が多数形成され、それらが成長することで進んでいく相分離の様式。

 (注2)粗大化:相分離の構造(この場合は液滴の大きさ)が時間とともに大きくなること。

 (注3)ブラウン運動:液体のような溶媒中に浮遊するコロイドや液滴が、溶媒分子から受ける熱搖動により不規則(ランダム)に運動する現象。

 (注4)マランゴニ効果:2つの流体相の界面において、液体の温度や濃度が場所によって異なる場合に、界面張力の差が生じる効果で、それにより流体の運動が誘起される。発見者の名前にちなみ、このように呼ばれる。

 (注5)流体系の相分離を記述する理論モデル(通称モデルH):液体を二つ混ぜた系などの相分離のダイナミクスを記述する理論モデル。より具体的には、濃度と流体のながれの時間変化をそれらの間の結合も含め記述したモデル。


■添付資料:

 ・図は添付の関連資料を参照

  図:相分離中の液滴の様子。液滴の界面の色は、界面上の化学ポテンシャルを表す。赤い/青い色は、それぞれの液滴に対し、高い/低い化学ポテンシャルを表す。矢印は液滴の界面上の流れ場を示す。


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