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東北大、宮城県での地域住民コホート調査の第二次報告を発表

2015-06-16

震災後2年目の太平洋沿岸部で継続して高い抑うつ傾向
〜地域住民コホート調査の第二次報告〜


<発表のポイント>
 東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査に、平成25年度に宮城県内の特定健診会場で協力した約7千人分について分析を行った。
 ・調査票への回答から、抑うつ症状のある者(CES−Dスコア16点以上)の割合は28%であった。沿岸部では、内陸部と比較してその割合は高かった(性・年齢調整オッズ比は1.4倍と統計学的に有意に高かった)。
 ・調査票への回答から、心的外傷後ストレス反応(PTSR)の疑いがある者の割合は4%あった。沿岸部では、内陸部と比較してその割合は高かった(性・年齢調整オッズ比は2.4倍と統計学的に有意に高かった)。
 ・一方、震災後心配されていた潜在性心不全の割合やヘリコバクター・ピロリ菌感染者の割合は、沿岸部と内陸部とで大きな差は見られなかった。
 ・心理的な指標で問題を抱えた方々に対して、心理士による電話や面談による支援を行っており、支援実施は延べ600人以上にのぼっている。


 東北大学東北メディカル・メガバンク機構(機構長:山本雅之、以下、ToMMo)は、宮城県での地域住民コホート調査(*1)参加者のうち、平成25年度に特定健診会場で協力した約7千人分について分析しました。分析から、県内全体で28%の調査参加者に抑うつ症状がみられ、4%でPTSRの疑いがもたれました。調査参加者のうち、沿岸部の住民は内陸部の住民と比べて、これらの有病率(*2)が高い傾向がみられました。ToMMoでは、特に心理的な指標で問題を抱えた方々に対して、心理士による電話や面談による支援を行っており、支援実施は延べ600人以上にのぼっています。
 また、既に報告されている震災後急増した心不全による入院(*3)の影響から、増加が懸念されていた潜在性心不全(NT−pro BNP(*4)高値者)の割合やヘリコバクター・ピロリ菌の感染者の割合に内陸部と沿岸部で差がないことが明らかになりました。
今後、コホート調査の結果の分析をさらに進め、震災後の住民の心身の健康に影響を及ぼしている身体的・心理的・社会的な諸要因を明らかにし、支援や復興策の充実に結びつけていきたいと考えております。


【背景】
 東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として計画され、宮城県では東北大学、岩手県では岩手医科大学が事業主体となり15万人の参加を目標とした長期健康調査(地域住民コホート調査:8万人。三世代コホート調査:7万人)を実施しています。
 東北大学では、東北メディカル・メガバンク計画の遂行のため、東北メディカル・メガバンク機構(機構長:山本雅之、以下ToMMo)を平成24年2月に設立し、平成25年5月から地域住民コホート調査を開始し、平成27年6月現在で36,858人が調査に参加しています。今回は、そのうち平成25年度に、特定健診会場で参加した方について調査結果の分析を行いました。この分析には、採血からのゲノム解析の結果は含まれていません。
 なお、岩手医科大学もいわて東北メディカル・メガバンク機構を設立して、地域住民コホート調査を実施しています。


【主な結果】
■7,462人の採血・採尿、調査票の結果を分析した
 今回の報告の対象とした、地域住民コホート調査において特定健康診査の会場に赴く方式で行った調査では、調査日に採血・採尿を行うと共に、調査票をお渡ししてお持ち帰り頂き、2週間以内の郵送での回答をお願いしています。本報告は、平成25年度の調査地域(10市町)の対象者に対し、調査結果の分析を行いました。(そのため、この分析には平成26年度以降に調査を行った地域の結果は含まれていません。)分析の対象の総数は7,462人ですが、部分的なデータ欠損などから、調査項目ごとに対象人数が異なります。

 調査実施自治体:
  (沿岸部):気仙沼市、南三陸町、石巻市、東松島市、七ヶ浜町、多賀城市、山元町
  (内陸部):涌谷町、大崎市、丸森町
 調査時期:
  平成25年5月20日〜平成26年3月1日

 <以下、生活習慣及び生理学検査の結果と、メンタル面での調査票からの結果に分けて報告を記します。>


■メンタル面での調査
 メンタル面の調査は、調査票によるもので、CES−D(抑うつ傾向)(*5)などの国際的な指標を用いた評価を行うと共に、それぞれの方の震災体験や喪失体験についての質問も行っています。結果から、有効な回答を得た7,285人のうち28%の住民で抑うつ傾向(CES−D:16点以上)がみられました。内陸部と比べ沿岸部での有病率が高く、性・年齢を調整したオッズ比(95%信頼区間)は1.4(1.2−1.6)でした。同様に抑うつ、不安などを含むこころの健康状態を評価するK6(*6)が13点以上の者の割合も内陸部と比べ沿岸部でのリスクが高くなりました(オッズ比1.4:95%信頼区間1.1−1.8)。また今回の調査対象者で、東日本大震災を思い出すことによる苦痛で生活に支障、または影響が出ていると回答した者が4%にのぼり、PTSRにより生活に支障が出ていると感じていることが示されました。PTSRの有病率も沿岸部で2.4倍(95%信頼区間1.6−3.7)と内陸部よりも高くなりました。沿岸部においてメンタルに対するサポートの重要性が裏付けられたと考えています。また、今回の有病率については特定健康診査を受診し、さらにToMMoの調査に協力の意思を示してくださった比較的健康意識の高い方々を対象にしています。実際に地域に居住されている方々の抑うつ傾向やPTSRの割合がさらに高い可能性については注意が必要であると考えます。
 ToMMoでは、調査票結果から抑うつ傾向が強い方やPTSRにより生活に支障が出ている方には心理士が電話で連絡をとり、詳しい状況を確認した後、必要な方には電話や面接での継続した支援を行い、また、医療機関、相談機関に繋ぐなどの支援を行っています。また、心理面の相談を希望される方の相談を受けています。平成27年4月末までに上記の形で延べ600名以上の方の心理支援を行っています。また、地域全体のメンタルヘルスの傾向については、メンタルヘルス向上のため気を付けることに関する情報とともに様々な機会や経路を通して地域の方にお伝えし、地域としての健康増進に寄与することを心がけています。


■生活習慣及び生理学検査の分析状況
 調査から、以下のことが主に明らかになりました。

 (1)被災地で増加の懸念が持たれている心不全の指標については、顕著な増加は観察されませんでした。
 (2)調査参加者のうち分析可能な7,462人については、胃がんリスクのある者が40%以上でした。
 (3)調査参加者のうちデータが完備していた7,451人を分析したところ、慢性腎臓病は約10%が高ステージでした。

 今回の調査には、心不全の指標としてNT−pro BNPを、腎機能の指標として、推算糸球体濾過量(eGFR)および尿中アルブミンクレアチニン比の組み合わせを、胃がんリスクとしてヘリコバクター・ピロリ菌抗体とペプシノーゲン法の組み合わせを用いています。

 これらの指標については、これまでの国内の先行研究と比較しても有病率に大きな差は認められませんでした。またいずれも沿岸部と内陸部を比較して統計学的に有意な差を認めませんでした。なお、本調査の対象集団は、対象地域の住民のうち健常者として自治体の特定健康診査に参加した方々で且つ自らToMMoの行う調査にご協力された方々であり、比較的健康意識が高い方々であることには注意が必要と考えます。

 なお、異常値を観察された方については、結果の返却とともにかかりつけ医への受診勧奨を行っています。


 ※グラフ資料は添付の関連資料を参照


■地域住民コホート調査の実施
 ToMMoでは、平成25年5月20日から地域住民コホート調査を開始しました。同調査では、宮城県内自治体が実施する特定健康診査の会場に大学のスタッフが出向く(2015年6月上旬までに25市町村)方式、及び、県内7カ所に設けた地域支援センターに地域住民の方々に来所頂く方式の、2種類の方式で地域住民の方々の協力を募っています。
 平成27年6月現在宮城県で、特定健康診査会場における調査の実施で26,223名の登録を得ると共に、地域支援センターにおいて10,635名の参加を得て、合計36,858名の地域住民コホートへの登録を頂いています。
 岩手医科大学は、宮城県と同様に自治体が実施する特定健康診査の会場での協力者募集を行うと共に、岩手県各地にサテライトと呼ばれる施設を設けて、東北大学と同様の方式で調査を実施しています。


【今後の展開】
<調査について>
 平成26年度以降に調査に参加した方々についても集計を進め、傾向の分析などに努めていきます。

<対応について>
 個別の調査協力者に対しては結果の回付を行うと共に、地域ごとに結果説明会を開催して参加を促すなどし、住民の方一人ひとりへの啓発などに努めています。また、個々の協力者の検査数値において、特に異常値ありの場合には、地域の医療機関への受診勧奨を行うと共に、大きな問題があると考えられる数値については集計を待たずに直接連絡して早期の受診勧奨を強く行っています。地域ごとの結果については統計データを当該自治体に提供するなどして、対策に活かしています。
 メンタル面の結果については、特に問題があると考えられる方々に対しては、希望に応じてToMMoの心理士が電話や面談での支援を行っています。今後、更に解析を進めることで、震災後の住民のメンタルヘルスに影響を及ぼしている身体的・心理的・社会的な諸要因が明らかになると期待されます。
 また、問題の大きい方々の特性について、どのような方にどのような問題があるのかを検討し、ご協力いただいた方にとどまらず広く地域全体に貢献できるような情報を急ぎ発信してく予定です。


 ※参考・用語解説は添付の関連資料を参照




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