イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

東北大など、酸化物高温強磁性半導体に潜む特異な原子配列の3D原子像化に成功

2015-06-10

酸化物高温強磁性半導体に潜む
特異な原子配列の3D原子像化に成功
−高温強磁性の謎解明へ−


【発表のポイント】
 ●原子分解能をもつ蛍光X線ホログラフィーを、高温強磁性半導体に適用
 ●磁性元素を中心とした特異な原子配列(亜酸化ナノ構造体)を発見
 ●亜酸化ナノ構造体の性質解明を推し進めることにより、新しい高温強磁性半導体のデザイン・開発に期待


 国立大学法人東北大学金属材料研究所 林 好一准教授、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 胡■博士研究員(現米国ブルックヘブン国立研究所)を中心とする研究グループは、国立大学法人東京大学大学院、公立大学法人広島市立大学、国立大学法人熊本大学、公益財団法人高輝度光科学研究センターとの共同研究により、酸化物高温強磁性半導体に潜む亜酸化ナノ構造体を原子レベルで三次元的に可視化することに成功し、高温強磁性発現の謎解明に向けて大きく前進しました。

 ※■印の文字の正式表記は添付の関連資料を参照


 磁石の性質(強磁性)と半導体の性質を併せ持つ強磁性半導体(1)は、電力を必要としない磁気スイッチングデバイスとして省エネルギー社会を実現するスピントロニクス材料の第一候補として注目されています。これを情報処理機器などに実装させる場合には、室温以上の温度で動作させることが必要ですが、多くの強磁性半導体のキュリー温度(2)は0℃以下を示すため、実環境では強磁性を失ってしまい、その特性を発揮しません。その中で、磁性元素(3)であるコバルトを5%の濃度で添加した酸化チタン(TiO2)(4)薄膜は、キュリー温度が300℃と際立って高く、実用化が大きく期待されています。しかし、何故このような高いキュリー温度を示すのか、その理由は発見以来の謎とされてきました。

 本研究では、蛍光X線ホログラフィー(5)と呼ばれる原子配列を三次元可視化できる手法を用いてコバルト添加酸化チタン薄膜を観測したところ、コバルト周辺では周辺の酸素やチタンと協調して、10数原子から成る亜酸化ナノ構造体を形成していることを発見しました。亜酸化物(6)とは金属などが僅かに酸化した化合物を指し、自然界では存在し得ない極めて不安定な状態です。それがコバルトの磁性を増強するナノ構造体として酸化チタン薄膜の中に埋め込まれ、キュリー温度の劇的な向上に関与していることは、驚くべき事実です。

 今回の成果により、コバルトを中心とした機能発現サイト(7)の特異な構造が材料の高機能性に強く影響していることを実証しました。今後、高機能を創出する機能発現サイトのデザインとそれを実現する薄膜作製技術の高度化を強力に推し進めることにより、強磁性半導体の実用化、ひいては我が国の推進するグリーンイノベーションに大きく貢献するものと思われます。

 本研究内容は2015年6月3日(日本時間)に、米国科学誌Applied Physics Lettersにオンライン掲載されました。


【研究開発の背景】
 電子のもつ電気的性質(電荷)と磁気的性質(スピン)とを組み合わせて、新しいエレクトロニクスとして利用する試みであるスピントロニクスが最近盛んに研究されています。スピントロニクス材料として注目されているのが強磁性と半導体性を併せ持つ強磁性半導体です。強磁性半導体は、光や電界などの外場に応答し、半導体エレクトロニクスにおける電気的スイッチングのように磁気スイッチングデバイスを作ることが可能です。磁気スイッチングは原理的に電気を流さずに行えるので、それを利用した機器が実現すれば省エネに大きく貢献します。しかし、通常の強磁性半導体のキュリー温度は0度以下と低いため実環境では強磁性を失ってしまい、実用には室温以上のキュリー温度をもつ強磁性半導体が必要になります。
 そのような中、本研究グループの東京大学の福村、川崎らはコバルトを微量添加した酸化チタンにおいて、300℃以上まで強磁性を示すことを2001年に発見し、2011年に室温強磁性の電気的な制御に成功しました。(米サイエンス誌291号,854−856ページ 2001年;332号,1065−1067ページ 2011年)この従来の強磁性半導体よりはるかに高いキュリー温度は、磁性元素のコバルトが材料中に均質に分布しているという仮説に基づく理論では説明できず、コバルトがどのような状態で酸化チタン中に存在しているのかが議論となってきました。しかしながら、希薄に存在しているコバルトの周りの構造を正確に観測する手段がなく、これまでに明確な回答は得られませんでした。


【研究の手法】
 蛍光X線ホログラフィーは、特定元素をX線で狙い撃ちし、その周辺の原子の三次元配列を可視化することができる撮像技術です(図1)。比較的新しい手法ですが、材料中の極微量元素などを対象とした構造評価に対して、特筆すべき成果を上げてきました。本研究では、蛍光X線ホログラフィーをコバルト添加酸化チタン薄膜に対して初めて適用し、コバルト周辺の原子像の再生を行いました。加えて、X線吸収微細構造法(8)と呼ばれる構造解析法や第一原理計算(9)を用いて、得られた三次元原子像の妥当性の評価も行いました。実験は、強力なX線が得られる大型放射光施設SPring−8(10)の供用ビームラインBL39XUにて行いました。

 ※図1は添付の関連資料を参照


【得られた成果】
 酸化チタン薄膜に添加するコバルトの濃度を5%程度までに増すと、強磁性が発現しやすくなることが知られています。ここでは、常磁性(磁石の性質を失っている状態)であるコバルト1%濃度と強磁性(磁石の性質を有している状態)であるコバルト5%濃度の試料の二つを測定しました。図2に、それぞれの原子像を示しますが、構造の違いは一目瞭然です。常磁性試料の原子像は、その構造が母体である酸化チタンのルチル構造(11)と全く同じであり、コバルト原子が単純にチタン原子と置き換わっていることを示しています。一方、強磁性試料の原子像は、母体の酸化チタンの構造を反映していない独自の構造を形成していることが分かります。

 ※図2は添付の関連資料を参照


 図3は、X線吸収微細構造法や第一原理計算も用いて最終的に決定した強磁性試料におけるコバルト周辺の局所的な原子配列です。コバルト原子に直接結合している酸素原子は僅かに二つであり、周辺にも多くのチタン原子が寄り集まっています。すなわち、CoO2Ti4(◇)という化学式で表記される亜酸化ナノ構造体を形成していることが分かります。第一原理計算を用いて、この亜酸化ナノ構造体を検証した結果、単体では非常に不安定であることが分かりました。図3に示してあるように、二つ以上隣り合っていないと安定に存在し得ないのです。このことは、コバルト同士が隣り合う確率の高い高濃度試料(コバルト5%濃度試料)においてのみ、亜酸化ナノ構造体が観測された理由にもなります。さらに、第一原理計算を用いて、図3の構造に対しては強磁性が発現されることも確認されました。

 ◇「CoO2Ti4」の正式表記は添付の関連資料を参照

 ※図3は添付の関連資料を参照


【今後の展開】
 化学量論組成比(12)から大きく外れた亜酸化物は自然界には安定して存在しません。このような珍しい状態のナノ構造体が、酸化物半導体の磁性元素の周辺に局所的に形成され、それが高いキュリー温度の発現に寄与することは、大変興味深い事実です。例えば、シリコンにおけるp型n型半導体の制御のように、これまでは、ボロンやリンなどのドーパントをその母材料の構成元素と置換することによって、機能を発現させるという考え方が主流でした。今後は、ドーパント周辺に適切なナノ構造体をデザインし、それを最先端薄膜作製技術にて形成させることによって、新次元の機能性材料を創製させるという発想に移行していくことになるでしょう。特に、スピントロニクス材料は省エネルギーを目指したものであり、本研究の成果は、グリーンイノベーションに大きく貢献されることが期待されます。また、このようなナノ構造体を評価できる唯一の手法として、蛍光X線ホログラフィーの重要さは、いっそう増していくことでしょう。


■書誌情報
 雑誌名:Applied Physics Letters
 タイトル:Spontaneous formation of suboxidic coordination around Co in ferromagnetic rutile Ti0.95Co0.5O2
 著者:W.Hu1,K.Hayashi2,T.Fukumura3,K.Akagi4,M.Tsukada4,N.Happo5,S.Hosokawa6,K.Ohwada7,M.Takahasi7,M.Suzuki8,and M.Kawasaki9
 所属:1ブルックヘブン国立研究所、2東北大学金属材料研究所、3 東京大学大学院理学研究科、4東北大学WPI、5広島市立大学、6熊本大学、7日本原子力研究開発機構、8高輝度光科学研究センター、9東京大学大学院工学研究科
 doi:10.1063/1.4921847


■用語説明

 ※添付の関連資料を参照



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版