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東北大、原子層超薄膜において高温超伝導を発現・制御することに成功

2015-06-08

原子層高温超伝導体を開発
−究極の超伝導ナノデバイス実現へ道−


<概要>
 東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の高橋隆教授、および同大学院理学研究科の中山耕輔助教らの研究グループは、鉄(Fe)とセレン(Se)からなる原子層超薄膜において高温超伝導を発現・制御することに成功しました。今回の研究は、原子数個からなる原子層超薄膜において60K(−213°C)を越える高温超伝導を発現させ、その超伝導転移温度を精度良く制御する方法を確立したものです。この成果は、様々な新しい量子効果が期待される2次元電子系における超伝導発現機構の解明を進めるのみならず、応用の立場からは、原子レベルのサイズを持ち超高速・省エネルギーで動作する究極の超伝導ナノデバイスの実現に大きく道を拓くものです。
 本研究成果は、平成27年6月1日(英国時間)に、英国科学誌 Nature Materials(ネイチャー マテリアルズ)のオンライン速報版で公開されます。


<背景>
 現代のエレクトロニクスを支える半導体デバイスは微細加工による高速化や高集積化が限界に達しつつあり、電子機器の高性能化を加速するためには新しい原理に基づくデバイスの開発が必要とされています。この次世代デバイスの候補となるのが、超伝導デバイスです。超伝導体の持つ量子効果を利用することで、半導体デバイスを遥かに凌駕する高速演算や省エネルギー動作が可能になることから、超伝導デバイスは夢のデバイスと言えます。しかし、物質が超伝導になる温度(Tc(*1))は、一般には絶対零度(0K, 注1)−273°C)に近い極低温であり、液体ヘリウムを用いた大掛かりな冷却装置が必要になることが実用化の障害となっています。また、高集積化の実現も実用化に向けた重要な課題です。これらの問題を解決するためには、高いTcを持つ材料の開発と、その超伝導体を薄膜化および微細化する技術の確立が不可欠です。
 本研究では、鉄系超伝導体 注2)と呼ばれる鉄(Fe)とセレン(Se)からなる物質(化学式FeSe)に着目しました。バルクのFeSeは8K(−265°C)で超伝導となることが知られていましたが、“高温超伝導”と呼ぶにはまだまだ低い温度です。しかし、それを非常に薄い原子レベルの薄膜にするとTcが高くなる可能性が報告されており、その実験の検証と、さらにその超伝導転移温度の制御方法の確立が急務とされていました。

 *1:「Tc」の正式表記は添付の関連資料を参照


<研究の内容>
 本研究グループは、分子線エピタキシー法 注3)という、原子を1個ずつ積み上げて非常に薄い原子層薄膜を作成する技術を用いて、厚さを1層(原子3個分の厚さ)から20層(60個分)まで原子レベルで制御したFeSeの高品質薄膜(図1)を作成しました。この原子層超薄膜に対して、角度分解光電子分光法 注4)(図2)という方法を用いてその電子状態を精密に測定した結果、1層のFeSeにおいて、超伝導の証拠となる超伝導ギャップ 注5)が開いていることを突き止めました(図3)。また、超伝導ギャップの温度依存性からTcが60K付近にあり、バルクFeSeの8Kを遙かに超えて非常に高いことを観測しました。さらに、2層以上の多層膜では、作成後そのままの状態では超伝導が起きないものの、薄膜表面にカリウムを吸着させて電子量を調節することで、50K付近の高温超伝導を発現させることにも成功しました。また、原子層膜の枚数とTcに強い関係があることも見出しました。このように、1〜数原子層のFeSe原子層超薄膜において高温超伝導を発現させ、それを制御することに成功しました。


<今後の展開>
 バルク結晶を1〜数原子層まで薄くすることで、その超伝導転移温度を1桁近く上昇させたことは、今後の基礎および応用研究に非常に大きなインパクトを与えます。今回達成したTc=50−60Kは、30年近く前に発見され、大きな“超伝導フィーバー”を巻き起こした銅酸化物高温超伝導体(最高Tc〜135K)には及ばないものの、その後発見された“高温超伝導体”、例えば、フラーレン(C60(*2))超伝導体(Tc〜33K)や2ホウ化マグネシウム(MgB2,Tc〜39K)を遙かに超えて、液体窒素温度77Kに接近しています。今後、原子層数、電子ドーピング量、薄膜成長基板を調整・制御することで、さらにTcを上昇させ、液体窒素温度を越えるTcを達成しようという研究が急速に進むと考えられます。また一方で、現時点で達成したTc〜50−60Kにおいても、液体ヘリウムを必要としない気体ヘリウム循環型の冷却装置で超伝導を実現できることから、その基礎および応用研究の幅が大きく広がるものと期待されます。
 今回1〜数原子層の超薄膜で高温超伝導の発現に成功したことは、2次元超伝導の理想的な研究舞台を提供するのみならず、原子レベルで構成される究極の超伝導ナノデバイスの実現に大きく道を拓くものです。原子レベルまで薄くすることで究極の微小化・高集積化も可能になり、超高速・省エネルギーで動作する超伝導ナノデバイスへの応用研究が飛躍的に発展すると期待されます。今回開発した原子層高温超伝導体は、原子レベルの厚さのため、非常にわずかな電子量の調節で常伝導と超伝導状態を切り替えることができると考えられます。原子層薄膜超伝導体をデバイスに組み込み、電場で電子量の注入を制御して超伝導と常伝導状態を瞬時に切り替える高機能超伝導ナノデバイスへの応用も期待されます。

 *2:「C60」の正式表記は添付の関連資料を参照


 本成果は、日本学術振興会科学研究費基盤研究(S)「超高分解能スピン分解光電子分光による新機能物質の基盤電子状態解析」(研究代表:高橋 隆)、および若手研究(B)「角度分解光電子分光による鉄系超伝導体の超伝導ギャップ対称性と擬ギャップ相図の解明」(研究代表:中山耕輔)などの助成を受けたものです。


<論文情報>
 “High−temperature superconductivity in potassium−coated multilayer FeSe thin films”
 (カリウムで覆われた鉄セレン多層膜における高温超伝導)
 Y.Miyata,K.Nakayama,K.Sugawara,T.Sato and T.Takahashi
 Nature Materials,to be published on−line on June 1.


 ※用語解説・参考図(図1〜3)は添付の関連資料を参照



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