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NTT、光ファイバ網の伝送品質劣化区間を検出する高精度の新技術を開発

2011-03-19

光ファイバ網の伝送品質劣化区間を検出する
世界最高精度の新技術を開発
〜新方式のPNC−OFDRにより高品質・高効率な設備運用が可能に〜



 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:三浦惺、以下「NTT」)は、光ファイバ中継網において、伝送品質劣化の一因となるPMDが高い区間(高PMD(※1)区間)を把握する、位相雑音補償光周波数領域反射計(※2)(PNC−OFDR)技術を開発しました。従来のC−OFDR技術では、高PMD区間を検出可能な測定距離は2km程度にとどまっていましたが、本方式を使うことで従来の20倍近い40kmの光ファイバ長でも高PMD区間をピンポイントで検出することができます。
 本成果は、中継ビル間が80km程度である通常の光ファイバ網構成において、両端から測定することにより、光ファイバ網全体の高PMD区間を検出することができることから、光ファイバ網の品質向上、効率的な光ファイバケーブルの運用が期待されます。


【開発の背景】
 光ファイバケーブルは、光の複屈折という現象によりPMDが発生し、特に光ファイバの黎明期に敷設されたケーブルには高PMD区間が存在する場合があります。しかし、当時は通信速度が数Gbps程度とあまり高速でなかったことから、高PMD区間による影響はほとんどありませんでした。
 しかし、ここ数年の間に、ネットワーク上で伝送される情報量は爆発的に増加し、それに伴って光ファイバネットワークがめざましい勢いで高速化されたことから、高PMD区間の存在による伝送品質への影響が顕在化してきました。そのため、NTTのアクセスサービスシステム研究所(以下、NTT研究所)では、高PMD区間を検出し、該当部分の光ファイバケーブルの張替えを実施することで、伝送品質の維持と効率的な光ファイバケーブルの運用を図ることができるよう、高PMD区間検出技術の研究を進めてきました。


【今回の成果】
 NTT研究所では、光ファイバの新たな計測技術であるPNC−OFDR方式を開発したことにより、光ファイバから発生する微弱反射光を、長距離のファイバの中からも高精度で測定することに成功し、世界最高水準の距離分解能(※3)を達成しました。
 OFDRは光ファイバからの微弱散乱光を高精度に計測する技術として従来より知られていましたが、微弱散乱光を検出するためにファイバの中に送り込む光源に混在する雑音が、長距離のファイバの測定においては検出を阻害するため、本方式で測定できるファイバ長は2km程度とされていました。今回、位相雑音補償(PNC)という手法を使い、光源に混在する雑音を取り除くことで、約40kmの光ファイバ長でも高PMD区間を検出することに成功しました。
 今回開発したPNC−OFDR技術による測定試験において、実験室では、測定距離40kmの場合に2cmの分解能を達成しました。また、フィールド環境の試験においても、測定距離40kmで分解能5cmという、実験室の場合とほぼ同等の世界最高水準の性能を確認しています(図1)。


【技術のポイント】
 1.高PMD区間検出技術
  高PMD区間特有の極めて短い偏波変動周期を観測することで当該区間を特定できます。高PMD区間の偏波変動周期は、数十cm程度であり、かつ中継網を測定対象とするため、数cmレベルの分解能にて40km以上を探索可能な光反射計(※4)が必要であり、PNC−OFDRは測定距離40kmにわたって5cmの分解能を実現しているため、高PDM区間の特定が可能になりました(図2)。

 2.長距離高分解能反射計技術
  従来のC−OFDR技術は光源の波長揺らぎ(位相雑音と呼ばれる)の影響で、測定距離が長くなると分解能が著しく劣化し、長距離に渡って高精度な測定を実施することが困難でした。PNC−OFDRはその位相雑音を光干渉計でモニタリングしながら測定を行い、モニタした位相雑音の情報を元に測定信号から計算処理にて雑音成分を取り除くことができます。これにより、通常2km程度に制限されてしまうOFDRの高分解能測定可能な距離を40kmまで拡大しました。


【今後の展望】
 本成果では、測定可能距離が40kmであるため、中継区間が80kmまで延伸している現在の伝送路においては、両端からの測定が必要ですが、今後は、測定距離を80kmまで延伸し、片端からの測定のみで検出可能になるよう研究を進めるとともに、更なる検出精度の向上に向け、研究開発を推進し、2〜3年後の実用化を目指します。また、PNC−OFDRは、光ファイバ網のPMD区間検出に応用可能であるだけでなく、光ファイバケーブルの製造時におけるPMD検査のほか、温度や歪みの検出機構として各種製造装置や常時モニタリングシステムなどへの応用が可能であるため、産業界へ広く普及できるよう多分野への幅広い技術の応用を模索していきたいと考えています。


<用語解説>
 ※1 PMD(Polarization Mode Dispersion)
  光ファイバの複屈折により二つの偏波の伝搬速度が異なり、光信号が歪む現象。PMDが高いと伝送速度の制限要因となり、伝送速度が高速になるほどその影響は大きくなる。

 ※2 光周波数領域反射計(OFDR:Optical Frequency Domain Reflectometry)
  周波数領域動作。連続光(周波数変調光)を使い、周波数領域の解析で距離を求める。デバイスや短尺なファイバの測定に使われてきた。分解能に優れ(短距離なら<mm)、測定距離は光源のコヒーレンス長で制約(<2km)。

 ※3 距離分解能
  光ファイバ内の近接する二点からの反射強度を見分ける能力。分解能2cmとは2cm離れた地点の光ファイバ損失や偏波状態を識別できることを意味する。

 ※4 光反射計
  光ファイバの片端から試験光を入射し、光ファイバ内で反射して戻ってくる光を観測することで、光ファイバの状態を分布的に測定することのできる技術の総称。代表的な技術としてOTDR、OFDRなどがある。基地から電波を発射し、物体からの反射を観測することでその位置を検知するレーダーと同じ原理である。



*以下の資料は添付の関連資料を参照
 ・図1:長距離・高分解能測定が可能なPNC−OFDR
 ・図2:光ケーブルの高PMD区間検出への応用


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