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東北大、サルの大脳皮質にゼロを表現する細胞を発見

2015-05-28

“なにも無いこと(ゼロ)”が分かる
サルの大脳皮質にゼロを表現する細胞を発見


 私たちは“何もないこと(ゼロ)“をどうやって認識するのでしょうか?東北大学大学院医学系研究科の虫明 元(むしあけ はじめ)教授(生体システム生理学)、奥山 澄人(おくやま すみと)元助手(現:将道会総合南東北病院の脳外科医)らの研究グループは、サルを用いた実験で、脳に数の0(ゼロ)に強く反応する細胞があることを世界で初めて発見しました。今回の研究成果から、概念的なゼロという数学上特別な意味をもつ数が、人だけでなく霊長類にも脳に細胞として存在することが明らかになりました。本研究の成果は、霊長類が言葉や数字記号がなくてもゼロを認識できることを示唆し、我々人がどのように数を理解するか、そのメカニズムの理解につながると期待されます。
 この研究成果は、ネーチャーのオンライン雑誌サイエンティフィク・レポートオンライン版に5月22日午前10時(英国時間、日本時間5月22日午後18時)に掲載されました。本研究は、科学技術振興機構「CREST」、科学研究費補助金の支援を受けて行われました。


【研究概要】
 数としての0(ゼロ)の概念は古代インドで成立したといわれています。算用数字にゼロという数字が加わったことによって、位取りや計算が飛躍的に簡単に行えるようになりました。ゼロには2つの概念があると考えられており、ひとつは存在が無いという意味でのゼロ、もうひとつは0,1,2,3という順列としてのゼロです。このゼロという概念が人に特有のものなのか、他の動物も持っているものなのかは、ゼロを含む数の概念を理解する上でとても重要な問題です。
 今回の研究では、東北大学大学院医学系研究科の虫明 元教授グループの奥山澄人元助手が、数操作課題を訓練したサルで、ゼロを含む数に対する脳の神経細胞活動を調べました(図1)。数操作とは、モニター画面に最初に提示された白丸の数を記憶し、次に与えられた白丸の数を増やしたり減らしたりすることで、最初の数に合わせる課題です。例えば、最初の目標数が3、つぎに提示された数が1であれば、丸を増やす操作を2回行い1→2→3として目標数3に合わせます。最初の目標数に正しく合わせると報酬としてジュースをもらえます(図1上)。また、最初の目標数が0で次に提示された数が2であれば、白丸を減らす操作を2回行い2→1→0として目標数0に合わせます(図1下)。サルはこの課題を成功率72%で行うことが出来ました。サルは0から5までの数であれば、このような数操作を行うことができます。
 このような課題を行っているサルの脳から神経細胞活動を電気的に記録したところ、驚くべきことに、ゼロで強く反応する神経細胞が多数見つかりました(図2)。このようなゼロで最も活動が高い細胞を、ゼロ細胞と新しく名づけました。これらのゼロ細胞は、ゼロ以外の数に対する応答で2種類に分かれました(図2)。ひとつは、ゼロ以外の数には全く応じない細胞(図2左.デジタルゼロ細胞)で、もう一つはゼロ以外に隣の数である1にも活動する細胞(図2右.アナログゼロ細胞)です。これは人の2つのゼロ概念、「有無としてのゼロ」と「順列としてのゼロ」にそれぞれ相当し、それらの概念を表す神経細胞霊長類にも存在することが世界で初めて明らかになりました。さらに、アナログゼロ細胞の他の数に対する応答を調べたところ、数がゼロに近づくほど応答が大きくなり、ゼロから離れるほど応答が小さくなることが明らかになりました。これは、人のメンタルナンバーライン注1という認知モデルに相当すると考えられます。
 人での数学上のゼロの概念に反応する神経細胞が、言語を持たないサルの脳に存在することは大変意義深いことです。霊長類のゼロの認知が人の認知に近い事が分かったことで、今後、霊長類研究が人の様々な認知能力の研究に役に立つ事が期待されます。例えば、人では無料(コスト=ゼロ)ということを特別な意味で捉えることで、価値判断に偏りが生じます。最近の行動経済学注2では、数の認知が行動へおよぼすたいへん興味深い影響が明らかにされており、無料と価格との間には特別の関係があることがわかっています。有料の中でいくら無料(ゼロ)に近くても好まれないもの(製品)が、無料となった途端に選り好み(価値判断)が逆転したりします。このような事例からも、脳の中に2つのゼロ細胞、デジタルゼロ細胞とアナログゼロ細胞が存在するということは、それぞれが異なる価値判断に結びつく可能性を示唆しています。
 今後、数の判断に関する脳の働きを調べることで、行動経済学などで見つけられた数に関わる判断の偏りや状況に依存して起こる不合理な判断を、脳科学をもとに理解することを目指します。それにより、人為的な判断ミスや錯覚を避け、人が正しく判断できるような科学的方法論を開発できると期待されます。


【用語解説】
 注1. メンタルナンバーライン:数は脳内で線状に配列しているという考え方。数は数直線状に順序立てられていると考えられています。ゼロはその原点を決めるため、数全体の認知に非常に重要な役割を持っていると考えられています。
 注2. 行動経済学:従来の経済学では不合理とされていた行動が、実はある法則にしたがって、予測的に行動に偏りを生じさせることが明らかにされています。このようなヒトの一見不合理な経済行動・意思決定を研究する分野を行動経済学と呼び、最近では神経科学がそのメカニズムを解明しつつあります。


 ※図1・2は添付の関連資料を参照


【論文題目】
 Representation of the Numerosity “zero” in the Parietal Cortex of the Monkey
 S. Okuyama, T. Kuki, H. Mushiake
 邦訳:サル頭頂葉における「ゼロ」の神経表現
 奥山澄人 九鬼敏伸 虫明元
 本研究結果はネーチャーのオンライン雑誌Scientific Reportsに5月22日付け(日本時間5月22日)に掲載されました。

 図の著作権は東北大学医学系研究科にあります。提供元を明記した上での使用を許可します。





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