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日本製粉グループ、東京医科歯科大などと簡便かつ高効率な遺伝子改変技術を共同開発

2015-05-15

(株)ファスマックが世界最高水準の遺伝子改変技術を共同開発
―ゲノム編集技術を大きく改良―


【ポイント】
 ゲノム編集技術(1)の一つCRISPR/Casシステム(2)を改良し、ノックインマウス(3)を約50%の効率で作製することに成功しました。これにより、遺伝子改変を利用した基礎から応用までの広範囲な研究開発が加速されると期待されます。


 日本製粉グループの株式会社ファスマック(社長 布藤 聡)は、東京医科歯科大学・難治疾患研究所・分子神経科学分野の田中光一教授と相田知海助教の研究グループ、広島大学慶應義塾大学との共同研究で、簡便かつ高効率な遺伝子改変技術を開発しました。
 この研究は文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの一貫として実施され、また文部科学省科学研究費補助金、東京医科歯科大学学長裁量優秀若手研究者奨励賞、東京医科歯科大学難疾患研究所・難治疾患に対する研究助成、同・難治疾患共同研究拠点の支援の下でおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌 Genome Biology(ゲノムバイオロジー)オンライン版で発表されました。


【研究成果の背景】
 ヒトゲノムの解析等の進展により、遺伝子と表現形質、例えばヒトや動物の病気、植物の病害抵抗性等、との関連が明らかにされ、その利用が図られています。その中でも、遺伝子の働きを止めたり、遺伝子を修復したり、遺伝子を挿入したりすることで、病気のメカニズムの解明や、根本的な治療、優れた農産物の育種につながる、遺伝子改変技術を使った研究が注目されています。
 こうした遺伝子改変技術の中で、2013年に開発されたCRISPR/Casシステムの利用が急拡大しており、ノックアウトマウス(4)等が、このシステムを使って作製されています。しかし、ノックインマウスの作製については、依然として困難な状況でした。今回、本研究グループは、これまでのCRISPR/Casシステムを大幅に改良し、ノックインマウスを極めて効率良く作製するシステムの開発に成功しました。


【研究成果の概要】
 CRISPR/Casシステムでは、ゲノム上の改変位置を特定するための核酸(ガイドRNA2))と、その位置で遺伝子をハサミのように切断するための酵素(Cas92))の2種類の部品が使用されます(参照図1)。本研究グループは、CRISPR/Casシステムの改良を図り、ガイドRNAをより自然界に近い形として2分割して用いました。その結果、従来法のCRISPR/Casシステムを用いた一般的な値の数十倍に相当する、約50%の効率で蛍光タンパク質遺伝子の挿入されたノックインマウスを作製することに成功しました(参照図2)。この改良型CRISPR/Casシステムでは、化学合成した2本のガイドRNA、Cas9蛋白質、および挿入遺伝子をマウスの受精卵に注入してノックインマウスが作製されます。今回の実験結果は、遺伝子改変生物を簡便に作製することが本システムによって可能になる事を示唆しています。

 ※図1・図2は添付の関連資料を参照


【研究成果の意義】
 CRISPR/Casシステム関連の技術開発は世界中で進行しています。中でも効率的なノックイン技術の開発は最重要課題とされ、今回の改良型CRISPR/Casシステムは大きなインパクトを与えると考えられます。本システムは、ガイドRNAを2分割して、化学合成可能な長さにすることで簡便化し、多分野の研究者の利用を可能としました。今後、医薬、農水産、環境等の幅広い分野で、本システムを使った遺伝子改変に基づく研究開発が加速されると期待されます。


以上


 (本リリースは2015年4月30日(木)の東京医科歯科大学による発表と同内容です。)


【用語説明】

1)ゲノム編集技術
 生物のゲノムの特定の遺伝子を、部位特異的に改変する技術。第1世代のZFN(ZincFinger Nuclease、ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、第2世代のTALEN(ターレン、Transcription Activator−Like Effector Nuclease)、第3世代のCRISPR/Casシステムがある。ゲノム上の狙った位置での遺伝子の切断や、その位置への遺伝子の挿入が可能なため、基礎研究から産業利用にまたがる、広範囲の利用が期待されている。

2)CRISPR/Cas(クリスパー/キャス)システム
 1987年に大阪大学の中田篤男氏(現大阪大学名誉教授)・石野良純氏(現九州大学大学院農学研究院教授)らにより発見された、ヨーグルトの乳酸菌など微生物に広く存在する免疫システム。2013年以降、遺伝子改変に応用され、爆発的に普及している。改変位置を決めるための核酸(ガイドRNA)と、その位置でDNAを切断するための酵素(Cas9)の2種類の部品から成る。

3)ノックインマウス
 ゲノムDNAに、遺伝子が挿入された遺伝子改変マウス。ヒト遺伝子を持つヒト化マウスによる疾患研究や、蛍光タンパク質遺伝子の挿入による生体内での細胞の詳細な解析等、医学生物学研究の重要なツール。作製の手法はノックアウトマウスと同様であるが、技術の難易度は高く、作製の効率は低い。

4)ノックアウトマウス

 特定の遺伝子が破壊された遺伝子改変マウス。医学生物学研究の最も重要なツール。マリオ・カペッキ、マーティン・エヴァンズ、オリヴァー・スミティーズらにより開発され、2007年のノーベル医学生理学賞の対象となった。胚性幹細胞(ES細胞)を用いて、多大な時間とコストをかけて作製される。




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