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東大、原子の「真上」と「間」では接触時の電気抵抗が異なることを発見

2015-05-13

原子の「真上」と「間」では接触時の電気抵抗が異なることを発見
原子デバイスの実現に道―


○発表者:
 Howon Kim(東京大学物性研究所ナノスケール物性研究部門 特任研究員)
 長谷川幸雄(東京大学物性研究所ナノスケール物性研究部門 准教授)


○発表のポイント
 ◆電極の先端原子が、基板の原子の「真上」で接触しているか、原子の「間」で接触しているかによって、電気抵抗が異なることを発見した。
 ◆接触状態では、原子の「真上」のほうが抵抗は高いが、20pmほど離した状態では、原子の「間」のほうが若干高い抵抗を示し、電極間隔による電気抵抗の逆転現象が観察された。
 ◆原子接触における電気伝導では、接触状態での原子配置の制御が重要であることを示しており、今後の原子デバイス実現に向けての重要な指針となる。

 ・参考画像は添付の関連資料を参照

○発表概要
 東京大学物性研究所ナノスケール物性研究部門のHowon Kim(ホーウォン・キム)特任研究員と同部門の長谷川幸雄准教授らの研究グループは、鉛からなる探針と鉛基板との間での原子接触状態における電気抵抗を測定し、2つの電極の先端原子間の相対的な位置関係によって、抵抗値が変化することを発見しました。
 金属電極間の原子接触における電気伝導現象は、電子の拡がり程度の長さ(フェルミ波長)に比べその幅が狭くなることから、量子的な特徴が現れることが知られており、これまでにも多くの研究がなされてきました。しかしながら、これまでの研究では接触状態での原子配列までは制御できておらず、測定ごとのばらつきが問題となっていました。
 本研究グループは、表面の原子像を撮ることが出来る顕微鏡として知られる走査トンネル顕微鏡(用語解説(1)を参照)を用いて、基板表面の原子像からあらかじめ接触位置を正確に決めた上で、少しずつ2電極間の間隔を狭めながら電気抵抗の値を測定することにより、電極の形状を損なうことなく、原子接触における電気抵抗の接触位置・間隔依存性を測ることに成功しました。以下は、本研究により発見された事項です。
 1.基板表面の原子の直上で接触した場合と、3つの原子の間で接触した場合では、前者のほうが抵抗が高い。
 2.接触した状態では原子直上のほうが高抵抗だが、20pmほど離した状態では、原子間のほうが若干高抵抗となり、電極間隔により両者の抵抗値の逆転が起こる。
 3.3原子の間での接触のうち、接触位置の真下に二層目の原子がある場合とない場合では、後者のほうが抵抗が高い。
 また今回の測定では、これまでに観察されていた抵抗値のばらつきが、実際に接触位置のばらつきに起因することも検証することができました。
 デバイス構造のさらなる微細化に伴い、将来的には、デバイス長が量子的な電気伝導現象の現れる長さに達し、従来のコンセプトとは異なる概念に基づく量子デバイスの構築が必要との予測がなされており、以前にも増して、原子スケールでのデバイス構築への期待が高まっています。今回の研究結果は、接触時の原子配列の重要性を指摘するとともに、接触場所ごとの抵抗値を与えており、原子デバイス設計における重要な指針となります。


○発表内容
 一般に金属電線の電気伝導度は断面積に比例し、細くするとそれに伴い電気伝導度も下がります。しかし、径を1ナノメートル程度まで細くすると、中を流れる電子の波長と同じ程度になるので波としての性質が無視できなくなり、量子的な振る舞いが現れます。例えば、径が1ナノメートル程度の場合、電気伝導は断面積には比例せず、面積の減少に伴い階段状に減少するなど、不思議な現象が起こります。原子接触における電気伝導現象は、こうした量子細線の極限として、これまでにも多くの研究がなされてきました。
 金属の原子接触の研究では、あらかじめ細くしておいた金属ワイヤーを少しずつ引っ張って破断させ、破断直前の電気伝導から評価する方法がよく用いられます。しかし、この方法では接触状態での原子配置を制御することはできないため、測定結果にばらつきが生じ、繰り返し測定による統計的な処理により評価されているのが現状です。
 一方、鋭い先端を持つ探針を基板表面に近づけて、両者間に流れるトンネル電流を利用して探針・基板間の距離を制御しながら基板表面を走査し、その凹凸像・原子像を得る顕微鏡である走査トンネル顕微鏡の技術を駆使して、原子接触の電気伝導を評価しようとする試みも盛んになされています。しかし、この方法でも、探針位置や探針基板間隔の制御が十分でないと、接触のたびに接触場所が変わってしまう・探針先端の形状が変わってしまうなどの問題が生じ、安定な測定結果を得ることは出来ませんでした。
 こうした背景を受けて、本研究グループは、探針制御技術の性能を高めた上で走査トンネル顕微鏡の原子像観察技術を生かし、あらかじめ取得した鉛の(111)基板表面の原子像から探針の位置を原子レベルで正確に決めつつ、鉛探針と基板表面の間隔を少しずつ狭めながら電気伝導度を測定することによって、基板表面上での各場所における電気伝導度の分布とその間隔依存性を得ることに成功しました(図1)。
 図1には、挿入図である原子像上の各場所で、探針と試料間の間隔を変えながら測定した電気伝導度の値を対数プロットで表示しています。原子直上では、−35pmあたりで一旦、電気伝導度は高くなるものの、さらに基板に近づくにつれて電気伝導度の増加は抑えられ、−50pmでは他の位置に比べても電気伝導度の値は小さくなります。また、3つの原子の間でも、その下に2層目の原子がある位置(図中、赤で表示)と原子が無い位置(青)では、電気伝導度が異なることも判ります。図2では−35pmおよび−50pmの探針基板間隔での電気伝導度の分布を表しており、−35pmでは、原子直上で電気伝導度が高くなっているのに対し、−50pmでは3原子の間、特に2層目の原子がある位置での電気伝導度が高くなっていることが明らかに示されています。
 原子直上と3つの原子の間で見られた探針基板間隔による電気伝導度の逆転現象は、探針先端原子と基板原子との間に働く化学結合により説明されます(図3)。探針を近づけると、まずは原子直上の位置で基板原子との間に化学結合力が及ぼされ、電気伝導のチャネルが形成されて電気伝導度が高くなると考えられます。しかしこの位置では、近づけてもチャネルの数は変わりません。一方、3原子の間では、チャネル形成までは探針をさらに近づける必要がありますが、3原子とチャネルを形成するので接触状態では電気伝導度は高くなります。ただ、現段階では全ての現象が説明されているわけではなく、今後のさらなる理論的研究が待たれています
 接触位置を決めた上での原子接触での電気伝導現象の測定は、走査トンネル顕微鏡における極めて高い精度での位置決め制御技術が要求されることから、これまでは困難でした。しかし、世界最高レベルの極低温走査トンネル顕微鏡を駆使することにより、今回初めて可能となりました。


○掲載論文
 題目:Site−dependent evolution of electrical conductance from tunneling to atomic point contact
 著者:Howon KimandYukio Hasegawa
 雑誌:Physical Review Letters
 掲載予定日時:平成27年5月12日


○用語解説
 (1)走査トンネル顕微鏡
  先鋭な金属針を探針に用い、試料との間に流れるトンネル電流を検出することで動作する顕微鏡の一種。一般に原子分解能を有し、試料の電子状態を検出することも可能であるため、ナノテクノロジー研究において多用される。


 ・図1〜3は添付の関連資料を参照



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