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東大、注意欠如多動性障害の薬物治療効果を予測する客観的な指標を開発

2015-05-12

注意欠如多動性障害の薬物治療効果を予測するための客観的な指標の開発へ


■発表のポイント:
 ◆注意欠如多動性障害(ADHD)の小児が内服する塩酸メチルフェニデートの長期的な効果を、脳機能を簡便で安全に測れる光トポグラフィーにより予測できる可能性を示しました。
 ◆内服前に比べて塩酸メチルフェニデートを1回内服した後の光トポグラフィーの信号が高くなるほど、同薬を1か月継続して内服した後の治療効果が高いことがわかりました。
 ◆副作用のある塩酸メチルフェニデートを継続して内服する前に治療効果を予測できれば、ADHDの患者さんや家族に負担をかけない治療の選択ができる可能性が期待されます。


■発表概要:
 小児の注意欠如多動性障害(ADHD:用語解説1)の薬物治療のひとつとして、塩酸メチルフェニデート(MPH:用語解説2)の内服があり、ADHDを患う約70%の小児ではその症状を改善する効果があるといわれています。しかし、副作用として食欲低下や睡眠への影響があり、小児の成長に影響をもたらす場合があるといわれているため、効果のない患児の内服はできるだけ減らしたいという考えもあります。一方、MPHが有効であるにもかかわらず、依存性や副作用を懸念するあまり使用を避けることで、症状の改善が図られないという問題も生じています。そのため、継続的な内服の前に薬物治療の効果を予測するための客観的な指標があればこれらの課題が解決できる可能性があります。
 東京大学大学院医学系研究科こころの発達医学分野の石井礼花助教、金生由紀子准教授、同精神医学分野の笠井清登教授らの研究グループは、安全で簡便な脳機能検査法である光トポグラフィー(NIRS:用語解説3)を用いてADHD患児に対して行ったランダム化比較試験(用語解説4)にて、内服前に比べてMPHを1回内服した後の光トポグラフィーの信号が高くなるほど、MPHを1か月継続して内服した後の治療効果が高いという結果を見出しました。さらに、1年間内服した後のMPHの治療効果についても同様の結果を得ました。内服前、および1回の内服後の光トポグラフィーの信号変化により、長期的なMPHの効果を予測できる可能性を示しました。
 本研究の成果によって、MPHの継続的な内服前に行った光トポグラフィー検査が、ADHDの薬物治療の効果予測に役立つ可能性を示したことにより、今後ADHDの患児や家族に負担をかけない治療の選択ができる可能性が期待されます。
 これらの成果は、日本時間5月4日にNeuropsychopharmacology誌にて発表されます。


■発表内容:
 〔1〕研究の背景
  不注意、多動衝動性の症状を特徴とする小児の注意欠如多動性障害(ADHD)の薬物治療のひとつとして、塩酸メチルフェニデート(MPH)の内服があります。MPHは、約70%の患児に対してADHDの症状を改善する効果があるといわれています。しかし、副作用として食欲低下や睡眠への影響があり、小児の成長に影響をもたらす場合があるといわれているため、効果のない患児の内服はできるだけ減らしたいという考えもあります。一方、MPHが有効であるにもかかわらず、依存性や副作用を懸念するあまり使用を避けてしまうことで、症状の改善が図られないという問題も生じています。そのため、継続的な内服の前に薬物治療効果を予測するための客観的な指標が求められています。
  光トポグラフィー(NIRS)は簡便で安全に脳機能を測定できる装置です。この装置は子どもにも使用しやすいため、光トポグラフィー検査を用いて客観的な指標を開発できれば、上記の課題を解決できる可能性があります。


 〔2〕研究内容
  研究グループは光トポグラフィーを用いて、MPHの内服歴のない6歳から12歳のADHDの患児(未内服群)22名、1か月以上MPHを内服していたADHD患児(内服群)8名について、図1に示したように、ベースラインアセスメント、MPHを1回内服した後の単回内服試験(ランダム化2重盲検クロスオーバー試験)、4から8週間のMPHの継続内服試験(非盲検試験)、1年間のMPHの内服後の脳機能を評価しました。MPHを内服しておらず、ADHDを患っていない小児(健常群)では、NIRSの測定のみをADHD群と同じ頻度、間隔で行いました。NIRSの測定による脳機能の評価は、左右の下前頭回を対象としました。

 ・図1は添付の関連資料を参照

  この研究の主な目的は、MPHの継続内服前の検査で継続内服後の薬の効果を予測できるかということです。薬の効果を数値化して評価するために、医師の全体評価Clinical GlobalImpression of Severity(CGI−S:用語解説5)を用いました。これはADHD未内服群においてのみ行いました。
  そして、内服前に比べてMPHを1回内服した後の左下前頭回におけるNIRS信号が高くなるほど、MPHを1か月継続して内服した後の治療効果が高いという結果を見出しました(図2A)。さらに、1年間内服した後のMPHの治療効果についても同様の結果を得ました(図2B)。これは、内服前、および1回内服後のNIRSの信号変化により長期的なMPHの効果を予測できる可能性を示しています。

 ・図2は添付の関連資料を参照

  また、ベースラインアセスメントにおいてADHD未内服群は、健常群に比較して有意に右下前頭回のNIRS信号が低いのに対し、ADHD内服群は1週間の休薬後にもかかわらず、健常群と差が認められませんでした(図3A)。
  単回内服試験においては、ADHD未内服群において(図3B)、MPH内服時にプラセボ内服時と比較して有意に右下前頭回のNIRS信号が高くなりました。また、4〜8週間のMPH内服後においてADHD未内服群は、健常群とNIRS信号の高さに差が認められなくなりました(図3C)。さらに、1年間MPHを内服したのち1週間休薬してから行ったNIRS検査においては、休薬したにも関わらず、ADHD未内服群は健常群とNIRS信号に差が認められませんでした(図3D)。つまり、未内服のADHD群は、健常群と脳機能の差がありましたが、MPH内服を継続することによって、健常群と脳機能の差が減少する可能性が示されました。また、継続内服後に、薬を1週間休薬しても脳機能の差の減少が継続する可能性が示されました。

 ・図3は添付の関連資料を参照


 〔3〕社会的意義・今後の予定
  MPHの継続的な内服前に行った簡便で非侵襲的な光トポグラフィー検査がADHDの薬物治療の効果予測に役立つ可能性を示したことにより、今後ADHDの患児や家族に負担をかけない治療の選択ができる可能性が期待されます。
  この成果を臨床的に実用可能にしていくためには、今後明らかにしていくべき課題もたくさんあります。まず、この研究は一施設で、少ない人数で行われたものであり、今後は、多施設、多人数で再現性のある結果を得られるか検証する必要があります。また、ADHDの治療には、他にも心理社会的治療やアトモキセチンなどの薬物療法もあり、適切な治療を選択するためには、このような他の治療との比較検証も行うことが望ましいといえます。


■発表雑誌:
 雑誌名:「Neuropsychopharmacology」
 論文タイトル:Neuroimaging−aided prediction of the effect of methylphenidate in children with attention deficit hyperactivity disorder−a randomized controlled trial
 著者:Ayaka Ishii−Takahashi,Ryu Takizawa,Yukika Nishimura,Yuki Kawakubo,Kasumi Hamada,Shiho Okuhata,Shingo Kawasaki,Hitoshi Kuwabara,Takafumi Shimada,Ayako Todokoro,Takashi Igarashi,Kei−ichiro Watanabe,Hidenori Yamasue,Nobumasa Kato,Kiyoto Kasai(*),and Yukiko Kano


■用語解説:
 1)注意欠如多動性障害(ADHD)
  不注意および多動、衝動性の症状が特徴であり、日本では小学生の2.5%が罹患しているといわれ、小児で最も頻度の高い発達障害です。生物学的な原因の側面が強く、しつけや本人の努力だけで症状などに対処するのは困難であり、適切な治療と環境調整によって症状を改善することができます。

 2)塩酸メチルフェニデート(MPH)
  注意欠如多動性障害は、脳内のドーパミンという神経伝達物質が低下していることが原因の一つとされており、塩酸メチルフェニデートを内服することによって、この神経伝達物質の濃度を上昇させることにより、症状を軽減するといわれています。

 3)光トポグラフィー(NIRS)
  生体組織に対して透過性が高い近赤外光(波長650ナノメートル〜900ナノメートル)の反射光を測定して血中の酸素化ヘモグロビン変化量を調べ、脳の活動性を捉える検査です。簡便で安全性が認められている検査なので、小児に使いやすく、発達障害の方への臨床使用がしやすいと考えられています。
  光トポグラフィー検査による脳機能評価を精神疾患へ応用することで、抑うつ状態の背景疾患が示唆されることがわかり、2014年4月からはうつ病を対象とした「抑うつ状態の鑑別診断補助」についてのみ保険適応のある検査となりました。注意欠如多動性障害の診断や治療効果予測検査への保険適応はありません。

 4)ランダム化比較試験
  ランダム化は「無作為化」、人為的な操作が入り込まないという意味で、サイコロの目などのように、各数字の出現確率が均等であるような状態を意味します。試験群と対照群が同じ特性を持つように試験の対象者を振り分ける目的で、研究の対象者をランダムに2つのグループに分け(ランダム化)、一方には評価しようとしている治療のために介入し、もう一方には介入群と異なる治療を行います。一定期間後に病気の治癒率、生存率などを比較し、介入の効果を検証します。無作為に割り付けることにより二つの群の性質の違いが結果に影響を及ぼす可能性が少なく、非ランダム化比較試験よりも精度の高い根拠が得られるとされています。

 5)医師の全体評価Clinical Global Impression of Severity(CGI−S)
  CGI−Sは全般評価に関する重症度を示します。「1.Normal,not at all ill(正常)」、「2.Borderline mentally ill(精神疾患の境界線上)」、「3.Mildly ill(軽度の精神疾患)」、「4.Moderately ill(中等度の精神疾患)」、「5.Markedly ill(顕著な精神疾患)」、「6.Severely ill(重度の精神疾患)」、「7.Among the most extremely ill patients(非常に重度の精神疾患)」の7段階で患者の状態を医師が評価するものです。



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