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阪大など、心不全につながる難病である肺高血圧症の発症メカニズムを解明

2015-05-12

キーワード:分子血管学、肺高血圧症、炎症、インターロイキン6、インターロイキン21、マクロファージ
心不全につながる難病
肺高血圧症の発症メカニズムを解明


 ■肺高血圧症の病態の鍵を握るインターロイキン6(interleukin−6)の作用を阻害する抗体薬が肺高血圧症モデルマウスでの肺高血圧発症を抑制することを発見
 ■インターロイキン6の作用によりTh17細胞で主に産生されるインターロイキン21(interleukin−21)がM2マクロファージの極性化を介して肺高血圧症の病態形成を促進することを発見
 ■インターロイキン6やインターロイキン21に対する阻害療法が、肺高血圧症に対する新しい創薬へと発展することを期待


○概要
 大阪大学大学院医学系研究科内科学講座(循環器内科学)の中岡良和助教、片岡崇弘大学院生(博士課程4年)、坂田泰史教授らの研究グループは、難病の1つである肺高血圧症(※1)の新しい発症メカニズムを発見しました。近年の研究から肺高血圧症の発症には炎症(※2)が重要で、特に炎症を誘導するサイトカイン(※3)の1つであるインターロイキン6(interleukin−6;IL−6)(※4)は肺高血圧症の病態の鍵を握ると考えられていましたが、IL−6が肺高血圧症の発症を促進するメカニズムはこれまで不明でした。研究グループは、IL−6の作用によって主にヘルパーT細胞(※5)の1種であるTh17細胞(※6)から分泌されるインターロイキン21(interleukin−21;IL−21)(※7)が肺高血圧症の発症に重要な役割を担うことを発見しました。IL−21が肺に存在するマクロファージ(※8)をM2マクロファージ優位な状態に誘導して、M2マクロファージの肺組織への集積と相関して肺動脈平滑筋細胞(※9)の増殖が促進されることで肺高血圧症発症に至るメカニズムが初めて明らかになりました(概要図参照)。今後、IL−6やIL−21を標的とした抗サイトカイン治療が肺高血圧症に対する新しい治療法や創薬に発展することが期待されます。
 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)電子版に2015年5月4日15時(米国時間EST)に掲載される予定です。

 *概要図は添付の関連資料を参照


○研究の背景
 肺高血圧症は心臓から肺に血液を送る肺動脈に狭窄や閉塞が生じて肺動脈圧が上昇する疾患であり、最終的には心不全(右心不全)へ進行する予後不良の難治性疾患です。いまだに肺高血圧症患者でなぜ肺動脈に狭窄や閉塞が生じて肺動脈圧が上昇するか、その病態の詳細は明らかにされていません。
 これまで肺高血圧症の発症には遺伝的な因子だけでなく、「炎症」も重要であることが報告されていました。炎症を引き起こす代表的なサイトカインのIL−6は、肺高血圧症患者の血清で増加して、その生命予後と相関することが報告されており、また遺伝子改変マウスを用いた研究からもIL−6は肺高血圧症の発症を促進することが報告されていました。しかしながら、IL−6が肺高血圧症の病態を促進するメカニズムは不明でした。


○研究の成果
 マウスを通常の空気(酸素濃度21%)よりも低い酸素濃度(10%)に曝露することで作製される低酸素負荷誘発性肺高血圧症(Hypoxia−induced Pulmonary Hypertension;HPH)マウスを作製すると、その肺組織ではIL−6が肺細小動脈の内皮細胞、平滑筋細胞で強く産生されます。研究グループはHPHマウスにIL−6の作用を阻害する抗IL−6受容体抗体を投与すると、コントロール群に比べてHPH病態が有意に抑制されることを見出しました(図1A)。
 研究グループは、IL−6がその分化に必要とされるTh17細胞とその産生する炎症性サイトカインに注目して調べました。HPHマウスの肺ではTh17細胞が増加して、主にTh17細胞の産生する炎症性サイトカインのIL−17やIL−21も増加していましたが、抗IL−6受容体抗体の投与によりHPHマウス肺でのこれらの増加はいずれも抑制されました(図1B)。
 次に、研究グループは低酸素条件下で主にTh17細胞から分泌されるIL−17とIL−21の役割を検討しました。HPHマウスに抗IL−17中和抗体を投与しても有意な治療効果は見られませんでしたが、IL−21受容体ノックアウト(IL−21RKO)マウスは野生型マウスに比べてHPH病態形成が有意に抑制されました(図2)。以上より、IL−6の下流でIL−21がHPHの病態形成に重要であることが分かりました。
 これまでに、HPHマウスの肺には免疫細胞の中で特にM2マクロファージが集積して肺高血圧病態で重要な役割を担うことが報告されていましたが、そのメカニズムは不明でした。研究グループはHPHマウス肺でのM2マクロファージの集積にIL−6とIL−21が共に必須であることを見出しました(図2)。また、肺高血圧症患者では非肺高血圧症患者に比べて有意に肺組織でのIL−21の発現とM2マクロファージの集積が亢進していました(図3)。
 以上より、IL−6は肺組織でTh17細胞を誘導し、主にTh17細胞から分泌されるIL−21が肺内のマクロファージをM2マクロファージへ誘導することで肺動脈平滑筋細胞の増殖を促進して、肺高血圧症の発症に重要な役割を果たすことが明らかになりました(概要図)。


○本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 肺高血圧症の治療は、近年、プロスタグランジンI2製剤(◇)(※10)、エンドセリン受容体拮抗薬(※11)、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬(※12)などの開発で予後は改善しつつありますが、進行した肺高血圧症や膠原病性肺高血圧症などの一部はいまだ予後不良で、新しい治療法の開発が必要と考えられています。研究グループが今回の研究で使用したIL−6を阻害する抗IL−6受容体抗体は、ヒトではトシリズマブ(商品名:アクテムラ)として関節リウマチ、キャッスルマン病、小児の全身性若年性特発性関節炎に保険承認されて既に世界中で汎用されており、今後はIL−6阻害療法の肺高血圧症の治療における有効性を検討する必要があると考えられます。また、IL−21を阻害する作用を持つ生物学的製剤も既に開発されていますので、IL−21の作用を阻害する治療法の有効性を抗IL−6受容体抗体と同様に今後検討することで、肺高血圧症に対する新しい創薬に発展することが期待されます。

 ◇「I2製剤」の正式表記は添付の関連資料を参照


○特記事項
 本研究は、大阪大学、国立循環器病研究センター、東京大学北海道大学との共同で行ったものです。また、本研究は国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「生体における動的恒常性維持・変容機構の解明と制御」(研究総括:春日雅人国際医療センター総長)研究課題名:「内皮細胞を起点とした心血管系の恒常性維持機構の解明と制御」中岡良和(大阪大学大学院医学系研究科助教)の一環として行われました。
 本研究成果は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)電子版に2015年5月4日15時(米国時間EST)に掲載される予定です。

 論文タイトル ”Interleukin−6/interleukin−21 signaling axis is critical in the pathogenesis of pulmonary arterial hypertension”
 (インターロイキン6/インターロイキン21 シグナル軸は肺動脈性肺高血圧症の病態形成に重要である)


 *参考図(図1〜3)・用語解説は添付の関連資料を参照



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