イマコト

最新の記事から注目のキーワードをピックアップ!

Article Detail

産総研、超微細な金属ナノ粒子の触媒を層状炭素材料のグラフェン上への均一な固定化に成功

2015-05-08

超微細な貴金属ナノ粒子触媒を固定化
−水素発生反応の触媒として水素エネルギー社会実現に寄与−


<ポイント>
 ・層状炭素材料であるグラフェンに超微細な貴金属ナノ粒子触媒を均一に固定化
 ・還元過程で貴金属とともに析出した非貴金属の犠牲により実現
 ・超微細な金属ナノ粒子の新しい合成法として広範な応用に期待


<概要>
 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)電池技術研究部門【研究部門長 谷本 一美】エネルギー材料研究グループ 徐 強 上級主任研究員とYao CHEN 元産総研特別研究員らは、「非貴金属犠牲法」という新しい手法を開発し、超微細な金属ナノ粒子の触媒を層状炭素材料であるグラフェン上に均一に固定化することに成功した。

 今回開発した技術を用いて作製した金属ナノ粒子触媒を、液相の水素貯蔵材料であるギ酸からの水素発生反応に用いたところ、触媒の活性・耐久性が大幅に向上した。この技術は、水素エネルギー社会実現に寄与することが期待されるとともに、超微細な金属ナノ粒子の新しい合成法として、幅広い応用が期待される。

 この研究成果は、2015年1月14日に米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyに掲載された。

 ・図1は添付の関連資料を参照


<開発の社会的背景>
 地球環境保全問題や移動型機器の爆発的な普及を背景として、クリーンで安全なエネルギー供給システムへの社会的要請はかつてない程の高まりを見せている。水素は、エネルギー取り出し後には「水」だけになるため、環境に優しいクリーンなエネルギーとして期待されている。しかし、水素エネルギー社会の実現には、水素の貯蔵・運搬という大きな課題を解決する必要がある。

 液化水素は、冷却液化に大量のエネルギーを必要とする上、自然蒸発が長期貯蔵の際の大きな問題となっている。一方、水素吸蔵合金は、重量当たりの水素密度が低いことが車載用などの移動型燃料電池への実用化のネックとなっている。また、高圧ガスボンベは車載用水素貯蔵法として期待されているが、安全上の課題がある上、大規模な水素輸送や小型の移動型機器での利用が困難である。それに対して、化学的水素貯蔵は、高密度の水素を化学結合によって水素化物という安定な形で安全に貯蔵できるため、大規模な水素輸送や小型の移動型機器への水素供給の有望な方法の一つとして期待されている。


<研究の経緯>
 化学的水素貯蔵に用いる水素化物としては現在、アンモニアやメチルシクロヘキサンなどが検討されているが、水素発生温度が高いといった問題がある。これに対して、ギ酸は常温常圧での水素貯蔵量が4.4%あり、二酸化炭素との相互変換に伴うエネルギー変化が小さいことから、温和な条件で使用でき、効率のよい水素貯蔵用水素化物として期待されている。これまでに産総研で、二酸化炭素の水素化によるギ酸生成(水素貯蔵)とギ酸の分解による水素ガス発生という二酸化炭素/ギ酸の相互変換を温和な条件で行える高性能な均一系触媒(金属錯体)が開発された(2012年03月19日 産総研プレス発表(http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120319/pr20120319.html))。しかし、ギ酸を用いた水素貯蔵システムを実用化するため高活性で高耐久性の不均一系触媒が望まれている。産総研はこれまで各種水素化物からの水素発生用不均一系触媒の研究開発を続けており(2012年11月27日 産総研主な研究成果(http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/nr20121127/nr20121127.html))、今回、ギ酸用の不均一系触媒の開発に取り組んだ。

 本研究開発は、2009年11月13日に行われた日米首脳会談における日米クリーン・エネルギー技術協力に関する合意に基づいて開始された経済産業省「日米等エネルギー技術開発協力事業(日米クリーン・エネルギー技術協力)」による支援を受けて実施した。


<研究の内容>
 グラフェンは、グラファイトを構成する単原子薄膜で、炭素原子が平面上で蜂の巣状に並んだ構造をもつ(図1)。近年、グラフェンは金属ナノ粒子触媒を固定化させる材料としても注目され、さまざまな固定化方法が試みられてきたが、金属ナノ粒子触媒が固定化の過程で凝集して大きくなり、触媒反応に活性を示す有効な金属の表面積が小さくなることから、触媒活性が不十分などの問題が生じていた。

 今回、還元の際に貴金属とともに析出した非貴金属を犠牲とすることにより、グラフェン上に超微細貴金属ナノ粒子を固定化する「非貴金属犠牲法」という手法を開発した。この手法では、貴金属が還元されてグラフェン上へ析出する際に、同時に析出した非貴金属が貴金属ナノ粒子の凝集を防ぐ。その後、酸によって非貴金属を溶出(非貴金属の犠牲)させることによって、超微細貴金属ナノ粒子をグラフェン上に固定化できる。非貴金属を同時に析出させる点が従来法との主な違いの一つである。

 今回、グラフェン酸化物を水溶液に分散させ、触媒の前駆体であるテトラクロロパラジウム酸カリウム(II)(K2PdCl4)と硝酸銀(AgNO3)と同時に酢酸コバルト(Co(CH3COOH)2)を加えた。水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)による還元により、触媒となる貴金属であるパラジウム(Pd)と銀(Ag)からなるナノ粒子(Pd/Agナノ粒子)が析出する際に、ホウ酸コバルト(Co3(BO3)2)も同時にグラフェン上に析出して、Pd/Agナノ粒子の凝集が防がれた。その後、リン酸(H3PO4)を用いて、(Co3(BO3)2)を溶出させて除くと、超微細Pd/Agナノ粒子をグラフェン上に固定化できた。透過型電子顕微鏡観察の結果、この手法により超微細なPd/Agナノ粒子がグラフェン上に均一に固定化されていることが確認できた(図2)。

 ・図2・3は添付の関連資料を参照

 今回開発したグラフェン上に固定化された金属ナノ粒子触媒は、ギ酸の分解反応により高効率に水素を発生させた(図3)。触媒活性の指標である触媒回転頻度は50℃では2739 h−1に達し、これは不均一系触媒では最も高い値である。また、生成した水素からは、燃料電池の電極触媒の劣化原因となる一酸化炭素が検出されなかった。さらに、この触媒は、サイクル試験において安定な触媒活性を維持し、高い耐久性を示した。


<今後の予定>
 今後、「非貴金属犠牲法」を用いて、グラフェン上に固定化した金属ナノ粒子触媒の開発を進め、ギ酸をはじめとする化学的水素貯蔵に用いる材料の高機能化、高効率化を図り、さらに環境やエネルギー技術に応用可能な多様な材料に展開していきたい。

 ・用語の説明は添付の関連資料を参照


<関連記事>

 ○二酸化炭素とギ酸を相互変換するエネルギー効率の高い触媒を開発
  http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2012/pr20120319/pr20120319.html
 ○多孔性配位高分子に金属ナノ粒子触媒を固定化
  http://www.aist.go.jp/aist_j/new_research/2012/nr20121127/nr20121127.html



Related Contents

関連書籍

  • 死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    死ぬまでに行きたい! 世界の絶景

    詩歩2013-07-31

    Amazon Kindle版
  • 星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    星空風景 (SKYSCAPE PHOTOBOOK)

    前田 徳彦2014-09-02

    Amazon Kindle版
  • ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    ロンドン写真集 (撮影数100):ヨーロッパシリーズ1

    大久保 明2014-08-12

    Amazon Kindle版
  • BLUE MOMENT

    BLUE MOMENT

    吉村 和敏2007-12-13

    Amazon Kindle版