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東北大、カーボンナノチューブ1本上で生体分子活性制御に成功

2015-05-07

カーボンナノチューブ1本上で生体分子活性制御に成功
−細胞や生体分子の活性を局所的に操る新しい「ナノヒーター」を開発−


<概要>
 東北大学多元物質科学研究所・井上裕一助教と石島秋彦教授らは、カーボンナノチューブ1本上で生体分子モーターの運動活性を観察し、レーザー照射によって運動速度を制御する新技術を開発しました。本研究の成果は、将来的に生体分子機能メカニズムの解明や、医学的応用など汎用的な波及効果が期待されます。
 本成果は米国科学誌「ACS Nano」において、2015年4月28日(米国東部時間)に公開されます。それに先立ち、速報版は既に公開されています。


<背景>
 カーボンナノチューブは、炭素原子からなる筒状の物質であり、ナノメーターサイズの微小形状だけでなく、導電性や弾性など優れた特性を持っています。その中でも熱伝導性は特出しており、金や銅より高い熱伝導率が報告されています。このためカーボンナノチューブは、生命科学分野にも応用され始めており、がん細胞の90℃以上のレーザー加熱による死滅なども報告されています。したがって、もっと細やかに細胞を熱制御できれば、例えば温度を時間的に調整できれば、細胞を不可逆的に死滅させるだけでなく、その前に活性化したり、活性を段階的に変化させるなど、活性操作が期待されます。さらには、カーボンナノチューブ1本の小さなサイズで熱制御できれば、細胞内の局所部位あるいは生体分子1個レベルまで活性を制御できる、新たな「ナノヒーター」となることが期待されます。


<研究の内容>
 本研究では、カーボンナノチューブ1本を新しいナノヒーターとして利用することを目指して、1)生体分子の生きた活性をカーボンナノチューブ1本上で検出することと、2)近赤外レーザーを局所的かつ断続的にカーボンナノチューブに照射し、生体分子活性を制御することを目的に実験を行いました。
 まず、生体分子として活性を計測しやすいモータータンパクを利用することにしました(図1A)。ウサギ骨格筋から精製したミオシンは、筋収縮を駆動させるモータータンパクであり、ATP加水分解のエネルギーを利用して、アクチンフィラメントを動かします。このミオシンカーボンナノチューブ上に失活しないように吸着させ、カーボンナノチューブ自体もガラス上に固定します。暗視野像の散乱強度から、カーボンナノチューブが1本であることを確認した後、ATPと蛍光ラベルしたアクチンフィラメントを与えると、ミオシンラベルしたカーボンナノチューブに沿ってアクチンフィラメントが滑り運動するのが蛍光観察されました。このときの滑り速度は、従来の報告と同等であったため、正常なミオシンモーター活性をカーボンナノチューブ上で観察できたと言えます。
 次に、滑り運動中に、カーボンナノチューブの片端だけを、レーザー照射によって加熱します(図1B)。レーザーは、水やタンパク質に影響を与えず、カーボンナノチューブだけを加熱することができる近赤外レーザーを用いました。カーボンナノチューブ端の熱は、熱伝導率の違いから、カーボンナノチューブおよびその近傍のタンパクだけを局所的に加熱することが予想されます。実際に蛍光顕微鏡下で実験してみると、アクチンフィラメントがカーボンナノチューブに沿って滑り運動する速度が、レーザー照射時だけ高速化することに成功しました(図1B)。速度上昇から見積もられたミオシンの温度上昇は平均で12度でしたが(2.7mW照射時)、よく見るとカーボンナノチューブ端からの距離から離れるほど、温度上昇が小さくなっていました。この温度分布を熱伝導近似計算で解析することによって、使用した多層カーボンナノチューブの熱伝導率を見積もることができました。従来、カーボンナノチューブの熱伝導率は、真空中での実験や分子動力学法計算からの報告に限られていましたが、水溶液中における報告は世界で初めてです。

 ・図1は添付の関連資料を参照


<今後の展望>
 以上のように、カーボンナノチューブ1本上で生体分子モーター活性を計測しました。さらには局所的近赤外レーザー照射によって、モーター活性を可逆的に制御することに成功しました。今回は、ミオシンモーターに限ったナノヒーターでしたが、他のモーター分子やモーター以外の多くのタンパク質活性制御に応用できます。将来的には、より細く微小なカーボンナノチューブなどを用いて、さらに局所的な熱制御を行うことができれば、細胞内の狙った分子1個だけの生きた活性を自由自在に操ることが予見され、生体分子機能メカニズムの解明や、医学的応用など汎用的な波及効果が期待されます。

 ・用語解説は添付の関連資料を参照

【掲載誌情報】
 雑誌名:ACS Nano
 論文タイトル:Single Carbon Nanotube−Based Reversible Regulation of Biological Motor Activity
 著者:Yuichi Inoue,Mitsunori Nagata,Hiroshi Matsutaka,Takeru Okada,Masaaki K.Sato,and Akihiko Ishijima



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