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東北大、ヒト細胞が放射線による障害を感知して転写を止め障害を修復する仕組みを解明

2015-04-29

ヒト細胞が放射線による障害を感知して転写を止め
障害を修復する仕組みを解明


<概要>
 東北大学加齢医学研究所・加齢ゲノム制御プロテオーム寄付研究部門(安井明教授)は発癌や細胞老化の原因となるDNAの傷が細胞内でどのように修復されるかを研究しています。
 この度、同部門の宇井彩子博士・安井明教授らのグループは、放射線の最も深刻な影響であるDNAの二本鎖切断が生じた近傍の転写(DNAの情報をRNAに読み取る過程)が止まる仕組みを解明しました。その機構は丁度、前方の障害により進行中の電車の運転手に停止シグナルが伝えられブレーキがかかり近くの電車が次々と止められ、そのことにより障害の修理が起き、修理が終わると近くの電車から運転を始める様な機構であることを明らかにしました。さらにこの機構が放射線による細胞死を抑え、さらに細胞の癌化や老化を抑えていることが分りました。
 本来は転写を進行させる因子が、転写を抑える因子を呼び寄せてそれぞれの進行している転写の現場で転写を抑制し、それが二重鎖切断の修復蛋白質を呼び寄せ修復を行ない再び転写が開始する機構の発見は、従来知られていない画期的な研究成果として、Molecular Cellに発表される運びとなりました。論文は2015年4月23日にonline発行される同誌に掲載予定です。

 論文名:Transcriptional elongation factor ENL phosphorylated by ATM recruits Polycomb and switches off transcription for DSB repair
 著者:Ayako Ui(宇井彩子),Yuko Nagaura(永浦裕子)and Akira Yasui(安井 明)
 所属:東北大学 加齢医学研究所 加齢ゲノム制御プロテオーム寄付研究部門


1.研究の背景
 放射線が人間に与える影響の中でDNAの二重鎖切断が最も深刻で細胞死や発癌の原因であると考えられています。一般にDNA上の傷は種々の原因で生じ、殆どの傷は傷を見つけて修復する蛋白質の働きで修復され細胞を細胞死や癌化から守っていますが、まだ詳しい機構の多くは分ってはいません。DNAの傷はそのDNAの情報を使う転写と細胞増殖のための複製の機構を最も阻害します。転写はDNAの情報を基に蛋白質を作る為にまずRNAの情報に移される機構ですが、DNAの傷があると転写はそこで止まってしまい、重要な蛋白質が作られなくなり、細胞は機能を止めてしまう可能性があります。しかし、これまでに転写と共役した修復の機構が見つかっています。紫外線等で出来たDNA上の傷で止まったRNAポリメラーゼに結合する因子が修復蛋白を呼び寄せて素早く修復して転写を救う機構で、この機構が欠損する遺伝病は早老症として知られているコケイン症候群です。放射線による二重鎖切断の場合に、その周辺の転写が抑えられると言う事は分っていたものの、その転写抑制がどのように起き、どのように修復が開始するかは全く分っていませんでした。また、それが出来ないとどのような影響があるかは分っていませんでした。


2.研究成果の概要
 発見のきっかけは、RNAポリメラーゼに結合して転写を活性化するENL蛋白質に細胞内で転写を抑えるポリコームと呼ばれる蛋白質が結合している事を、助教をしていた宇井彩子博士が見つけた事です。転写を進める因子が転写を抑える因子と結合するのは転写を無理矢理止める必要がある時ではないかと考え、我々が以前に樹立した、ヒト細胞内のDNA上に二重鎖切断を入れる場所とそれに続く転写が起きる領域があり、その転写の産物を観測出来る細胞を使って、二重鎖切断を入れると転写を抑えられる事を確かめ、その為にはENLとENLに結合するポリコー蛋白質が必要な事が分りました。二重鎖切断が出来るとATMと呼ばれる蛋白質がまず現場にやって来て活性化され、ENLにリン酸化という修飾を施すことが分り、その修飾によりENLにポリコームがくっつき、そのポリコームが近傍のDNAに結合するヒストンという蛋白質にユビキチン化という修飾を施すことによりその場の転写を止めてしまうことが分りました。このようにして転写が止まって始めて二重鎖切断の修復蛋白質がやって来て二重鎖切断を修復することも明らかになりました(図1)。ENLが無い細胞や、ENLがATMにリン酸化されなくすると修復は起きず細胞は放射線に感受性になる事も分りま
した。すなわち、この機構は細胞の射線感受性に関わっています。この機構は丁度、線路上の障害の存在を、そこに近づく電車に次々と知らせて運行を止め,修理屋を呼んで修理させ、又運行を開始する電車の運行システムに似ています(図2)。共通点は障害の現場で電車を止めるのではなく、それぞれの進行中の電車に障害の存在が伝えられその場所で停止するということです。このシステムでは、高速道路の様な車同士の追突事故は生じず、修理が効率的に進められ、修理の終わった後での再開がスムーズであり、障害の影響が最小限に抑えられます。

 ※図1・図2は添付の関連資料を参照


3.研究成果の意義
 放射線の細胞影響で最も大きい比重を占めているDNAの二重鎖切断が転写と重なった時に近傍の転写が止まる機構を明らかにし、さらにそれが細胞死を抑える為に必要であることが分ったのは、ヒト細胞の持つ細胞死を免れる高度な機構の発見であり、さらに、その転写抑制が、転写を促進するRNAポリメラーゼIIに結合する因子によって引き起こされることは、転写制御の全く新しい機構の発見であり、細胞分化や細胞老化一般に重要な意義を持っているということです。ENL蛋白質の異常は急性白血病を引き起こす事が知られており、この発見と細胞の癌化の関係も重要であります。





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