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東大、量子テレポーテーション心臓部の光チップ化に成功

2015-04-04

量子テレポーテーション心臓部の光チップ化に成功
−量子計算機など実用化へ前進−


1.発表者:古澤 明(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 教授、同ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構 教授兼務)


2.発表のポイント:
 ◆量子テレポーテーション装置の心臓部である量子もつれ生成・検出装置を光チップ化(図1,2)することに成功。
 ◆光チップの大きさは26ミリ×4ミリ(0.0001平方メートル)と、従来の1万分の1に縮小。
 ◆究極的な大容量通信や超高速コンピューターの実用化へ突破口を開く画期的成果。


3.発表概要:
 量子力学の原理を応用することで、現代技術の限界を超える究極的な大容量通信(量子通信)や超高速コンピューター(量子コンピューター)が実現できると予測されています。その実現には、光子に乗せた量子ビットの信号を転送する量子テレポーテーション(注1)の技術を確立することが最重要課題の一つです。しかし、従来の量子テレポーテーション装置は、大きな光学定盤上に何百もの光学素子を配置して実現されており、拡張性において限界に達していました。
 東京大学大学院工学系研究科の古澤明教授のグループとNTT先端集積デバイス研究所は、量子テレポーテーション装置の心臓部である量子もつれ(注2)生成・検出部分の光チップ化に成功しました。この光チップでは、これまで約1平方メートルの光学定盤上に非常に多くの光学素子を配置して構成していた量子もつれ生成・検出部分を、26ミリ×4ミリ(0.0001平方メートル)のシリコン基板に微細加工したガラスの光回路により実現しました。これは実に1万分の1の大きさに縮小したことになります。この成果は超大容量光通信や超高速量子コンピューターの実用化へ向けて突破口となるもので、拡張性の問題を一挙に解決しました。
 本研究はイギリス・ブリストル大学のオブライエン教授、サウサンプトン大学のポリティ講師との共同研究による成果で、文部科学省・先端融合領域イノベーション創出拠点の形成プログラムなどの支援のもとに行われました。


4.発表内容:
《研究背景》
 これまで目覚ましい進歩を遂げてきた現代の情報処理技術も、近年その性能が原理的限界に近づきつつあると言われています。一方で、量子力学の原理を応用した新しいタイプの情報処理(量子情報処理)により、従来技術の限界を超える究極的な大容量通信(量子通信)や、超高速コンピューター(量子コンピューター)が実現できることが予測されています。そのような量子情報処理の実現へ向けた最重要課題の一つが量子テレポーテーションです。これは、光子に乗せた量子ビットの信号を、ある送信者から離れた場所にいる受信者へ転送する技術です。量子テレポーテーションの応用は多岐にわたり、テレポーテーション装置をブロック単位として複数ブロック組み合わせることで、長距離間での量子通信や、光量子コンピューター回路などが構築できます。2013年に東京大学大学院工学系研究科の古澤教授らは完全な量子テレポーテーション実験に成功し、従来に比べ100倍以上の効率で量子テレポーテーションを行う方法を見つけました。しかし、この量子テレポーテーション装置は大きな光学定盤上に何百もの光学素子を配置して実現されており、拡張性において限界に達していました。

《今回の成果》
 今回、古澤教授らのグループは、量子テレポーテーション装置の心臓部である量子もつれ生成・検出装置の光チップ化に成功しました。この光チップでは、これまで約1平方メートルの光学定盤上に非常に多くの光学素子を配置して構成していた量子もつれ生成・検出部分を、26ミリ×4ミリ(0.0001平方メートル)のシリコン基板上に半導体微細加工技術を用いて作製される石英系光導波路回路(注3)として実現しています(図3)。これは、従来比で1万分の1の小型化に成功したことになります。古澤教授らは、この光チップを用いて量子もつれ光を生成し、その検出を光チップ内に配置された干渉計を用いたホモダイン検出(注4)により行い、量子もつれ生成を検証しました(図4)。今回の成功により、古澤教授らが2013年に成功した完全な量子テレポーテーションを光チップにより行うことが可能になりました(図5)。この成果は超大容量光通信や超高速量子コンピューターの実用化へ向けて突破口となるもので、拡張性の問題を一挙に解決しました。

《社会的意義と今後の展望》
 本成果により量子コンピューターの光チップによる小型化実現が一気に近づきました。今回用いられた石英系光導波路回路は広く実用化されている光通信用デバイス技術を応用したもので、小型化のみならず、光損失、組立精度・安定性の上でも、光チップ化により大きく前進します。次の段階としては、量子テレポーテーション装置全体を光チップ化することが挙げられます。

 尚、当研究室は、文部科学省による拠点形成事業「最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラム」の1つである「先端光量子科学アライアンス(APSA)」のメンバー。

5.発表雑誌:
 雑誌名:英国科学雑誌「Nature Photonics」〈2015年3月30日(英国時間)〉
 論文タイトル:Continuous variable entanglement on a chip
 著者:Genta Masada,Kazunori Miyata,Alberto Politi,Toshikazu Hashimoto,Jeremy L.O’Brien,and Akira Furusawa
 DOI番号:10.1038/NPHOTON.2015.42


■用語解説:

注1 量子テレポーテーションの応用:量子テレポーテーションを、量子ビットの情報を遠隔地へ送る通信手段とみなすと、量子通信への応用が考えられます。例えば、量子テレポーテーションを多段階に接続することで長距離での量子通信が可能になるという量子中継技術の提案がなされています。一方、量子テレポーテーション装置は、入力された量子ビットを、そのまま別の場所へ出力する、1入力1出力の処理装置だと考えることもできます。この装置を改造することで、入力に何らかの計算処理を施したものを出力することが可能となります。更には、複数の入出力を持つよう拡張し、大規模な計算処理も実装できます。このようにして、量子テレポーテーション装置を量子コンピューターに応用することも可能です。

注2 量子もつれ:2個以上の量子が、量子力学抜きには説明できない、特殊な相関を持っている状況を指します。この相関は量子同士が互いに離れていても成立します。量子テレポーテーションでは、送信者と受信者があらかじめ量子もつれを持つ量子(今回の場合、光子)を保有しており、その相関を利用することで、送信者が持つ量子の状態が受信者側の持つ量子へ転写されます。

注3 石英系光導波路回路:シリコン基板上に光ファイバと同様の縦横数μm(マイクロメートル)のコアと呼ばれる光を導き伝搬させる構造を半導体の微細加工技術を用いて形成することにより実現した小型で高性能な光チップです。LSIと同様に平面基板上に作製することで高精度かつ複雑な回路を実現できることから平面光波回路(PLC=Planar Lightwave Circuit)とも呼ばれています。一般家庭で使われている光通信や波長多重通信において光信号の分配に広く使われている光回路で安定した特性の光回路を大量生産することが可能で光ファイバと同様に光通信を支える重要な光部品となっています。

注4 ホモダイン測定:FMラジオにおける情報伝送方式を基にしており、光の電磁波としての性質を利用して、被測定光に載せた情報を読み取る方法です。ホモダイン測定で、観測する電磁波の属性は「位相」です。FMラジオで情報を伝達するためには、まず情報を載せる光(搬送波)の各位相を、観測すべき信号の分だけシフトさせます。これを搬送波のコピーを干渉させることで、元の信号の振幅と位相関係を復元する手法がホモダイン測定です。観測する位相(観測位相)を変えながら対応する振幅を得ることで、光子の有無のみを検出する従来手法より多くの情報を得ることができます。さらに、被測定光と搬送波のコピーを干渉させる際に、被測定光の信号を増幅するので、光子1つのような極微弱光でも高効率に測定することができます。ゆえに、原理的には100%の測定効率を得ることができます。


■添付資料:

 ※図1〜図5は添付の関連資料を参照




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