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東大、光による概日時計の時刻合わせと目覚ましの仕組みを解明

2011-03-12

光による概日時計の時刻合わせと目覚ましの仕組みを解明

発表者
 羽鳥 恵(東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻 元大学院生 米国ソーク研究所 生体調節研究部門 研究員) 
 廣田 毅(東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻 元特任助教 米国カリフォルニア大学 サンディエゴ校 生物科学部門 研究員) 
 深田 吉孝(東京大学大学院理学系研究科 生物化学専攻 教授) 
 

概要

 東京大学の羽鳥恵、廣田毅、および深田吉孝教授らは、光による概日時計の時刻合わせにSREBPという転写因子が関与することを解明しました。
 さらに、光で活性化したSREBPは松果体におけるステロイドホルモンの合成と分泌を促進し、行動量を上昇させることを発見しました。
 松果体という脳内器官はこれまで長い間、夜の睡眠促進ホルモンであるメラトニンを分泌することで知られてきましたが、これと同時に松果体は、目覚ましにも重要な生理的役割を果たすことが初めて示されました。 

発表内容

 図:光による概日時計の時刻合わせと目覚ましの仕組み
   ※ 関連資料参照

 生物は一日の時間を測る「概日時計(注1)」を体内に備えています。 概日時計は周囲の光環境の変化に同調するための時刻合わせ機能を持っていて、日暮れ後に光が当たると時刻を遅らせ、一方、夜明け前の光では時刻を進めます。 このように光を受ける時刻によって正反対の時刻変化を示すことは全ての生物の概日時計に共通した特徴ですが、その分子的な仕組みはよくわかっていませんでした。 

 そこで、羽鳥恵、廣田毅と深田吉孝教授らは、日暮れ後または夜明け前の光で活性化される遺伝子をDNAマイクロアレイ(注2)を用いて網羅的に探し、その遺伝子群の特徴に基づき、時刻によって異なる光応答を生み出すメカニズムに迫ろうと考えました。 ヒヨコの松果体(注3)を用いた解析の結果、コレステロールの生合成に関係する多数の遺伝子が日暮れ後の光で活性化されることが明らかになりました。 興味深いことにこれらの遺伝子の光応答は、E4bp4 遺伝子(注4)の光応答パターンと非常によく似ていました。 E4BP4は時計遺伝子Per2 を抑制して概日時計の時刻合わせをする重要な因子です。 そこで、光応答の元締めになる因子を探索した結果、コレステロール生合成系の遺伝子群を誘導する転写因子SREBP(注5)が日暮れ後の光によって活性化されること、そしてこのSREBPはE4bp4 遺伝子の転写を促進することを見つけました。 SREBPは日暮れ後における概日時計の光応答を生み出す鍵となる因子と考えられます(図)。 このような重要な結論と共に、新しい疑問が生まれました。 日暮れ後の光でE4bp4 遺伝子と共に活性化されたコレステロール生合成系の遺伝子群は、いったい何をしているのか、という疑問です。 解析の結果、松果体はコレステロールをもとに7α−ヒドロキシプレグネノロン(注6)という神経ステロイド(注7)を活発に合成・分泌することが判明しました。 日暮れ後に松果体を取り出して光を当てると7α−ヒドロキシプレグネノロンの分泌量が上昇し、ヒヨコ脳内に7α−ヒドロキシプレグネノロンを投与すると行動量が大きく上昇しました。 これらの結果から、神経ステロイドの分泌を介して目覚ましにも寄与するという「松果体の新しい生理機能」が明らかになりました(図)。 

 本研究は、時刻に依存して光で活性化される経路を明らかにしただけでなく、遺伝子発現が行動の変化を導く過程を明確に示しました。 メラトニンを介して睡眠を促進すると考えられてきた松果体が目覚ましにも寄与するという新たな知見は、今後、時差ボケの解消方法を見つけていく上でも重要な足がかりになると期待されます。 

 なお、本研究は早稲田大学、国立循環器病研究センター、東京大学大学院農学生命科学研究科、および山口大学との共同研究により行われました。 また、文部科学省の科学研究費補助金およびグローバルCOEプログラムなどの支援を受けました。 


発表雑誌

米国科学アカデミー紀要(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)誌
 タイトル:Light−dependent and circadian clock−regulated activation of sterol regulatory element−binding protein, X−box−binding protein 1, and heat shock factor pathways
著者:羽鳥恵*、廣田毅*、飯塚倫子、倉林伸博、原口省吾、小亀浩市、佐藤隆一郎、中井彰、宮田敏行、筒井和義、深田吉孝 (*同等貢献) 


用語解説

(注1)概日時計 
 約24時間の周期を持つ生物時計。睡眠・覚醒やホルモン分泌など生体内の様々な日周リズムをコントロールしている。 

(注2)DNAマイクロアレイ 
 遺伝子の発現量を網羅的に解析するための分析技術。今回用いたDNAマイクロアレイはニワトリのほぼ全ての遺伝子を解析できる。 
(注3)松果体 
 メラトニンという睡眠促進ホルモンを合成・分泌する脳内器官で、概日時計を持つ。鳥類などでは光に応答して概日時計の時刻合わせが起こる。 

(注4)E4bp4 遺伝子 
 転写因子E4BP4をコードし、時計遺伝子Per2 を抑制して概日時計の時刻を遅らせる。日暮れ後の光で活性化されるが、その分子メカニズムは不明であった。 

(注5)SREBP 
 コレステロールの生合成に関係する一連の遺伝子群を誘導する転写因子。普段は小胞体に存在するが、活性化されると核内に移動する。 

(注6)7α−ヒドロキシプレグネノロン 
 コレステロールから合成されるステロイドホルモンの一種。イモリやウズラの脳内に投与すると行動量を上昇させることが知られていた。 

(注7)神経ステロイド 
 脳内で合成されるステロイドホルモンの総称。多彩な生理活性を持つ。


 ※ 参考資料は、関連資料参照

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