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東大と北大、二枚貝の化石から先史の日射量を抽出することに成功

2015-03-10

二枚貝の化石から先史の日射量を推定
5千年前の日射量をおよそ3時間間隔で明らかに


1.発表者
 堀 真子(東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門特任研究員)
 佐野 有司(東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門教授)
 石田 章純(東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門特任研究員)
 高畑 直人(東京大学大気海洋研究所 海洋化学部門助教)
 白井 厚太朗(東京大学大気海洋研究所 附属国際沿岸海洋研究センター助教)
 渡邊 剛(北海道大学大学院理学研究院 自然史科学部門講師)


2.発表のポイント
 ◆これまでは、歴史文書のない時代の亜熱帯の日射量の変動は不明であった。
 ◆世界で初めて5000年前の日射量の変動を約3時間単位の精度で推定した。
 ◆過去の日射量のデータを推定することで、気候変動のメカニズムに迫ることが可能になると期待される


3.発表概要
 日射量は、気温や降水量などと同様、気候変動に伴って変化する重要な環境要素であるにも関わらず、古い時代についてはほとんど研究が進んでいない。それは、日射量と気温が連動して変化するので、地質試料に記録されるこれら2つを分離して抽出することが技術的に困難だったためである。
 一方で東京大学北海道大学の研究グループは、これまでに、飼育したシャコガイ(注1)の殻に含まれる微量なストロンチウム(注2)とカルシウムの比が日射量の変化と高い相関を示すことを、明らかにしている。化石化したシャコガイの殻でもストロンチウムとカルシウムの比を調べることによって、地質試料に記録される日射量と気温を分離して抽出できる可能性があった。
 今回、東京大学大気海洋研究所の佐野有司教授と堀真子特任研究員を中心とする東京大学北海道大学の研究グループは、二次元高分解能二次イオン質量分析計(ナノ・シムス(注3)を用いて化石シャコガイの殻に含まれるストロンチウムとカルシウムの比を解析し、5000年前の日射量を抽出することに成功した。また、5000年前の冬の日射量は現在と同じか、わずかに高かった可能性が示唆された。
 本成果は、過去の日射量の定量的評価に挑戦した新しい試みであり、今後、気温や降水量などの異なる気象のデータと併せて評価することで、気候変動メカニズムの詳細が明らかになると期待される。


4.発表内容
 [背景]
  地球の気温はさまざまな条件で変化するが、日射量はその重要な要因のひとつである。日光は植物の光合成に必要不可欠な要素であり、日射量は農作物の出来や不出来に大きく影響する。また、人間を含むほとんどの生物は昼と夜で行動様式が異なるため、日照サイクルは生物の行動様式にも影響を与える。このように、日射量は地球環境や生物に大きな影響を与える重要な環境要素である。そのため、気候変動やそれに対する生態系の応答を調べる上で、過去の日射量を理解することは非常に重要である。
  しかし、日射量に関する正確な観測データは、それほど長い期間の蓄積があるわけではない。そこで、サンゴや二枚貝など生物が形成する炭酸カルシウムの骨格に含まれる微量な元素や同位体組成から、その当時の環境を解析する手法が開発されてきた。実際、サンゴ骨格のストロンチウム含有量は、過去の水温の指標となることが広く受け入れられている。しかし、炭酸カルシウム骨格を用いて、過去の日射量を推定することに成功した例はこれまでなかった。それは、日射量と気温が連動して変化するために、これら2つを分離して抽出するのが技術的に困難だったためである。
  一方で東京大学北海道大学の研究グループは、これまでに、飼育したシャコガイの殻に含まれる微量なストロンチウムとカルシウムの比が日射量の変化と高い相関を示すことを、明らかにしている。化石化したシャコガイの殻ストロンチウムとカルシウムの比を調べることによって、地質試料に記録される日射量と気温を分離して抽出できる可能性があった。

 [研究内容]
  東京大学大気海洋研究所の佐野有司教授と堀真子特任研究員を中心とする東京大学北海道大学の研究グループは、沖縄県石垣島で、世界最大の二枚貝であるオオジャコ(Tridacna gigas)の化石(図1)を採集し、二次元高分解能二次イオン質量分析計(ナノ・シム)を用いて化石シャコガイの殻に含まれるストロンチウムとカルシウムの比を分析した。
  オオジャコが成長していた時代は、試料に含まれる放射性炭素の量から、紀元前3086−2991年と判明した。この時代は、気温が現在よりも高く、海水準が上がっていた中期完新世の終わり頃に相当する。オオジャコの成長速度は、年間数ミリメートルに及ぶので、2マイクロメートル(注4)の空間解像度で殻に含まれる微量な元素を分析すれば、2〜3時間という間隔で推定することができる。研究グループは、シャコガイ殻の切片から、約2年分の記録を抽出し、特に、明瞭な日輪(注5)が確認された冬の層のストロンチウム/カルシウム比を約3時間の高い時間解像度で分析することに成功した。
  分析の結果、殻に含まれるストロンチウム/カルシウム比は、成長速度が遅くなる夜間に上昇し、成長速度が早い日中に低下する明瞭な日周期変化を示した(図2)。特に明瞭な周期パターンが得られた2年分の冬のデータを解析したところ、最初の冬の平均単位時間当たり日射量は、2.60±0.17メガジュール毎平方メートルとなり(図3)、現在の晴天時の平均日射量に相当することが判明した。このことから、温暖期である中期完新世には、冬の日射量が現在と同じか、それよりもわずかに高かった(晴天が続いていた)可能性が示唆された。

 [今後の課題]
  今回の成果は1個体の2年分のデータから得られたものであるため、4000年ほど続いた中期完新世の平均的な値であるかどうかは、今後の残された課題である。同時代に成長した、別個体の化石を測定して再現性を確認するとともに、ヤンガードリヤス期(約1万年前)など、寒冷期に生息していた個体の化石にも研究を展開し、気候と日射量の関係を、気温や降水量などの異なる気象データと併せて評価することで、将来的に気候変動のメカニズムを明らかにする手がかりとなると期待される。


5.発表雑誌
 雑誌名:Scientific Reports
 オンライン掲載日:2015年3月4日
 論文タイトル:Middle Holocene daily light cyclereconstructed from the strontium/calcium ratios of fossil giant clam shell
 著者:M.Hori,Y.Sano,A.Ishida,N.Takahata,K.Shirai,T.Watanabe
 DOI番号:10.1038/srep08734


 ※用語解説・添付資料(図1〜3)は添付の関連資料を参照



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