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東大、Hes1を中心とした変形性関節症の制御機構の解明

2015-03-09

Hes1を中心とした変形性関節症の制御機構の解明


1.発表者:齋藤 琢(東京大学医学部附属病院 ティッシュ・エンジニアリング部
 骨・軟骨再生医療講座 特任准教授)
 田中 栄(東京大学大学院医学系研究科/医学部附属病院
 整形外科・脊椎外科 教授)


2.発表のポイント:
 ◆変形性関節症の発症・進行に関わる分子として新たにHes1とよばれるタンパク質をマウスにおいて同定し、その病態制御メカニズムを解明しました。
 ◆変形性関節症の強力な制御因子であるNotchシグナル(注1)の中心として、転写因子Hes1がさまざまなタンパク分解酵素や炎症性分子を誘導する機構を明らかにしました。
 ◆Notch・Hes1の一連のシグナルによる変形性関節症の制御機構が判明したことで、将来の治療標的となりうる候補分子が複数得られました。


3.発表概要:
 変形性関節症は高齢者の運動機能を脅かす代表的な疾患であり、膝関節だけで国内に2,530万人の患者がいると推定されていますが、根治療法は開発されていません。
 東京大学大学院医学系研究科/医学部附属病院 整形外科と同医学部附属病院骨・軟骨再生医療講座、同疾患生命工学センターの合同研究チームは、以前Notchシグナル(図1)が変形性関節症を強く制御することをマウスの実験によって発見し報告しました(プレスリリースhttp://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20130115.html)。
 今回、同チームの杉田守礼医師、田中栄教授、齋藤琢特任准教授らは、遺伝子改変マウスや次世代シーケンサーによる転写解析などを駆使して、Notchシグナルの中心として転写因子であるHes1タンパク質がさまざまなタンパク分解酵素や炎症性分子を誘導する機構を明らかにしました。さらに、本研究の成果から変形性関節症の治療標的となりうる候補分子が複数得られました。Notch・Hes1は神経系など多くの組織・臓器の構築に重要な役割を果たすことから、これらの知見は生物学の幅広い分野でも役立つことが期待されます。


4.発表内容:
 軟骨は2型コラーゲンやアグリカンといったタンパク質から成り立っており、これらを分解する酵素MMP−13やADAMTS−5は変形性関節症を発症・進行させます。本研究チームは、以前MMP−13を誘導するシグナルとして、Notchシグナルを同定しました(Proc Natl Acad Sci U S A.110:1875−80,2013)。成長後に軟骨細胞でのみNotchシグナルが働かなくなるマウスを作成し、変形性関節症モデル(注2)を作成したところ、変形性関節症の進行が抑制されたほか、Notchシグナルの阻害剤をモデルマウスの膝関節内に注射したところ、同様に変形性関節症の進行は抑制されました。しかしNotchシグナルが伝達していく際の詳しい分子機構は解明できていませんでした。
 それを解明するため、今回、同チームの杉田守礼医師、田中栄教授、齋藤琢特任准教授らは、軟骨細胞におけるNotchシグナルが伝達していく際の分子の発現を調べ、豊富に発現しているHes1タンパク質という転写因子に注目しました。成長後に軟骨細胞でのみHes1を働かなくなるマウスを作成し、変形性関節症モデルを作成したところ、変形性関節症の進行が著明に抑制されました(図2参照)。次世代シーケンサーやマイクロアレイを用いてHes1が誘導する遺伝子を探索したところ、上述のMMP−13やADAMTS−5のみならず、炎症性分子として知られるIL−6や、IL−33の受容体であるIL1RL1などが含まれることが分かりました。
 またHes1は一般的に遺伝子の転写を抑制する分子として知られていますが、変形性関節症の進行過程ではこのような遺伝子群の転写を促進することから、その仕組みを調べたところ、Hes1がカルモジュリンキナーゼと呼ばれる酵素によってリン酸化されることが分かりました。さらに、Hes1とカルモジュリンキナーゼの両者を強制発現させると、軟骨細胞においてMMP−13、ADAMTS−5、IL−6、IL1RL1などが強く誘導された一方、Hes1のリン酸化部位を機能しなくするとHes1はこれらの遺伝子の発現を誘導しなくなることから、Hes1はカルモジュリンキナーゼの影響を受けて転写促進因子に変貌することも分かりました(図3参照)。このHes1とカルモジュリンキナーゼの関係は2004年に培養細胞レベルで提唱されましたがその後実験によって確認されておらず、本研究は世界で初めて、この2つの分子の関係性を生体レベルで証明しました。
 Hes1、カルモジュリンキナーゼともに比較的多様な細胞、組織に発現していることから、この分子機構は関節軟骨以外でも何らかの役割を担っている可能性があります。またカルモジュリンキナーゼには多彩な阻害剤が開発されていることから、Notchシグナルとカルモジュリンキナーゼは変形性関節症の治療ターゲットとなりうると期待されます。研究グループでは、マウス、ラットを用いた検証実験を重ねるほか、大型動物での検証実験も計画しています。


5.発表雑誌:
 雑誌名:米国科学アカデミー紀要(Proc Natl Acad Sci U S A.)
 論文タイトル:Transcription factor Hes1 modulates osteoarthritis development in cooperation with calcium/calmodulin−dependent protein kinase 2
 著者:Shurei Sugita,Yoko Hosaka,Keita Okada,Daisuke Mori,Fumiko Yano,Hiroshi Kobahashi,Yuki Taniguchi,Yoshifumi Mori,Tomotake Okuma,Song Ho Chang,Manabu Kawata,Shuji Taketomi,Hirotaka Chikuda,Haruhiko Akiyama,Ryoichiro Kageyama,Ung−il Chung,Sakae Tanaka,Hiroshi Kawaguchi,Shinsuke Ohba,Taku Saito(*)

 ※用語解説・添付資料は添付の関連資料を参照



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