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東大、マンガを使った認知行動療法eラーニングにより働く人のうつ病を1/5に減らすことに成功

2015-01-16

マンガを使った認知行動療法eラーニングにより
働く人のうつ病を1/5に減らすことに成功


 1.発表者:川上憲人(東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 教授)
 2.発表のポイント:

 ◆マンガを使った認知行動療法(注1)によるストレスマネジメントeラーニングを新たに開発しました。
 ◆本eラーニングを受講した企業従業員は、調査期間後に遅れて受講した従業員に比べて1年間のうつ病の発症率が1/5に減ることを見出しました。
 ◆今後、職場におけるうつ病の予防が、低コストで、多くの従業員に一度に提供することができるeラーニングにより可能になることが期待されます。

3.発表概要:
 うつ病など働く人の心の健康問題(メンタルヘルス不調)の増加は、大きな社会問題となっています。これまでメンタルヘルス不調の従業員への相談対応や職場復帰の支援が行われてきましたが、最近ではその予防(未然防止)に関心が高まっています。個人向けのストレスマネジメントは従業員のストレスや気分を改善することがわかっていましたが、うつ病を予防できるかどうかを調べた研究は行われたことがありませんでした。
 東京大学大学院医学系研究科の川上憲人教授と今村幸太郎特任研究員は、うつ病の予防効果が知られている認知行動療法(注1)に着目し、これを安価で多数の従業員に提供するために、マンガを使った全6回のeラーニングを新しく開発しました。IT系企業の従業員のうちランダムに選ばれた381人にこのeラーニングを提供し、視聴を促したところ、調査期間後に遅れてeラーニングを提供した同数の従業員にくらべて1年間のうつ病の発症率が1/5に減少することを見出しました。
 本成果は、eラーニングによる認知行動療法がうつ病を予防することを明らかにした世界で初めてのものです。うつ病予防のためのeラーニングが広く企業に導入されることで、働く人の心の健康が大きく向上することが期待されます。
 なお、本成果は英国の専門誌「Psychological Medicine」に掲載される予定です。

4.発表内容:
【研究の背景・先行研究における問題点】
 働く人のうつ病などのメンタルヘルス不調が増加し、また高止まっていることは一般に知られています。これまでの個人向けのストレスマネジメントは、ストレスの知識を増やす効果に加えて、抑うつや不安を減らす効果があることはわかっていましたが、うつ病などの精神疾患を予防できるかどうかは調べられていませんでした。一方、これまで一対一の対面や集団での認知行動療法によって、うつ病のリスクが30%程度減少することが報告されていました。
 しかし対面や集団での認知行動療法を提供するにはコストがかかり、多数の従業員に広く提供することは困難です。そのため、低コストで簡易に認知行動療法を提供できる方法が求められていました。

【研究内容】
 東京大学大学院医学系研究科の川上憲人教授と今村幸太郎特任研究員は、日本の労働者を対象としたインターネット認知行動療法(iCBT)eラーニングプログラムを独自に開発し、このeラーニングプログラムのうつ病の予防効果を検証しました。
 川上教授らは、iCBTプログラムがうつ病を予防する効果があるかどうかを、無作為化比較試験(RCT、注1)の終了後6ヶ月時点(初回調査から12ヶ月時点)において追跡調査を行い、検討しました。日本のIT系企業であるA社の全社員(290人)と、同じくIT系企業であるB社内の3部門の社員(1500人)を対象に参加を呼び掛け、850人(47.5%)が初回調査に参加しました。(1)過去1ヵ月以内の大うつ病性障害に該当しない(web版 WHO−CIDI3.0を用いて検査)、(2)生涯の双極性障害に該当しない(web版 WHO−CIDI 3.0を用いて検査)、(3)過去3ヵ月の疾病休業日数が14日未満、(4)過去1ヵ月に精神科の受診をしていない(B社のみ))を満たした762人(42.6%)をランダムにiCBTプログラムを受講する介入群と同プログラムを調査期間後に遅れて受講する対照群に分け、介入群381人にiCBTプログラムの受講を促しました。
 iCBTプログラムは認知行動療法に基づくストレス対処の方法をマンガで提供するものです。全6回で、毎週1回の講義と宿題で構成され、学習は宿題も含めて1回30分程度です。未学習者には週1回学習を促すメールを送信しました。宿題提出は任意とし、提出した者には専門スタッフ(臨床心理士)からコメントを返しました。両群ともRCT終了後6ヵ月経過してから過去半年以内の大うつ病性障害の有無(web版 WHO−CIDI 3.0を用いて検査)を追跡調査しました。6ヶ月間のRCT終了後、対照群にも同様のiCBTプログラムを提供しましたが、未学習であることを通知するメールは送信せず、講義の視聴と宿題提出をともに任意としました。両群ともに初回調査から12ヶ月後に過去1年以内の大うつ病性障害の有無(web版WHO−CIDI3.0を用いて検査)について追跡調査を行い、うつ病予防効果の計算と解析を行いました。
 介入群と対照群中の男性はそれぞれ85.3%および82.4%、平均年齢(標準偏差)はそれぞれ38.0(9.2)歳および37.2(8.8)歳でした。追跡率は、6ヶ月後調査で介入群71.4%、対照群84.0%、12ヵ月後調査で介入群62.7%、対照群71.4%でした。両群における講義視聴の完遂および宿題提出について、介入群では全6回のうち3回以上eラーニングを視聴して学習した人は291人(76.4%)、3回以上宿題を提出した人は173人(45.4%)、平均視聴回数は4.53回、平均提出回数は2.65回でした。対照群では全6回のうち3回以上eラーニングを視聴して学習した人は66人(17.3%)、3回以上宿題を提出した人は41人(10.8%)、平均視聴回数は1.30回、平均提出回数は0.71回でした。統計解析の結果、両群でうつ病を発症する割合に有意な差がみられました。また、介入群における12ヶ月間のうつ病発症は対照群と比較して約1/5であったことが示唆されました。さらに、32人の従業員がiCBTプログラムを受講すると、そのうちの1名についてうつ病発症が予防できると推測されました。まとめると、iCBTプログラムを受講すると、12ヶ月が経過した時点で統計的に有意なうつ病予防効果が見つかりました。本結果は、iCBTプログラムが働く人のうつ病予防に有効である可能性を示しています。

【社会的意義・今後の予定】
 職場におけるうつ病の予防が、低コストで、多くの従業員に一度に提供することができるeラーニングにより可能になることには大きな意義があります。本成果や今後の研究をきっかけに、うつ病予防のためのeラーニングが広く企業に導入されることで、働く人の心の健康が大きく向上することが期待されます。今後は、現在のeラーニングを改良し、さらに大規模なRCTによってその効果を確認するとともに、認知行動療法を用いたeラーニングが働く人のポジティブなメンタルヘルスや生産性に与える効果についても研究を進めていく予定です。

5.発表雑誌:
 雑誌名:「Psychological Medicine」(オンライン版の場合:1月7日)
 論文タイトル:Does Internet−based cognitive behavioral therapy(iCBT)prevent major depressive episode for workers ? A 12−month follow−up of a randomized controlled trial
 著者:Imamura K,Kawakami N,Furukawa TA,Matsuyama Y,Shimazu A,Umanodan R,Kawakami S,Kasai K.
 DOI番号:http://dx.doi.org/10.1017/S0033291714003006
 アブストラクトURL:http://journals.cambridge.org/action/displayAbstract?fromPage=online&aid=9491709&fulltextType=RA&fileId=S0033291714003006
 以下でもアクセス可能
 http://journals.cambridge.org/psm/Kawakami
 http://journals.cambridge.org/article_S0033291714003006

6.注意事項:
 なし


 ※用語解説・添付資料は添付の関連資料を参照



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