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東北大など、絶縁体に光を照射してスピン流を創り出す新しい原理を発見

2015-01-15

絶縁体に光を照射してスピン流を創り出す新しい原理を発見
〜新原理・新機能のエネルギー変換技術開発に道〜


<ポイント>
 ・光からスピン流を生成できる新しい原理、現象を発見。
 ・光、熱、振動、電磁波などのさまざまなエネルギーを単一デバイスの駆動源として用いることが原理的に可能に。
 ・新しいエネルギー変換技術や融合研究分野の形成に貢献。

 JST戦略的創造研究推進事業において、東北大学 金属材料研究所の内田 健一 准教授らは、特定の金属微粒子を含む磁石に可視光を照射することで、スピン(注1)(磁気)の流れを生成できる新しい原理を実証しました。
 近年、持続可能な社会に向けた環境、エネルギー問題への取り組みが活性化する中、身近に存在する光、熱、振動、電磁波などをエネルギー源として利用するような、新しいエネルギー変換原理の創出が期待されています。例えば、クリーンで信頼性の高いエネルギー変換技術の候補として、太陽電池や熱電素子、圧電素子などを用いた発電技術が盛んに研究されています。
 今回、内田准教授らは、特定の金属微粒子への光照射で誘起される「表面プラズモン(注2)」と呼ばれる電子の集団運動を磁石の中で励起することで、光のエネルギーをスピン流に変換することに世界で初めて成功しました。また、これまでにスピン流を電流に変換する技術も確立しており、光のエネルギーから電流を生成する新たなエネルギー変換原理が創出されたことになります。
 これまでに確立されてきた熱や音波、電磁波によるスピン流生成と同様の材料で、今回実証した光−スピン流生成も発現することが分かりました。このことから、電流やスピン流の駆動力として同時に利用可能なエネルギー源の選択肢をさらに広げられることが明らかになりました。今後の研究の進展により、表面プラズモンとスピン流を融合した新しい研究分野の形成や、外部電源を必要としない電気、磁気デバイスの研究開発に貢献することが期待されます。
 本研究は、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構および金属材料研究所の齊藤 英治 教授(日本原子力研究開発機構 先端基礎センター 客員グループリーダー兼任)、日本原子力研究開発機構 先端基礎研究センターの前川 禎通 センター長、安立 裕人副主任研究員らと共同で行ったものです。

 本研究成果は、2015年1月8日(英国時間)発行の英国科学誌「Nature Communications」においてオンライン公開されます。
  本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
   戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)
   研究領域:「エネルギー高効率利用と相界面」
   研究総括:笠木 伸英(JST研究開発戦略センター 副センター長・上席フェロー/東京大学 名誉教授)
   研究課題名:「スピン流を用いた革新的エネルギーデバイス技術の創出」
   研究代表者:内田 健一(東北大学 金属材料研究所 准教授)
   研究期間:平成24年10月〜平成30年3月

<研究の背景と経緯>
 現在のエレクトロニクスは、電子の電荷の流れである電流によって機能しています。近年、電荷に加えてスピンの性質も積極的に利用する「スピントロニクス」が次世代電子技術の有力候補として注目を集めています。このスピントロニクスを用いれば、電源を切ってもデータが消えない不揮発性のメモリーを構築可能であり、MRAM(磁気抵抗メモリー)やSTT−RAM(スピン注入メモリー)などがすでに製品化されています。さらに、電荷の流れとして電流が用いられてきたように、21世紀初頭に磁気の流れである「スピン流」の概念が確立し、その物理的な重要性や電流を伴わないスピン情報輸送機能から、世界中でスピン流の生成、検出、制御技術に関する研究が進められるようになりました。
 このような状況の中、内田准教授らは2008年に磁性体に温度差をつけることによりスピン流が生じる現象「スピンゼーベック効果(注3)」を世界に先駆けて発見しました。2010年には、スピンゼーベック効果が金属や半導体のみならず絶縁体でも発現することが明らかになり、従来は利用できなかった絶縁体中の熱からもスピン流を取り出し、発電することを可能としてきました。2011年には、スピンゼーベック効果と同様の素子構造で音波からもスピン流を生成できることが見いだされました。
 これまでのスピン流に関する研究の大部分は、情報伝送、演算やメモリー応用を意図したものでしたが、これらの成果によってスピン流をエネルギー変換や発電技術に利用するという新しい概念が生まれました。スピン流を用いたエネルギー変換の性能は、既存の技術や素子の水準に達していないのが現状ですが、
  ・シンプルな薄膜構造のため、デバイスの設計自由度が高い
  ・デバイスの基板、筐体でしかなかった絶縁体を利用可能
  ・さまざまなエネルギー源を単一デバイス構造において同時利用可能
などの特徴があるため、特にスピンゼーベック効果を用いた新原理の熱電変換技術がにわかに注目を集めています。これまでに、半導体における光−スピン変換は実証されていましたが、絶縁体への光照射によるスピン流生成原理は実証されていませんでした。

<研究の内容>
 今回の研究の概念図を(図1(a))に示します。特定の波長の可視光によって誘起された表面プラズモンと呼ばれる電子の集団運動を用い、絶縁体磁石に埋め込んだ金微粒子(図1(b))近傍に強力な電磁場を発生させ(図1(c))、この電磁場によりスピンの運動を効果的に駆動させることで、絶縁体磁石における光−スピン流変換を初めて実現しました。
 本実験では、絶縁体である磁性ガーネット(BiY2Fe5O12)薄膜(注4)の表面に白金(Pt)薄膜を接合した素子を用いました。この素子はスピンゼーベック効果の研究においても用いられていますが、今回の研究で用いた素子は従来と異なり、磁性ガーネット層にナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの金(Au)微粒子を埋め込んだ構造となっています(図1(b))。この素子に分光した可視領域の単色光を照射しながら、白金層に発生する電気信号の精密測定を行いました。
 本研究で用いた素子に光を照射すると、入射光の波長が表面プラズモン共鳴条件を満たした際に金微粒子中の自由電子が集団運動し、それに伴って微粒子近傍に局在した強力な電磁場が発生します。すなわち金微粒子は光アンテナとして機能しており(図2(a))、増強された電磁場によって磁性ガーネット中のスピンの運動が励起された結果として、上部の白金薄膜中にスピン流が誘起されます(図2(b))。白金に注入されたスピン流は、「逆スピンホール効果(注5)」と呼ばれる固体中の量子相対論的効果によって起電力に変換されます。今回の実験では、この逆スピンホール効果によって生成された起電力を測定し、検出された信号が磁性ガーネットから生成されたスピン流に由来することを明らかにしました。さまざまな対照実験やシミュレーションを行うことで、光照射による発熱の効果を分離し、観測された信号は光が表面プラズモンを介してスピン流を励起する新しいプロセスによって生じていることを確認しました。
 これまでの手法では、熱、音波や電磁波を用いてスピン流を生成していました。光とスピンの相互作用については、これまで半導体を用いて研究されてきましたが、今回の実証した効果は全く異なる物理原理に基づくものであり、初めて絶縁体磁石における光−スピン流変換が可能になりました。

<今後の展開>
 本研究成果は、表面プラズモンをスピン流素子に導入した初めての例であり、これまで独立して研究されてきたスピントロニクス分野とプラズモニクス分野(注6)を融合した新しい研究分野の形成につながるものです。表面プラズモンとスピン流の相互作用に関する物理はこれまで全く研究されておらず、今後の研究によってさらなる新原理の解明や新機能の発現が期待されます。
 今回実証した光−スピン流変換原理を実際のデバイスにおいて利用するためには大幅な効率向上が必要ですが、応用面における本成果の重要な点は、光、熱、音波、電磁波といったさまざまなエネルギー源を同様の素子構造においてスピン流や電流に変換可能であることを示したことにあります。充電、取り替え、燃料補給なしで長期間エネルギー供給が可能な電源としてエネルギーハーベスティング技術(注7)に関する研究開発と実証が活発に行われていますが、その最大の課題は常時利用可能な動力源の確保であり、これを実現するために複数のエネルギー源を同時利用できるデバイス構造の開発が求められています。
 スピン流を用いれば単一デバイスにおいてさまざまなエネルギー源を同時利用できるため、次世代の分散型発電・省エネルギー技術やスピンデバイスの駆動源としての応用につながる可能性があります。


 ※参考図などは添付の関連資料を参照



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