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九大と東北大など、鉄原子42個からなるカゴ状磁性分子の合成に成功

2015-01-10

鉄原子42個からなるカゴ状磁性分子の合成に成功
〜巨大分子磁石の世界記録を樹立〜


<概要>
 九州大学、大連理工大学(中国)、高輝度光科学研究センター、熊本大学、九州工業大学、大阪大学、東北大学の研究グループは共同で、これまでに人工的に合成されたなかで、最も巨大な分子磁石(※1)となるカゴ状磁性ナノクラスター分子を開発することに成功するとともに、大型放射光施設SPring−8(※2)の世界最高クラスのX線装置(※3)と東北大学の強磁場実験施設を用いて、その複雑な分子構造と電子状態を解明しました。
 近年、分子エレクトロニクスへの応用を目指し、人工的に磁性分子を合成して巨大なナノスケール磁石を作る競争が世界的に展開されています。共同研究グループは、今回、鉄(Fe)原子42個から構成され、Feの原子磁石(※4)の間に、磁極の向きを揃えるような強磁性相互作用が働くナノクラスター分子を精密に設計・合成し、1分子がもつことのできる磁石の大きさの世界記録(90ボーア)(※5)を樹立しました。また、X線構造解析により、合成した磁性ナノクラスター分子がナノメートルサイズの中空のカゴ状構造をもつことを明らかにしました。カゴ状構造をもつ分子は、その空間を利用した分子貯蔵やナノサイズの化学反応容器(ナノフラスコ)としての応用が期待され、現在最も注目されている分子材料の一つです。
 本研究成果は、2015年1月6日(火)午前10時(英国時間)に、オンライン科学誌「NatureCommunications」に掲載される予定です。


■背景
 材料科学は、自然界にない新しい物質を創り出すことで、エネルギー、環境問題の解決や高度な情報社会の実現など、社会の持続的発展を支えるイノベーションに貢献しています。近年の材料科学においては、原子や分子をナノスケールで操作して新しい人工分子を合成し、画期的な機能を実現するナノテクノロジーが注目され、熾烈な新物質の開発競争が行われています。その中で、世界的な目標となっているのが、一つの分子で巨大な磁石を実現する分子磁性体の開発です。
 分子サイズの巨大磁石が実現すれば、従来の常識を越える高密度の磁気記録や分子特有の性質を利用した超高速な計算機などの開発が可能になり、分子レベルのチップを集積した分子エレクトロニクスの実現に繋がると期待されています。巨大分子磁石の実現のためには、できるだけ多くの原子磁石の向きを揃えた巨大分子を作る必要があります。しかしながら、原子の磁石は互いに打ち消すように反平行になることがほとんどであり、構成原子の磁石が揃って分子全体が強い磁石となる巨大な磁性分子を人工的に作ることは非常に困難な課題でした。


■内容
 本研究では、九州大学先導物質化学研究所の佐藤治教授らの研究グループのもつ先端的な合成技術により、分子の構造やFeイオン間の磁気的相互作用を精密に設計し、様々な合成条件を検討することで、原子磁石が互いに打ち消しあわず巨大な磁石となるFe42核ナノクラスター分子を創成することに成功しました。このナノクラスター分子は、磁性をもつ18個のFe原子(3価、高スピン状態)と24個の非磁性のFe原子(2価、低スピン状態)の計42個のFe原子を最適な配置に組み合わせることで、全体として磁石の向きが揃う特性を示します。その形状は、Fe原子間がシアノ基(※6)で架橋され、星形多面体の頂点に3価のFeが位置し、直径1.5ナノメートルの球状の中空構造をとります(図1、図2)。温度2Kでの磁化曲線の測定では、3価のFe原子同士が強磁性的に相互作用することで、磁石の大きさが90ボーアをとることが明らかとなりました(図3)。この値は、これまでに報告されている1分子が持つことのできる磁石の大きさの世界最高値です。磁気の元となる原子磁石の大きさは、自然界で最も大きな希土類元素でも10ボーアに留まります。今回、希土類や貴金属のような希少で高価な物質ではなく、地球にありふれて存在する、炭素、窒素、酸素、鉄などで構成された分子を用いて希土類原子の9倍という大きさの巨大な分子磁石の合成に成功し、世界記録を樹立しました。


 *図1〜図3は添付の関連資料を参照


■効果・今後の展開
 本研究で開発した巨大磁石特性を示すナノクラスター分子は、従来のサイズが不均一な磁性ナノ粒子とは異なり、大きさと構造が完全に均一な物質です。このような完全に均一な磁性ナノクラスター分子は、高密度記録材料などへの応用に適しています。また分子からなる磁性体は、設計性に優れているために、今後、今回の経験を生かして、異種金属や、より大きな金属原子数からなる多様な磁性ナノクラスター分子の開発が可能です。さらに、今回開発した分子は、ナノメートルサイズの中空のカゴ状構造をもっており、毒性の少ないFe原子を主成分としているため、磁場を用いて体の任意の場所に薬剤を運ぶドラッグデリバリーシステムへの応用も期待されます。


■発表雑誌
 雑誌名:Nature Communications 2015年1月号
 論文タイトル:A Ferromagnetically Coupled Fe42 Cyanide−Bridged Nanocage
 著者:Soonchul Kang,Hui Zheng,Tao Liu,Kohei Hamachi,Shinji Kanegawa,Kunihisa Sugimoto,Yoshihito Shiota,Shinya Hayami,Masaki Mito,Tetsuya Nakamura,Motohiro Nakano,Michael L.Baker,Hiroyuki Nojiri,Kazunari Yoshizawa,Chunying Duan,Osamu Sato
 DOI番号:10.1038/ncomms6955.


【用語説明】
(※1)分子磁石
 ナノスケールの分子単位で磁石となる物質の総称。世界的な開発競争が行われている。
(※2)大型放射光施設SPring−8
 兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光(X線)を生み出す理化学研究所の施設で、その運転管理と利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring−8の名前はSuper Photon ring−8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring−8の光は実験室のX線装置の10億倍の輝度に達する。この高輝度放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
(※3)X線
 原子サイズの波長をもつ光で、物質の構造の決定や分析に用いられている。
(※4)原子磁石
 原子を一つの磁石と見なしたもの。原子核のまわりを回る電子による原子レベルの磁石により磁性が生じる。
(※5)ボーア
 1ボーアは原子磁石の大きさの単位。自然界で、最も大きな希土類元素ジスプロシウム:Dy)で10ボーアを示し、これを超える大きい磁石は人工的に合成する必要がある。
(※6)シアノ基
 炭素原子と窒素原子が三重結合で結合した官能基。−CNで表される。





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