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ATRとNTTなど、ネットワーク型ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の技術開発に成功

2014-12-10

日常生活の支援を可能とする
ネットワーク型ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の技術開発に成功
〜脳を見まもる生活環境支援の実現〜


 株式会社国際電気通信基礎技術研究所(本社:京都府相楽郡精華町、代表取締役社長:平田 康夫、以下ATR)、日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦 博夫、以下 NTT)、株式会社島津製作所(本社:京都府京都市中京区、代表取締役社長:中本 晃、以下 島津製作所)、積水ハウス株式会社(本社:大阪府大阪市北区、代表取締役社長:阿部 俊則、以下 積水ハウス)、学校法人慶應義塾(本部:東京都港区、塾長:清家 篤、以下 慶應義塾大学)は、共同で「ネットワーク型ブレイン・マシン・インタフェース(以下 BMI)(※1)」の研究開発を推進し、一般の利用者が日常的に生活する場において、その活動を支援するための、新しいインタフェースとしてのBMIとその周辺技術の開発に成功しました。
 本研究開発は、総務省研究委託「脳の仕組みを活かしたイノベーション創成型研究開発(高精度脳情報センシング技術・脳情報伝送技術、実時間脳情報抽出・解読技術及び脳情報解読に基づく生活支援機器制御技術)」により実施しています。


1.研究背景

 *参考画像は添付の関連資料を参照

 この研究開発は、高齢者や体の不自由な方々の自立社会の実現に役立つ基本技術として、これまでの実験室環境だけで使えるBMIを実際の生活環境で利用できるようにするための技術の実現を目指してきたものです。本研究開発で実現するネットワーク型BMIは、人の日常生活の場である自宅や診療所などで、脳情報、環境情報などを携帯型の脳活動計測装置および各種センサで取得し、ネットワークを通じて大規模なデータとして伝送、解析することで、一般の生活環境において、特別な訓練や負担なしに利用できるBMIの実現を可能とします(図1)。


2.研究の成果
 従来のBMIの適用範囲を一般的な生活環境に拡張し、日常的に使用できる脳活動計測装置および環境に設置したセンサにより計測したデータをネットワークを通じて分析装置へ伝送してデータを解析することで、利用者の日常的な動作やコミュニケーションの支援を可能とするBMI(ネットワーク型BMI)を実現しました。脳活動に基づくことで、利用者が独力で移動支援機器や家電機器などの操作を可能とし、また、感情・情動の状態を介助者などへ伝達することができます。
 具体的には、一般の方が自宅などにおいて利用可能な小型・軽量の携帯型脳活動計測装置の開発に成功しました。これは、脳波計測(electroencephalography;EEG)(※2)と近赤外分光脳計測(near−infrared spectroscopy;NIRS)(※3)の組み合わせによるものです。計測された脳活動を、ネットワークを介してクラウド上あるいは環境内に置かれた脳活動データベースと照合する脳情報解析技術により、利用者の動作意図・情動状態(不快感など)を読み出します。利用者が、家電を操作するなど、生活の中で自然に体を動かす際に生じる脳活動をNIRSで捉え、その操作を支援します。また、利用者が不快に感じる際などの状態をEEGで検知し、それを介助者などへ伝えることができるようになりました。車いすなどの移動支援機器が室内を安全に移動するための移動支援機器の安全制御技術、また、BMI利用者の位置情報などを用いることでプライバシーやTPOに配慮したBMI支援を可能とするネットワークエージェント基盤技術、それらの動作検証・評価を行うため、脳情報を活用した日常生活を再現可能な環境である実環境実験設備(BMIハウス)の構築に成功しました。さらに、BMI利用者が体を動かしにくい状況では、脳活動と連動して身体装着型ロボットアクチュエータを動かすことで、利用者自身の動作をアシストすることができるようになりました。
 これらの技術により、高齢者や体の不自由な方々のみならず一般の方が日常的に生活する場において、その意図や情動を脳から読み取り、プライバシーなどに配慮しながら活かすことで、充実した生活につなげる新しいインタフェースにすることができました。
 なお、本技術の検証には独立行政法人情報通信研究機構の「新世代通信網テストベッドJGN−X」(※4)を利用しています。


3.ネットワーク型BMIを構成する技術開発の成果
 (1)携帯型脳活動計測装置(図2)
  島津製作所は言語・視覚・聴覚・運動などに伴う脳活動を、頭皮上から近赤外光を照射することによってリアルタイムで観測できるNIRS装置を開発および製造販売しています。今回、生活環境で利用者の脳活動を計測できるようにするために、NIRS装置をバックパック型ベストに収納、コンパクトかつ軽量化、また、脳活動計測データを無線で送信できるようにしました。
  慶應義塾大学では、脳活動を長時間かつ簡便に計測できるEEG装置を開発しました。従来のEEG電極では、しばしば頭皮へのクリームの塗付が必要でしたが、<1>ジェルシートを使うことで簡便に長時間計測が可能なEEG電極と、<2>クリームもジェルシートも使わないことで簡便に利用可能なEEG電極を開発し、それらの有効性を確認しました。アンプ部も、電池駆動式、かつ、てのひらサイズまで小型化され、NIRS装置との一体化が可能となりました。今後は、実環境での計測実験を進めつつ、産業展開を推進していきます。

 (2)ネットワークエージェント基盤技術(図3)
  脳情報・生体情報などに基づき生活支援を行うサービスでは、利用者の利用形態や状況などのTPOに応じて、脳情報解析プログラムやそのためのデータを蓄積・管理する場所を変更しなければならないということがあります。NTTは、この要求に応えるために、プログラムやそれが用いるデータを「エージェント」と呼ばれる部品に分割し、エージェントがどこのコンピュータ上に配置されていても、利用者の利用形態や状況に応じて、動的に組み合わせ・活用することができる情報処理基盤を開発しました。例えば、利用者が多様な機器が設置されているリビングにいる場合、クラウド上に処理エージェントを配置することで、大規模データを参照し多様な機器を高い解析精度・低遅延時間で制御するBMIサービスを提供し、一方で、利用者が機器の種類の少ない寝室に移動した場合、機器の種類の減少、また、寝室での脳活動はネットワーク上に流したくないなどの利用者のプライバシー要求に配慮するため、自宅内に設置されたコンピュータ上に処理エージェントを移動させることで、脳情報をネットワーク上に流すことなく、BMIサービスを継続します。また、情動状態の伝達時に、同等の機能を提供するエージェントの中から、同一家屋の中では電灯の制御、別家屋への伝達にはディスプレイに詳細情報の表示をするといった、TPOに応じて、情報の質・量を変えるようにプログラムを置き換えることも可能としました。
 今後は、エージェント配置や組み合わせの柔軟性を活かし、より汎用的なサービスへの適用を検討していきます。

 (3)実環境実験設備(BMIハウス)(図4)
  ATRと積水ハウスは、共同で実環境実験設備(BMIハウス)を構築し、住宅内での生活行動をBMI支援できるように、各種センサとアクチュエータ(生活支援機器)を配備、日常生活の場を想定した実証実験を行いました。高齢者、要介護者などの日常生活では、特に各種生活機器の操作や住宅内の移動、温度や照度などの環境制御に関するニーズが高いため、車いす利用者の日中自立生活のために必要な設計要件を確立しました。また、介助者と要介護者の間に生じるコミュニケーションの実態や問題点を把握するためのアンケート・ヒアリング調査を行い、これらに基づき、利用者の感情・情動状態を介助者などにスムーズに伝えるBMIコミュニケーション支援方式と、そこでの表示方式を開発しました。

 (4)脳情報解析技術(図5)
  ATRは、NIRSまたはEEGによる脳活動から、特別な訓練や負担なく、利用者の動作意図や情動状態を解読する技術を実現しました。利用者が日常生活の中で、テレビやエアコンを操作するといった動作意図に伴い自然に体を動かす際に生じる脳活動をNIRS装置で計測し、いかなる動作意図であるのか認識する技術を開発しました。この技術を用いることで利用者の意図に応じて環境を変えるといった生活支援を行うことができます。また利用者の脳波を計測し解析することにより情動状態(不快感)を捉える技術を開発しました。利用者が不快に感じている状態を検知し、それに応じた環境設定を行う、その状態を介助者に伝えるなど情動状態に基づく生活支援を行えるようになります。加えて、脳活動と連動して身体装着型ロボットアクチュエータを動かすBMIアクチュエーション技術を開発し、一般生活環境において利用者自身の上肢の動作をアシストすることができるようになりました。

 (5)移動支援機器の安全制御技術(図6)
  BMIを日常生活において利用するためには安全性の確保が不可欠です。ATRでは、ネットワークが断絶、あるいは、脳活動の解析結果が誤った場合でも安全に機器を制御するための技術を開発しました。これは、機器自身に搭載されたセンサによる安全性、環境側に設置してあるセンサによる安全性、さらに遠隔モニタリングによる安全性の3段構えによるものです。やや混雑した場所での移動支援機器単体の衝突回避、環境センサによる障害物認識、生体情報を利用した利用者の安心感の計測、利用者の視野を考慮した安心な移動経路計画を実現しました。今後、BMIハウスのみならず診療所などでの評価実験を進め、安心・安全に利用可能なBMI移動支援機器制御とします。


4.今後の展開(図7)
 本研究開発では一般の生活環境において、高齢者、要介護者のみならず一般の方々に対して、その意図を脳活動から読み取り家電の操作や環境の制御を行ったり、その情動状態を相手に伝えたりするなど、生活支援サービス実用化のための基盤技術を確立しました。この技術は、介護・介助を必要とする人だけを対象とするものでなく、「脳を見まもる」ことで、様々な場面で人々のコミュニケーションを豊かにし、個人として充実した生活を継続する環境づくりのための技術として期待されており、今後は各種サービスの実用化を目指していきます。


<用語解説>
 ※1 ブレイン・マシン・インタフェース(BMI)
  ロボットなどの機器を制御するために、従来のインタフェースでは利用者はスイッチなどを手足などで直接操作することで意図を伝えるのに対し、BMIでは利用者の脳活動に基づき推定された意図を用いる。手足などによる直接操作を不要としていることが特徴である。外科手術で脳内に電極を埋め込む侵襲型のBMI(欧米で研究が盛ん)と、頭皮にセンサを接触させるだけの非侵襲型のBMIがある。ブレイン・コンピュータ・インタフェース(brain−computer interface)とも呼ばれる。

 ※2 脳波計測(electroencephalography;EEG)
  脳内神経細胞の活動で生じる微少電圧を、頭皮につけた電極で非侵襲的に計測する脳活動計測法。

 ※3 近赤外分光脳計測(near−infrared spectroscopy;NIRS)
  脳内神経細胞の活動に伴う脳内の血流変化を、近赤外光を用いて頭皮上から非侵襲的に計測する脳活動計測法。

 ※4 新世代通信網テストベッドJGN−X
  独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が運用する、新世代の通信技術の実現および展開のための試験に使われるネットワーク。

 http://www.jgn.nict.go.jp/


<別紙・参考資料>
 >図1 概要
 >図2 携帯型脳活動計測装置
 >図3 ネットワークエージェント基盤技術
 >図4 実環境実験設備(BMIハウス)
 >図5 脳情報解析技術
 >図6 移動支援機器の安全制御技術
 >図7 今後の展開と将来イメージ

 *図1〜7は添付の関連資料を参照



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