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東北大、高温超伝導を担う電子が異常な秩序状態を形成することを解明
高温超伝導を担う電子の、異常な秩序状態を観測
−超伝導機構の解明に手掛かり−
<概要>
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の高橋隆教授、谷垣勝己教授、および同大学院理学研究科の中山耕輔助教らの研究グループは、新型鉄系高温超伝導体のモデル物質である鉄セレンにおいて、超伝導を担う電子が、異常な秩序状態を形成することを初めて明らかにしました。この発見は、鉄系高温超伝導体の超伝導機構を解明する鍵になると期待されます。
本研究成果は、米国物理学会誌 Physical Review Lettersに、平成26年12月5日(米国東部時間)付けでオンライン掲載されます。
<背景>
2008年に、東京工業大学の細野教授のグループによって、鉄を含む化合物で高温超伝導が発見されたのを契機に、類似の物質が次々と発見され、2008年の末には超伝導転移温度(Tc(*))が56K 注1)まで上昇しました。その後も世界的規模で研究が進められてきましたが、しばらくTcの最高値は更新されない状況が続いていました。しかし最近になって、単体ではTcが8Kの鉄系超伝導体の一種である鉄セレンという物質が大きな注目を集めています。それは、ある酸化物上で鉄セレンを極限(原子3個分の厚さ)まで薄くすることで、これまでの鉄系超伝導体におけるTcの最高値だけでなく、産業応用に向けた重要な目安となる液体窒素温度(77K)をも越える高温超伝導の可能性が報告されたためです。この高温超伝導の母体となる鉄セレンは、鉄系超伝導体の中で最も単純な結晶構造(図1)を持つことから、超伝導機構の解明に向けた基礎科学的な面でも、モデル物質として期待を集めています。高温超伝導が起こる起源を解明するためには、超伝導を担う電子の状態を調べることが重要ですが、高品質の鉄セレン結晶を作成することが極めて困難であったため、この物質の電子状態はこれまで明らかになっていませんでした。
*「Tc」の正式表記は添付の関連資料を参照
<研究の内容>
本研究グループは、鉄セレンの高品質単結晶の育成に成功し、外部光電効果 注2)を利用した角度分解光電子分光 注3)(図2)という実験手法を用いて、鉄セレンから電子を直接抜き出して、そのエネルギー状態を高精度で調べました。その結果、超伝導が発現するよりも高い温度(110K)で電子のエネルギー状態に大きな変化が起こり(図3)、伝導面(図1 右図)を縦方向に動く電子と横方向に動く電子で、動きやすさに違いが生じることを明らかにしました。さらに、このような異常な状態が、鉄セレンの結晶構造の変化が起こる温度(約90K)よりも高い温度(110K)で起こっていることも明らかにしました。これは、電子軌道の変化が、結晶構造の変化という外的要因によらず、自発的に引き起こされている可能性が高いことを示しています。鉄セレンでは、高温超伝導をはじめとする興味深い超伝導特性が報告されていますが、今回の研究によって、その背後に異常な秩序状態が存在することが明らかになりました。
<今後の展開>
今回の研究によって、鉄系超伝導体のモデル物質である鉄セレンでは、比較的高い温度で、電子の動きやすさに縦方向と横方向で違いが生じることが分かりました。
超伝導発現の基盤となる電子状態が確立したことで、超伝導機構の解明に向けた研究が進むと考えられます。また、異常な秩序状態と高温超伝導との関係を明らかにすることで、更に高いTcを持つ物質設計の指針が得られると期待されます。我々は現在、原子レベルで厚さや構成元素の種類を制御した超伝導体薄膜の開発を進めており、電子状態の研究を通して得られた設計指針に基づき、原子レベルで制御した薄膜を作成することで、更に高いTcを持つ物質の発見が期待できます。
本成果は、JSPS 科研費の基盤研究(S)「超高分解能スピン分解光電子分光による新機能物質の基盤電子状態解析」(研究代表:高橋 隆)や若手研究(B)「角度分解光電子分光による鉄系超伝導体の超伝導ギャップ対称性と擬ギャップ相図の解明」(研究代表:中山耕輔)などの助成を受けたものです。
※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
・用語解説
・参考図 図1〜3
・論文情報