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北大と愛媛大など、生殖細胞の数で性が変わる仕組みを発見

2014-12-04

生殖細胞の数で性が変わる仕組みの発見
〜生殖細胞がないと雄〜


<研究成果のポイント>
 ・異なる数の初期生殖細胞をもつゼブラフィッシュを作り,一定数以上の生殖細胞がなければ雌になれないことを示した。
 ・卵巣分化の指標となる生殖細胞の増殖と減数分裂への移行は生殖細胞の数により決まることを示した。


<研究成果の概要>
 魚類での雌と雄の決まり方は種ごとに非常に多様であることが知られています。今回の研究は,北海道大学愛媛大学,及びシンガポールのテマセク生命科学研究所の共同で,魚類の性分化における始原生殖細胞(卵や精子のもととなる細胞)の役割を調べました。通常は30−40個であるゼブラフィッシュの始原生殖細胞の数を顕微操作によって増減し,それぞれ操作された個体の性を調べました。その結果,1:1の性比となるには10個以上の始原生殖細胞が必要であり,それより少ない場合には性が雄に大きく偏り,始原生殖細胞を欠く個体はすべて雄になるという結果を得ました。すなわち,「個体の性が生殖細胞の量に依存して分化すること(始原生殖細胞量的性分化)」が明らかになりました。さらに,これらの個体での始原生殖細胞の増殖・分化過程及び,遺伝子の発現パターンを網羅的に解析したところ,未分化生殖腺が卵巣へ分化するための生殖細胞の増殖及び減数分裂への移行が,生殖腺へ移動した始原生殖細胞の数に依存することが明らかとなりました。


<論文発表の概要>
 研究論文名:Early depletion of primordial germ cells in zebrafish promotes testis formation.(ゼブラフィッシュ初期始原生殖細胞欠損による精巣形成促進)

 著者:氏名(所属)Keh−Weei Tzung(Reproductive Genomics Group,Strategic Research Program,Temasek Life Sciences Laboratory,Singapore)(*),後藤理恵(愛媛大学南予水産研究センター,前所属 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター七飯淡水実験所)(*),Jolly M.Saju(Reproductive Genomics Group,Strategic Research Program,Temasek Life Sciences Laboratory,Singapore),Rajini Sreenivasan(Reproductive Genomics Group,Strategic Research Program,Temasek Life Sciences Laboratory,Singapore),斎藤大樹(Research Institute of Fish Culture and Hydrobiology,Faculty of Fisheries and Protection of Waters,University of South Bohemia in Ceske Budejovice,Vodnany,Czech Republic,前所属 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター七飯淡水実験所),荒井克俊(北海道大学大学院水産科学研究院),山羽悦郎(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター七飯淡水実験所),Mohammad Sorowar Hossain(Reproductive Genomics Group,Strategic Research Program,Temasek Life Sciences Laboratory,Singapore),Meredith E.K.Calvert(Reproductive Genomics Group,Strategic Research Program,Temasek Life Sciences Laboratory,Singapore),Laszlo Orban(Reproductive Genomics Group,Strategic Research Program,Temasek Life Sciences Laboratory,Singapore)
 *第1及び第2著者の貢献は同等

 公表雑誌:Stem Cell Reports(国際幹細胞学会公式学術雑誌)

 公表日:米国東部時間 2014年11月26日(水)

 本研究は以下のサポートを受けています。
  文部科学省:科学研究費補助金若手研究(B)(18780140)
  Temasek Life Sciences Laboratory and the Agri−Food&Veterinary Authority of Singapore
  生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」(PROBRAIN)研究支援
  科学技術振興機構「女性研究者養成システム改革事業費・育児期間研究活動支援」


<研究成果の概要>
(背景)
 生殖腺は生殖細胞と体細胞から構成され,性的特徴を生み出す重要な器官です。一般に,ほ乳類では,生殖細胞のあるなしに関わらず染色体の組み合わせにより雄にも雌にも分化します。しかし,代表的モデル魚であるゼブラフィッシュでは,始原生殖細胞を取り除くと雄となることが知られています。このことは,生殖細胞の数によって性が決まる機構の可能性を示唆していました。しかし,生殖細胞を欠く個体がどのような仕組みで雄になるのか,いくつの始原生殖細胞があれば雌になるのか分かっていませんでした。本研究では,顕微操作技術を駆使して始原生殖細胞の数をコントロールすることで,性分化と始原生殖細胞の数の関係を調べました。さらに,始原生殖細胞を除去した個体,数を減らした個体,操作しない対照個体での遺伝子発現を網羅的に調べ,それぞれの性分化の過程で何が起こっているのかに迫りました。

(研究手法)
 生殖細胞の数と性の関係を調べるために,異なる数の生殖細胞をもつゼブラフィッシュを2つの方法で誘導しました。1つめは,遺伝子ノックダウンの方法で,生殖細胞の形成に必須であるdead end遺伝子の翻訳を阻害して一部の生殖細胞の細胞死を誘導しました。2つめは,遺伝子ノックダウンの方法で全ての生殖細胞の細胞死を誘導した後に,外から異なる数の生殖細胞を移植しました。これらの誘導個体において,性的二型が認められると考えられる初期段階で,発現遺伝子の網羅的解析を行い,性差を調べるとともに,成体での性的特徴から性を判定しました。

(研究成果)
 生殖細胞を部分的に欠損させた個体または異なる数の生殖細胞を移植した個体のどちらの実験系においても,雌雄の出現に同様の傾向が認められました。通常の30−40個の生殖細胞をもつゼブラフィッシュでは雌雄は1:1となりましたが,9個以下ではほとんど(8割以上)が雄となり,生殖細胞を完全に欠損した個体ではすべての個体が雄となりました。また,受精後14日のゼブラフィッシュでは,卵巣分化の最初の指標となる生殖細胞の増殖及び減数分裂が雌となる個体で観察されましたが,少数の生殖細胞をもつ個体では雄となる個体と同様に雄マーカー遺伝子の発現が認められました。このことから,未分化生殖腺が卵巣へ分化するための生殖細胞の増殖及び減数分裂への移行が,生殖腺へ移動した始原生殖細胞の数に依存することが明らかとなり,一定量以上の生殖細胞の存在が雌になるためには必要であることが示されました。

(今後への期待)
 本研究では,きわめて初期の生殖細胞が個体の性に与える影響を新たに見出しました。水産生物では,イクラやキャビアなど卵巣に価値のあるものや雌雄で体サイズの異なるカレイ類など,性によって商品価値の変わるものがあります。今回の成果は,始原生殖細胞を利用した性統御技術の開発につながることが期待されます。また,いかに生命が多様な性分化の仕組みを発達してきたかなど,生命の根幹に迫ることができます。



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