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東北大など、チタン酸ストロンチウム基板の表面電子状態を解明

2014-12-03

チタン酸ストロンチウム基板の表面電子状態を解明
−酸化物エレクトロニクスの高性能化に一歩前進−


 東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の濱田幾太郎助教(現独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)MANA研究者)と一杉太郎准教授の研究グループは、清水亮太日本学術振興会特別研究員らと共同で、超高分解能顕微鏡観察と第一原理計算の併用により、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)単結晶表面の表面電子状態の解明に初めて成功し、電子密度の空間分布がエネルギーに依存して変化していることを明らかにしました。
 チタン酸ストロンチウムを始めとした金属酸化物は、微細加工の限界に達しつつあるシリコンに代わるエレクトロニクス素子の基幹物質として注目されています。しかし、酸化物の表面構造を原子レベルで制御することが極めて困難なため、表面の原子配列と電子状態の理解が十分とはいえず、高性能化や実用化への障害となっていました。
 本研究グループはこれまでの研究で、試料の調製方法を最適化することにより、原子レベルで制御されたチタン酸ストロンチウム基板表面を作製することを可能にしています。本研究では、まず原子1つ1つが識別可能な走査型トンネル顕微鏡(*1)を用いて表面の観測を行ったところ、チタン原子と酸素原子が整然と並び、大小2つの穴が交互に並ぶ市松模様となっていることが分かりました。
 さらに、実験結果とは独立して物質の電子構造を計算する第一原理電子状態計算(*2)を組み合わせる手法を用いて、チタン酸ストロンチウム表面の電子状態を調べた結果、表面電子状態の空間分布がエネルギー状態によって、リング状から四葉のクローバー状へ変化することを明らかにしました。
 今回の研究成果は、原子レベルで制御されたチタン酸ストロンチウムの表面における原子配列と電子状態を初めて解明した画期的な成果であり、酸化物エレクトロニクスの発展につながるだけでは無く、酸化物表面や異種酸化物界面で発現する電気伝導性、磁性、超伝導といった物理現象のメカニズム解明にもつながります。
 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業・個人型研究(さきがけ):「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)の一環として実施されました。本研究成果は平成26年11月27日(米国東部時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン速報版で公開されます。


【研究の背景】
 金属酸化物は強磁性、金属−絶縁体転移、超伝導等、多彩な物性を示すことから、多機能かつ低消費電力エレクトロニクスを構築するための有望な材料です。金属酸化物をエレクトロニクスに応用する研究分野は酸化物エレクトロニクスと呼ばれており、一大研究分野になっています。今回の研究対象であるチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)は、酸化物エレクトロニクスにおいて、既存のシリコン半導体エレクトロニクスにおけるシリコンと同じく、デバイス構築の際の基幹材料に位置づけられる最重要材料の1つです。
 デバイスの設計・作製においては、物質中に存在する電子が、どのようなエネルギーと空間的な広がりをもつかが重要になります。これを電子状態と呼び、電気伝導性、光学特性などの物性を決定します。電子状態は物質を構成する原子の配列や結合状態など、原子レベルの構造に大きく左右され、シリコン半導体ではこの構造・電子状態が実験と第一原理電子状態計算と併せて精緻に理解されています。一方で、金属酸化物ではこれらの理解は遅れているのが実情です。
 また近年では、SrTiO3を代表としたペロブスカイト酸化物(*3)を用いた人工的な界面構造を作製することにより、電気伝導性、磁性、強誘電性、超伝導などの新奇物性を創出する研究が盛んに行われています。一般に、物質内部では、電子状態は方向に強く依存しない三次元的な性質を示すのに対して、薄膜状の界面では、その界面に平行か垂直かで大きな違いが生じるために、内部では見られない物性が発現します。代表例としてアルミン酸ランタン(LaAlO3)とSrTiO3を接合させた界面が挙げられ、どちらも絶縁体でありながら界面において高い電気伝導性が生じることが知られています。このような特異な物性発現は、物質内部の周期的な原子の構造が、界面では崩れることに由来することが示唆されています。しかしながら、基板となるSrTiO3ですら原子レベルの秩序を有した表面の作製が困難であり、その構造・電子状態を原子スケールの空間分解能で観察した報告はなく、基礎的な理解が遅れている要因の1つとなっていました。


【研究の内容】
 本研究グループは、物質内部の構造の周期性が崩れる最も単純な系としてSrTiO3基板の再構成表面(*4)に着目しました。その表面構造及び電子状態を、走査型トンネル顕微鏡(STM、図1参照)を用いて原子レベルで観察し、その結果と第一原理電子状態計算とを併用して表面の電子状態を考察しました。
 図2に、STMで観察したSrTiO3基板表面の像と構造を示します。明暗の2つの正方形が交互に並んだ市松模様が観察され、原子が整然と並んだ状態であることを示しています。
 これは表面のみに存在する二酸化チタン(TiO2)の層が、大小2種類の穴をもつように配列していることに由来していると考えられています。続いて、STMを用いて、基板表面にどのようなエネルギーを持った電子がどの程度の密度で空間分布しているか観察しました。
 電子密度の分布状態は電子のエネルギーの大きさに依存して変化しており、エネルギーが比較的低い状態(フェルミ準位(*5)から+1.0eV離れた領域)ではリング状の形状、それよりエネルギーが大きい場合、四つ葉のクローバー状の形状をとることがわかりました(図3)。
 第一原理電子状態計算により表面の構造を決定し、その構造を用いて電子状態を再現すると、同様のエネルギー依存性をもつ電子密度分布の形状変化が再現されました。物質内部では同じエネルギーであるチタンの3つの電子軌道(dxy,dyz,dzx)が、物質表面では軌道によってエネルギーが異なっているのです。そして、電子エネルギーが小さい場合は表面内方向に分布するdxy軌道が安定化し、その空間分布がリング状の形状であることがわかりました。一方、エネルギーが高い状態では、表面垂直方向成分をもった軌道(dyz,dzx)に由来した空間分布を示していることを見出しました(図4)。


【今後の展開】
 原子レベル分解能で電子密度の空間分布を実空間観察し、第一原理電子状態計算と比較することで、物質内部の原子の対称性が破れる表面及び界面において、電子のエネルギーによって電子密度の空間分布が異なることが明らかとなりました。また、この表面における空間分布の違いは、垂直方向の電子軌道と水平方向の電子軌道のエネルギーが異なるためであることを示しました。このような電子の振る舞いを原子スケールで理解することで、新たな人工酸化物界面を創製し、ひいてはその新奇物性の制御が期待できます。これら表面や界面の理解は、触媒、あるいはリチウムイオン電池などのエネルギーデバイスの原理とも密接に関連しており、それらの特性の向上にもつながると予想されます。今後は、真の原子スケールで設計された構造や電子状態と、マクロ物性との相関を明らかにすることが望まれます。


【付記事項】
 本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「新物質科学と元素戦略」(研究総括:細野秀雄)研究課題名「酸化物エレクトロニクスパラダイムシフトを目指したアトムエンジニアリング」(研究者:一杉 太郎)の支援を受けて、また一部は科学研究費補助金・若手研究(A)「d電子系透明導電体・材料設計指針の再構築」、基盤(A)「LaAlO3/SrTiO3 ヘテロ構造の原子スケール電子状態」の支援を受けて行われました。


 ※以下の資料は添付の関連資料「参考資料」を参照
  ・図1〜4
  ・用語解説
  ・論文情報



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