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東大など、インフルエンザウイルスの増殖に関わる宿主たんぱく質を発見

2014-11-27

インフルエンザウイルスの増殖に関わる宿主たんぱく質を発見
〜新たな抗ウイルス薬の開発に道〜


<ポイント>
 ・インフルエンザウイルス増殖に関わる宿主たんぱく質はほとんど分かっていなかった。
 ・ウイルス増殖に関わる宿主たんぱく質と、それぞれがウイルス増殖サイクルのどのステップに作用するかを同定した。
 ・宿主たんぱく質の機能阻害剤が、抗ウイルス薬として有効である可能性を示した。

 JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学 医科学研究所の河岡 義裕 教授と渡邉 登喜子 特任准教授らは、インフルエンザウイルスの増殖に関わる約300個の宿主たんぱく質を同定し、それぞれのウイルス増殖サイクルにおける作用を決定することに成功しました。また、数種類の宿主たんぱく質の機能阻害剤が抗ウイルス効果を示すことを明らかにしました。
 現在の抗ウイルス薬は、特定のウイルスたんぱく質の働きを抑えるため、ウイルス遺伝子の変異によって、薬剤耐性ウイルスができることが課題です。そのため、インフルエンザウイルスのたんぱく質に作用せずにウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬の開発が期待されています。しかし、インフルエンザウイルスの増殖に関わる宿主たんぱく質は、これまでほとんど明らかになっていませんでした。
 本研究では、免疫沈降法(注1))と質量分析法(注2))を組み合わせて、11個のインフルエンザウイルスたんぱく質と結合する1,292個のヒトのたんぱく質(宿主因子)を同定しました。この1,292個の宿主因子の発現を抑えた細胞に、インフルエンザウイルスを感染させてウイルスの増え方を確認し、ウイルスの増殖に関わる323個の宿主因子を同定しました。そのうち91個の宿主因子を詳細に解析し、ウイルスが増殖する仕組みのどのステップで作用しているかを解明するとともに、いくつかの宿主因子の機能阻害剤はウイルス増殖を顕著に抑制することを明らかにしました。本研究成果は、インフルエンザウイルスの基礎研究領域において今後長年にわたって利用される非常に有用な情報であると考えられます。
 なお、本研究成果をもとに、革新的先端研究開発支援事業において「インフルエンザ制圧を目指した次世代ワクチンと新規抗ウイルス薬の開発」プロジェクトが本年より開始されており、革新的なインフルエンザ治療薬の開発などが期待されます。
 本研究は、東京大学、米国ウィスコンシン大学宮崎大学と共同で行ったものです。本研究成果は、2014年11月20日(米国東部時間)、米国科学雑誌「Cell Host and Microbe 」のオンライン速報版で公開されます。

<研究の背景と経緯>
 インフルエンザは毎年冬になると流行し、乳幼児や高齢者を中心に多数の犠牲者を出し、社会的な問題となっています。また数十年に一度出現する新型インフルエンザウイルスは、世界的流行(パンデミック)を引き起こし、甚大な被害をもたらします。現在、インフルエンザの治療には、タミフルなどの抗ウイルス薬が使われていますが、それらの薬剤は、ある特定のウイルスたんぱく質の働きを抑えるため、ウイルス遺伝子の変異によって、薬が効きにくくなる耐性ウイルスができるという問題をはらんでいます。そのため、インフルエンザウイルスのたんぱく質に作用せずにウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬の開発が期待されています。
 ウイルスは、細菌のように自力で増殖できず、ヒトなどの細胞(宿主細胞)に感染し、宿主細胞内のたんぱく質の働きを利用して、ウイルスを複製し、増殖します。このメカニズムから、ウイルス増殖に必要な宿主たんぱく質、つまりヒトなど感染を受ける側が持つたんぱく質とウイルスとの相互作用を抑えるような薬剤は、有効な抗ウイルス薬となる可能性があります。しかしながら、インフルエンザウイルスの増殖に関わる宿主たんぱく質は、これまでほとんど明らかになっていませんでした。

<研究の内容>
 本研究グループは、インフルエンザウイルスたんぱく質と結合するヒトたんぱく質を網羅的に探索しました。まず、インフルエンザウイルスに感染するヒトの培養細胞(ヒト胎児腎株化細胞:HEK293)に、11種類のインフルエンザウイルスたんぱく質を別々に発現させ、ウイルスたんぱく質を免疫沈降させました。そして、ウイルスのたんぱく質とともに免疫沈降したヒトのたんぱく質の質量分析を行い、11種類のインフルエンザウイルスたんぱく質と相互作用する1,292個(重複を除く)のヒトのたんぱく質(以下、宿主因子)を同定しました(図1)。
 続いて、インフルエンザウイルスたんぱく質と相互作用する宿主因子がインフルエンザウイルスの増殖にどのように関係しているのかを調べるため、同定した1,292個の宿主因子それぞれにsiRNA(注3))を導入し、遺伝子発現を抑制した細胞を作製しました。そして、この細胞にインフルエンザウイルスを感染させ、48時間後の培養上清中のウイルス力価を測定した結果、インフルエンザウイルスの増殖効率に影響を与える323個の宿主因子を同定しました(図1)。
 次に、323個の宿主因子が、インフルエンザウイルスの増殖サイクルのどのステップに関わるかを調べました。この実験では、インフルエンザウイルスたんぱく質と結合し、ウイルス増殖に関わる宿主因子のうち、siRNA処理によって1/1,000以下にウイルス増殖を低下させた91個の宿主因子に着目しました。詳細に解析した結果、ウイルス増殖に関わると同定できたのは69個でした。具体的には、〔1〕ウイルスの細胞への吸着・侵入からウイルス遺伝子の転写までのステップに関わると考えられる宿主因子、〔2〕転写・複製のステップに関わると考えられる宿主因子、〔3〕ウイルスたんぱく質が細胞内の特定の場所に存在あるいは機能すること(局在化)に影響を与えると考えられる宿主因子、〔4〕ウイルス粒子の放出のステップに関わると考えられる宿主因子、〔5〕ウイルス粒子中へのウイルスゲノムの取り込みに関わると考えられる宿主因子を同定することができました(図1、図2)。
 さらに、siRNAで同定された323個の宿主因子の機能阻害薬が抗ウイルス薬として有効であるかどうかを調べたところ、JAK1/JAK2(ヤヌスキナーゼ)(注4))阻害薬であるRuxolitinib(ルキソリチニブ)、および、GBF1(ゴルジ体特異的ブレフェルジン耐性グアニンヌクレオチド交換因子1)(注5))の阻害剤であるGolgicideA(ゴルジシドA)がウイルス増殖を顕著に抑制することが明らかになりました。

<今後の展開>
 本研究は、インフルエンザウイルスの増殖に関係する323個の宿主因子を同定することに成功しました。そのうち91個の宿主因子について、ウイルス増殖サイクルのどの段階に作用しているのかを調べました。また、323個のうち、いくつかの宿主因子の機能阻害剤に抗ウイルス効果があることが示されました。本研究成果は、インフルエンザウイルスの基礎研究領域において、インフルエンザウイルスの増殖や感染のメカニズムを明らかにするために、今後長年にわたって利用される非常に有用な情報であるとともに、インフルエンザ治療薬開発の重要なターゲットにもなると期待されます。

<参考図>

 ※添付の関連資料を参照

<用語解説>
 注1)免疫沈降法
 免疫沈降反応(可溶性の抗原と抗体が特異的に反応して不溶化し沈殿する反応)を利用して抗原を検出、分離、精製する実験手法のこと。

 注2)質量分析法
 各種のイオン化法で物質を原子、分子レベルの微細なイオンにし、その質量数と数を測定することにより、物質の同定や定量を行う方法のこと。

 注3)siRNA
 siRNA(small interfering RNA)とは21−23塩基対から成る低分子二本鎖RNAである。siRNAはRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象に関わっており、メッセンジャーRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。

 注4)JAK1/JAK2(ヤヌスキナーゼ)
 非受容体型チロシンキナーゼの1つ。JAKは、機能や遺伝子の位置の違いからJak1、Jak2、Jak3、Tyk2に分けられ、それらの多くは細胞増殖、生存、発達そして分化に関与しており、特に免疫細胞や血球系細胞において重要な役割を果たしている。

 注5)GBF1(ゴルジ体特異的ブレフェルジン耐性グアニンヌクレオチド交換因子1)
 Gたんぱく質に作用し、GDPとGTPとの交換を促進するたんぱく質で、Gたんぱく質が関与する細胞内信号伝達経路を調節するたんぱく質群の1つ。

<論文タイトル>
 “Influenza virus−host interactome screen as a platform for antiviral drug development”
 (抗ウイルス薬開発へ向けたインフルエンザウイルスと宿主とのインタラクトーム解析)



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