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北海道大、ES細胞から分化誘導した免疫抑制細胞により拒絶反応を抑えることに成功

2014-11-27

ES細胞から分化誘導した免疫抑制細胞により
拒絶反応を抑えることに成功
〜多能性幹細胞を用いるこれからの再生医療時代における
新しい免疫制御法を提案〜


<研究成果のポイント>
 ・ES細胞から再生医療に用いる移植片と免疫抑制細胞を作製。
 ・移植実施に際して,ES細胞由来免疫抑制細胞による前処置により拒絶反応を抑制することに成功。
 ・ES細胞iPS細胞を用いるこれからの再生医療時代において予想される課題を克服する方法を
提案。


<研究成果の概要>
 ES細胞iPS細胞等の多能性幹細胞は,様々な種類の細胞に分化することのできる細胞であり,再生医療への応用が期待されています。他人の臓器や細胞を移植すると免疫の働きにより拒絶反応が生じ体内から排除されてしまうため,免疫系の制御が非常に重要です。同じことが多能性幹細胞から作り出した細胞や組織を移植する場合にも当てはまります。北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野の工藤浩也特別研究学生,和田はるか講師,清野研一郎教授らの研究グループは,多能性幹細胞から作り出した細胞や組織を移植医療に用いるようなこれからの再生医療時代に必要とされる免疫制御法を提案し,検証しました。同研究グループは,マウスES細胞から再生医療に用いる細胞(移植片)とともに免疫系を抑制する細胞の両方をつくり,他者間移植における拒絶反応を抑制する方法を考案しました。他者の関係にあたるマウスへの移植片移植に先立ってその免疫抑制細胞を投与することで,移植片の生着期間(移植片が拒絶されずに体内に留まっていた期間)を延長させることに成功しました。


<論文発表の概要>
 研究論文名:Induction of Macrophage−Like Immunosuppressive Cells from Mouse ES Cells That Contribute to Prolong Allogeneic Graft Survival(マウスES細胞からのアログラフト生着延長に寄与するマクロファージ様免疫抑制細胞の誘導)
 著者:工藤浩也(1),和田はるか(1),佐々木元(1),辻飛雄馬(1),大塚 亮(1),バグダーディームハンマド(1),香城 諭(1),力石辰也(2),清野研一郎(1)(1 北海道大学遺伝子病制御研究所免疫生物分野,2 聖マリアンナ医科大学腎泌尿器外科)
 公表雑誌:PLoS ONE
 公表日:米国東部時間 2014年10月30日(木)オンライン公開


<研究成果の概要>
 (背景)
  ES細胞iPS細胞等の多能性幹細胞は,様々な種類の細胞に分化することのできる細胞であり,再生医療への応用が期待されています。患者本人から作り出されたiPS細胞の場合を除き,多能性幹細胞と治療を受ける患者の関係は"他人"となります。他人同士の関係にあたる臓器や細胞を移植すると,体内に備わっている免疫機構により拒絶反応が生じ,移植された臓器や細胞は体内から排除されてしまうことから,移植医療においては免疫機構の制御が大変重要です。同様のことは多能性幹細胞から作り出した組織や細胞を用いた治療を行う際にも当てはまります。そこで研究グループは,多能性幹細胞由来の細胞や組織を移植片として用いるような,これからの時代の再生医療にふさわしい新しい免疫制御法を考案しました。具体的には,多能性幹細胞から再生医療用の細胞と拒絶反応を抑えるための免疫抑制細胞の両方を作り,免疫抑制細胞で被移植者を前処置することにより拒絶反応を抑制するという方法です。

 (研究手法)
  他人由来の多能性幹細胞から作られた細胞や組織を移植医療に用いることを想定し,マウス実験を行いました。再生医療用の細胞及び免疫抑制細胞を作るための多能性幹細胞としては129/SvJ系統のマウスES細胞を,移植を受けるマウスとしてC3H系統のマウスを準備しました。両マウスは互いに他者の関係にあたります。
  研究チームは,まずマウスES細胞から免疫抑制細胞を分化誘導する方法を新規に確立しました。
  また移植実験を行うにあたり,同ES細胞から胚様体と心筋様細胞を分化誘導し,再生医療用細胞(移植片)のモデルとして準備しました。移植を受けるC3HマウスにあらかじめES細胞から誘導した免疫抑制細胞を注射して前処置を行った後に,移植片を移植する群,免疫抑制細胞を注射せずに移植片を移植する群とで,その生着期間(移植片が体内に存在する期間)を比較検討しました。

 (研究成果)
  研究チームはまず,新たに確立した方法で作ったES細胞由来の免疫抑制細胞の性状を詳細に解析しました。このES細胞由来免疫抑制細胞はマクロファージ1)に似た特徴を有しており,さらに免疫系を抑制する活性があるとして知られているArginase1,Nos2,Tgfβ1等の分子を強く発現していました。また,他者の細胞に反応してT細胞が増殖することが移植片の拒絶に深く関わっていることが知られていますが,この免疫抑制細胞はそのT細胞の増殖を抑える働きを持っていることがわかりました。このT細胞増殖抑制効果は,Nos2遺伝子にコードされている誘導性一酸化窒素合成酵素の働きにより生じていることがわかりました。
  続いて行ったマウスを用いての移植実験では,ES細胞から作った免疫抑制細胞を投与した後,同じES細胞から作った移植片を移植すると,免疫抑制細胞を投与していなかった場合に比べ,移植片の生着期間が有意に延長することがわかりました。

 (今後への期待)
  本研究により,多能性幹細胞ES細胞)から再生医療用の細胞を作ると同時に免疫抑制性の細胞も作製し,再生医療用の細胞の移植に先立ち免疫抑制細胞を投与しておくことで,再生医療用の細胞に対する拒絶反応を抑えることが可能であることが示されました。また原理的には同様のことが多能性幹細胞としてiPS細胞を用いた場合にも適用可能であると考えられます。今後,iPS細胞等の多能性幹細胞から作り出された細胞を用いての再生医療が盛んに行われるようになることが予想されています。iPS細胞を用いた再生医療においては基本的には他人由来の細胞の移植となるため,拒絶反応をいかに抑えるかが重要なポイントとなります。本研究は,多能性幹細胞から再生医療用の細胞だけでなく免疫を制御する細胞も同時に作り出して拒絶反応を抑止するという新しいコンセプトを提案しただけでなく,それが有効であることを実証した初めての例であり,多能性幹細胞を用いるようなこれからの時代の移植医療での実践応用が期待されます。

 [用語解説]
  1)マクロファージ
   大型でアメーバ状の免疫細胞の一種。通常は異物の貪食や抗原提示を担う。様々な炎症反応や免疫の制御に関与している。



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